市川哲也「名探偵の証明」=アイドル探偵・蜜柑花子は大御所名探偵・屋敷啓次郎と対決

髪は白に近い金色に染めていて、顔の三分の一はありそうな大きな黒縁眼鏡をかけ、缶バッジのついたピンクのスタジアムジャンパーがトレードマーク。気だるげで、しゃべりはぶっきらぼうな「不思議ちゃん」キャラながら、行く先々で遭遇する事件の解決率は100%というアイドル探偵・蜜柑花子が活躍する「名探偵の証明」シリーズの第1弾が本書『市川哲也「名探偵の証明」(創元推理文庫)』です。

あらすじと注目ポイント>=アイドル探偵・蜜柑花子は、大御所名探偵・屋敷と対決する

冒頭では、現在はほぼ隠居状態にある、かつての名探偵「屋敷啓次郎」の全盛期に解決した、東京湾に浮かぶ孤島でおきた連続殺人事件の謎を解く回想シーンから始まります。その当時はまだ証拠能力の低かったDNA鑑定を囮につかって自白を引き出した鮮やかな事件解決で、警察官でありながら屋敷の協力者となっている「武富竜人」や後の屋敷の妻となる秘書の「七星美紀」とのかけあいなど、行く先々で事件に遭遇しながらも、ほぼ十割の解決率を誇り、「新本格ブーム」をもたらした名探偵として、当時の人気がすごかったことが描かれます。

これにひきかえ、現在の屋敷啓次郎は、というと、探偵の依頼はほとんどなく、事務所の家賃は滞納気味。妻となった「美紀」は今や売れっ子弁護士となっているのですが、危険な探偵稼業をやめない屋敷に愛想をつかして別居状態となっています。

そして、啓次郎が一番面白くないのは、彼を凌駕する名探偵が東條しているということで、それが、出で立ちが彼とは真逆の蜜柑花子という「アイドル探偵」です。

機会あれば、この若い探偵に、「屋敷啓次郎」という明探偵の存在を見せつけたい、と心の中で思っているのですが、ここで、東京在住の「桝蔵」という資産家のもとに「蜜柑花子を静岡の別荘に、12月29日に呼ばないと災難がふりかかる」という脅迫状が届いたことから、昔、屋敷啓次郎の熱心なファンであった「桝蔵」夫妻から、蜜柑だけでなく、屋敷も犯行防止のために招かれた、というわけです。

ここで、新旧の名探偵が出くわすわけで、普通なら若手の「蜜柑」からは啓次郎に対して年老いた昔の名探偵を侮蔑したり、挑発したりする発言がでるものなのですが、蜜柑花子は「名探偵・屋敷啓次郎」が憧れの人であったらしく、

「あ、あたし!ずっと屋敷さんに憧れてたっ!」

と大声で叫び、握手をした途端「うきゅう」と気絶するところが彼女の可愛いところであります。

そして脅迫状の予告日となるのですが、脅迫状が届いた資産家一家の長男・草太が鍵のかかった部屋の中で布団を被ったまま、首をナイフで刺されて死んでいるのが発見されます。しかも、布団には「蜜柑花子。この最高峰の密室トリックが解けるかな?」という蜜柑への犯人からの挑戦状がナイフで留められています。ドアは啓次郎の古くからの友人・竜人が蹴破って開けたので、密室状態にあったのは間違いありません。

桝蔵家の別荘の周りに啓次郎と蜜柑がしかけた監視カメラをみても外からの侵入者はおらず、屋敷内にいたのは、蜜柑と屋敷、竜人以外は、被害者の両親である桝蔵敏夫と千佳夫妻と被害者の婚約者の和湊だけです。いったい、誰が、どんな方法で・・といったオーソドクスな密室殺人の推理が二人の名探偵によって始まっていきます。

そして、蜜柑より早く犯人に辿り着いたと思った啓次郎は関係者の前でその推理を披露し始めるのですが、最後の最後で、その結論に辿り着いたのは蜜柑花子の巧妙なアシストがあってのことと気づいて・・という筋立てで、名探偵・屋敷啓次郎の復活は彼自らの手で封じられてしまうことになってしまいます。

で、この事件の犯人の推理は、急に体調を崩した(ことにした)啓次郎に代わって、蜜柑が披露し、犯人を明らかにするのですが、これで「終結」というわけにはいきません。

引退を決意し、別居中の妻・美紀とよりを戻した啓次郎は、彼女のマンションと同じマンション内に住む若い女性にストーカー行為を仕掛け、その女性と啓次郎が乗り合わせたエレベーターの中で、そのストーカーが刺殺されるという事件に偶然遭遇します。刺殺犯としてその女性が逮捕されそうになるのですが、啓次郎は真犯人を推理し、女性の無実を証明するのですが、それがきっかけで、別荘の密室殺人の真犯人にも気づいてしまい・・という展開です。最後までドンデン返しが仕掛けられているので、油断せずに読み通してくださいね。

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レビュアーの一言>「名探偵」は疫病神?

「名探偵」というのは、警察捜査でもつきとめられない難解な事件をサクッと解決して、被害者家族や警察から褒めたたえられる存在であるはずなのですが、本シリーズでは、警察は、警察という組織の名誉を脅かし、領域を侵害する目の上のたんこぶと忌み嫌い、被害者家族のほうは、息子が被害にあった桝蔵敏夫が

「あんたの責任だぞ。草太が殺されたのは。」

と蜜柑に詰め寄ったり、最後のほうで、啓次郎を襲った女が

「やった!やった!ワタシが殺した。ワタシが殺してやった!見たかぁ!ワタシが犯罪の元凶を殺してやった!」

と「名探偵」が存在するから犯罪が起きるのだ、と言った理不尽な主張を、名探偵にぶつけてきます。こうなると、「名探偵」希望者がいなくなるのも無理ないですし、グレてしまう英探偵が出現するのも無理ないですね(詳しくは第2弾「密室観殺人事件」を読んでね)。
ちなみに、少しネタバレしておくと、今巻の最後で女に襲撃された啓次郎の安否は第3弾「蜜柑花子の栄光」で判明するのでそちらもどうぞ。

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