恵平は死体処理事件を追って最後の「うら交番」訪問=内藤了「LAST 東京駅おもてうら交番・堀北恵平」

信州の山間の村から東京へ上京し、警視庁に就職した「東京駅」大好きの、新米女性警察官・堀北恵平(通称「ケッペー」)が、東京駅近くの丸の内西署で研修中に遭遇する怪奇事件の謎を、50年以上前の「うら交番」の警察官のアドバイスを受けながら解いていく「東京駅おもてうら交番」シリーズの最終話が『内藤了「LAST 東京駅おもてうら交番・堀北恵平」(角川ホラー文庫)』です。

東京駅の「うら交番」に出会ったしまった警察官はそれから1年後に死亡するという言い伝えの期限の「1年目」が近づく中、前巻では、連続する外国人女性の誘拐殺人事件の影に死体処理を専門的に請け負う闇の組織の存在に気づいた恵平たちだったのですが、その組織と「うら交番」が恵平と平野を呼び寄せた関連性と、「うら交番」の警察官「柏村」の追っている事件の謎が解決する最終話です。

あらすじと注目ポイント

プロローグ
第一章 昭和の未解決事件を探る
第二章 つながる時空
第三章 昭和と令和で殺された男
第四章 廃棄物衛生研究所
第五章 策略と理由
第六章 東京駅うら交番ふたたび
第七章 ジンクス
エピローグ

となっていて、冒頭のところでは「うら交番」のお巡りさんである「柏村」が、息子の和則が行方不明になってしまった原因をつきとめるため、彼が勤務していた「渡辺機械」という農機具やリヤカーの製作会社の跡の聞き込みを始めます。その会社はすでに社長の自殺によって倒産していたのですが、近所の人からは社員の事故の多かったことや行方不明事件の起きていたことを知り、息子の行方不明の背後に、社長の保険金詐欺とカストリ雑誌記者の明野がいたことを察知します。

さらに、明野と部下であった永田とがつながっていたらしいこともつきとめ、すでに死んだと思われている二人が、恵平と平野が捜査に加わっている「誘拐兼人体処理事件」に関わっているのかも、と推理していきます。このへんは少し強引なところもあるのですが、柏村巡査の勘の鋭さを誉めておきましょう。

一方「おもて交番」の堀北恵平のいる21世紀の東京では、鵜野重三郎という大手の廃棄部逸処理会社・廃棄物衛生研究所の会長と行政関係者との会合がもたれています。
話の主要なところは新規のゴミ処理施設の建設の話のようなのですが、それが終わって退席した鵜野に向かって、灰色の中折れ帽をかぶり、時代遅れのスーツを着た老人が鵜野に「永田くん」と声をかけるところが描かれます。
ここは相当のネタ割れになるところなのですが、鵜野は80歳過ぎの高齢の老人であるところを覚えておきましょうね。

恵平のほうでは、前巻までのホームレス連続行方不明事件や外国人女性連続猟奇殺害事件で当初、事件性が見逃されていた犯罪を見抜いたことがきっかけになり、今までの事件の毛髪や骨片のDNA鑑定も見直された結果、新たに死体処理を請け負う「匣」に関する捜査本部が立ち上げられます。
恵平が靴磨きのペイさんの「こういう時代だからさ、潜って仕事なんかしてないきゃないかと思うよね?大きな会社になっちゃって、立派な事業をしているのかもしれないよ」という言葉からヒントを得て、目をつけたのが、廃棄物衛生環境研究所で・・という流れです。

そして、この廃棄物衛生研究所へ聞き込みにやってきた平野は、偶然を装って現れた「鵜野」こと「永田」へ現在の東京から「うら交番」のある昭和30年代の東京へとつながる「地下道」を使って過去からやってきた男を目撃したというガセ情報を伝え、彼が過去へ行こうとする行為を誘発します。

地下道を通って永田の後を追って、「うら交番」へとやってきた恵平と平野は交番へ鵜野(永田)を追い詰めたのですが、ここで逆襲を受け、恵平が人質になり、丸の内二丁目から三丁目で行われている地下道工事現場へと連れていかれます。そこは、樫村が殉職した場所なのですが、恵平の祖父がアルバイトをしている現場でもあります。そこでは、追い詰められた永田の仕掛けるダイナマイトによって崩落事故がおき、恵平の祖父と平野も崩落事故に巻き込まれてしまうこととなるのですが・・という展開です。

崩落事故によって脚をはさまれ瀕死の重傷を負った恵平の祖父を助けようとする平野刑事はあえて事故現場に戻るのですが、恵平が現代に戻った後、「おもて」と「うら」をつなぐ通路は閉じてしまいます。平野刑事のその後と恵平の祖父の秘密は最後のところで明らかになりますので、最後まで気を抜かないようにしましょうね。

ちなみに、本巻で、筆者の別シリーズ「猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」のエピソードが突然出てくるのですが、物語の最終でその意味が明らかになりますよ。

Bitly

レビュアーの一言

東京駅にあこがれて警視庁に入った新米警官・堀北恵平が東京駅おもて交番に研修配属され、「東京駅うら交番」に迷い込んでほぼ1年間の物語はここで一応の完結です。シリーズは「匣」と呼ばれる古来から続く闇の死体処理ビジネスにまつわるホラー・ミステリなのですが、見方をかえれば、靴磨きのぺーさんや老舗和菓子店の老女将兼ホームレスのメリーさんなど多くの前の世代の人から多くのことを伝えられ、支えられ、成長していく若い女性の物語でもあります。ペイさんが物語の最後に恵平に言う

先に行く人がね、頑張って技術を身につけるよね?そしたらそれを次の人に教えて、それで終わりじゃないんだよね?・・靴にピッピと水をかけて磨くのは、色々考えて始めたことなんだよ。それを次の人に教えるだろ?そうしたら、次の人はそっから先を考えて・・そうやって、人はみんな次の人の中に生きるんだよねえ。

という言葉が象徴的ですね。

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