内藤了「ネスト・ハンター」=憑依作家は「家庭」を奪う悪魔をおびき出す

自らの作品の主人公に成りきって年齢・風貌も変化する、正体不明の人気推理作家・雨宮縁が、大手出版社「黄金社」の担当編集者・真壁、フリーの装丁作家兼カメラマンの蒲田を使って、隠されていた殺人事件の犯人に周到な罠を張ってあぶり出していくクライム・ミステリー「憑依作家・雨宮縁」シリーズの第二弾が『内藤了「憑依作家・雨宮縁「ネスト・ハンター」(祥伝社文庫)』です。

前巻では、老齢で白髪の長屋の大家・東四郎、熟女のマダム探偵・響鬼文香、銀髪のサイコパス・キサラギと作品の主人公そっくりの姿で登場する正体不明の雨宮縁の登場と彼の秘書+担当編集者+カメラマンによる、他人の笑顔を狩る殺人鬼「スマイル・ハンター」をはめ返す物語が描かれたのですが、今回はシングルマザーの家庭に侵入してきて、殺人を重ねるサイコパス退治が展開されます。

あらすじと注目ポイント>憑依作家は「家庭」を奪う悪魔をおびき出す

構成は

プロローグ
第一章 パパ
第二章 新作の打ち合わせ
第三章 有楽町ガード下あたり
第四章 雨宮縁私設捜査班
第五章 ネスト・ハンター
第六章 理想的な巣(ネスト)
第七章 チーム縁のトラップ
エピローグ

となっていて、冒頭では、黄金社が主催する雨宮縁の「東四郎」シリーズのサイン会の準備の様子が描かれます。担当しているのは、縁の担当編集者の真壁とDVの夫から逃れてこの黄金社でアルバイトをしている岡田というシングルマザーの女性です。

岡田も雨宮縁のファンなので時間が許せばサイン会に参加したかったようなのですが、子供の迎えがあるので断念。真壁が代わりに見本にサインを貰い、後日渡すことを約束します。

しかし、その後、岡田は出版社を無断欠勤。無断欠勤が続くとクビになるので、心配した上司から頼まれて、真壁が様子を見に行くと、彼女は住んでいた市営住宅で子供と一緒に死んでいるのが発見されて、という筋立てです。
事件のほうは、前途をはかなんだ突発的な無理心中事件で処理されるのですが、真壁は彼女の明るい様子と離婚は吹っ切れていた様子と、子供をかわいがっていたことからその結論に疑問を持ち始めます。

彼女は真壁に、父親とは接見禁止にしているはずなのに、子供が「パパ」にお菓子をもらっていたり、近所の老人がその子と大人の男性がキャッチボールをしているのを見かけたという雑談をしていたので、真壁は別れた夫が殺したのでは、と疑いをもったわけですね。

また、偶然、真壁に同行した雨宮も、現場の食卓にブーケの花が飾られ、朝食の準備が二人分されていたのですが、卵の殻は6つあったことや子供用の食器ではなく大人用の食器がつかわれていたこと、さらに、自立したてのシングルマザーで生活に余裕はないはずなのに、手つかずのフライドチキンが捨てられてていたことに疑念を持ち始め、類似の事件を調べ始めます。

真壁は知り合いの警察官に岡田の話をリークし、前夫のアリバイを調べるのですが、殺害当日、前夫は遠隔地で開催されていたセミナーに参加していることがわかり、アリバイ成立。

しかし、雨宮のほうの調査では10年前から数年おきに4件、シングルマザー親子の無理心中事件がおきていて、そこには今回と同じように花が飾られ、食事の準備がされていたことがわかります。

ここから雨宮は、犯人は家庭と家族を欲しがっていて、すでにある家族、従順で、子供を抱えるシングルマザーの家に手土産を持って入り込み、その家庭=巣(ネスト)を手に入れようとするのですが、うまくいかないと殺して捨てることを繰り返しているのではないか、と推理します。

そして、4件の無理心中事件の被害者の中に、第一作の「スマイル・ハンター」の犯人が関連していた、精神系の病院やセラピー、カウンセリングを中心とした事業を展開している「帝王アカデミー」のセミナーに参加している奢がいることがわかります。

雨宮と真壁は、そのセミナーの十数年前の参加者の子供から、グループで共同生活を営むセラピーの情報を聞き取ります。そして、母親が離婚して生活が困窮していた時、妹が商店街の七夕のイベントで「やさしいパパがほしい」と願い事の短冊をつるしたら、ある時、「パパ」が現れ、一緒に暮らした思い出を聞き取ることができます。

犯人の行動には、帝国アカデミーの関与が疑われる中、雨宮たちは帝国アカデミーのセミナーで講師を務めている左近万真という犯罪心理学者の実家が経営する精神科病院から手に入れた名簿から抽出した容疑者へ罠をしかけていくのですが・・という展開です。

Amazon.co.jp: ネスト・ハンター 憑依作家 雨宮縁 (祥伝社文庫) 電子書籍: 内藤了: Kindleストア
Amazon.co.jp: ネスト・ハンター 憑依作家 雨宮縁 (祥伝社文庫) 電子書籍: 内藤了: Kindleストア

レビュアーの一言>「雨宮縁」の正体は?

今巻でもまだ謎の残る「雨宮縁」なのですが、第一巻と今巻でも犯人の精神的な操作をしていた疑いの強い、高度な医療技術と施設をもつ帝王アカデミーの総帥・月岡玲奈のストーカーに殺された弟妹との関連性が暗示されています。

この弟妹は病院で死亡したことになっているのですが、今巻の最終場面で、雨宮縁が臓器移植の拒絶反応を抑える薬剤を服用していることがわかります。次巻以降でその秘密がだんだんとわかってくるのでしょうが、作者がどんな種明かしを用意しているか楽しみにしておきましょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました