憑依作家は、身近なアイドルを狩る悪魔をおびき出す=内藤了「憑依作家・雨宮縁 ハニー・ハンター」

自らの作品の主人公に成りきって年齢・風貌も変化する、正体不明の人気推理作家・雨宮縁が、大手出版社「黄金社」の担当編集者・真壁、フリーの装丁作家兼カメラマンの蒲田を使って、隠されていた殺人事件の犯人に周到な罠を張ってあぶり出していくクライム・ミステリー「憑依作家・雨宮縁」シリーズの第三弾が『内藤了「憑依作家・雨宮縁「ハニー・ハンター」(祥伝社文庫)』です。

第一巻では、幸せそうな写真をネットにあげている人物に不幸をもたらし、「笑顔」を刈り取っていく「スマイ・ルハンター、第二巻では、シングルマザーの家庭に入り込んで、その家庭をのっとり破滅においやる「ネスト・ハンター」の犯罪を暴き、それを操っているらしい組織「帝王アカデミー」に迫った雨宮たちだったのですが、今巻ではさらにその底に潜む「邪悪」へ気づきます。

あらすじと注目ポイント

構成は

プロローグ
第一章 縁と庵堂
第二章 緊急刊行「スマイル・ハンター」
第三章 隔離病棟の絶対悪
第四章 戦利品
第五章 ハニー・ハンター
第六章 トラップを仕掛ける
エピローグ

となっていて、第一章のところでは、このシリーズの探偵役を務める「雨宮縁」と秘書の「庵堂」の出会いの場面らしきところが描かれています。詳細は原書で確認してほしいのですが、前巻までで一家惨殺事件の生き残りらしい「縁」だけでなく、「庵堂」のほうも何かの凶悪事件の生き残りでありそうに描かれています。その事件が何なのかは、巻の後半部でその片鱗がでてきます。

今巻の事件は、まず埼玉の老朽ビルで営業しているカラオケ・バーの女性店主が刺殺されているのが発見されます。死後10日以上経過してから発見されたため、遺体はかなり傷んでいたのですが、その店主のアイブリッドというリングのピアスをした右の瞼が切り取られているという猟奇的な事件です。
彼女はストーカー被害も同時に訴えていて、このストーカーらしき男が事情聴取を受けるのですが、すぐ釈放されています。少しネタバレしておくと、この男は見せ球ですのでご注意を。

このシリーズの探偵役「雨宮縁」は、アイブリッドをした瞼が切り取られていた、という線から、ここ数ヶ月の間におきている3つの事件が同一犯による一連のものでは、とい推理します。
それは、居酒屋の女性アルバイト、無名の地下アイドル、スポーツジムのインストラクターが殺されたもので、ぞれぞれ、耳、指、鼻が切り取られていたというもので、被害者全員が派手めでSNSで自慢していた上に、ストーカー被害を訴えていた、というものです。
「縁」は、この推理を「ハニー・ハンター」事件で知り合った、警視庁の竹田刑事にリークし、警察の組織網を利用して、犯人を炙り出していく、という展開です。

一方、黄金社の編集者・真壁は、「縁」の依頼で、帝王アカデミーの総帥である月岡玲奈の生みの母に会いに行きます。玲奈は、一家惨殺事件の被害にあった「片桐家」と血縁関係にはなく、連続殺人事件や集団自死事件に関わったとされる「吉井加代子」という女性の子供で、母親が捕まって週間されたため、片桐医師が養子に迎えた、という設定です。実は、この「吉井加代子」という女性が収監された拘置所や刑務所、その後隔離された病院でも、変死事件が連続しておきていて、彼女が他人を操ったり、支配して、事件をおこさせているのでは、と噂されています。

警戒厳重な隔離病棟で、その女に会った「真壁」が経験したことは・・といったところは原書のほうで確認してほしいのですが、彼が記入した面会表と「加代子」が告げる「満月」という言葉が、今巻の事件の犯人を探り当てる鍵となるのでそこは注意しておいてくださいね。

そして、今巻の被害者が、ダークサイドで運営されている「下町のマドンナ」という写真のアップロードサイトに投稿された人物の中からピックアップされていることを見つけ出した「縁」たちは、エッセイと写真集を発表している「月子」というアルピノの女性を作り上げ、真犯人をおびき出そうと企てます。
今までの被害者は、サイト内で注目を集めだし、自分のSNSで少し天狗になった投稿を始めたところで襲われているのですが・・という展開なのですが、そこに現れた真犯人は意外にも・・という筋立てです。

ハニー・ハンター 憑依作家 雨宮縁(祥伝社文庫な25-3)
ハニー・ハンター 憑依作家 雨宮縁(祥伝社文庫な25-3)

レビュアーの一言

第一巻、第二巻では、「帝王アカデミー」という組織を使って、月岡玲奈というアカデミーの主催者がマインドコントロールを行って、数々の猟奇事件を起こさせているのでは、という疑いが濃厚になっていたのですが、今巻では、その奥にさらに邪悪な存在が隠れていたことが明らかになってきます。
次巻以降は、月岡と吉井という二つの邪悪な女性との対決になっていきそうなのですが、敵がこれだけなのかはまだまだ謎に包まれています。

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