予知能力者の老女の「死の予言」が美貌の悪運探偵をふりまわす=今村昌弘「魔眼の匣の殺人」

第一作目の「屍人荘の殺人」で、極秘の研究組織「班目機関」の残党によって、ミュージックフェスタの会場でばらまかれたウィルスで誘発されたゾンビたちに囲まれた山荘の中でおきた密室復讐殺人の謎をといた、美貌の悪運探偵・剣崎比留子とその助手役・葉崎譲だったのですが、再び班目機関が遺していた超能力研究所でおきる連続殺人の謎を解くシリーズ第2弾が本書『今村昌弘「魔眼の匣の殺人」(東京創元社)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

序章  新生ミステリ愛好会
第一章 魔眼の匣
第二章 予言と予知
第三章 相互監視
第四章 消えた比留子
第五章 凶器を前に
終章  探偵の予言

となっていて、前巻でおきた娑可安湖テロ事件で部長の明智がゾンビ化して亡くなった「神紅大学ミステリ愛好会」では、一年生部員であった葉村譲が部長に昇格し、剣崎比留子が侵入部員となって新生スタートが図られています。ただ、剣崎は、探偵としては一流でも、ミステリはほとんど読んだことがないという人なので、完全初心者からのスタートですね。

といっても二人が一番ひっかかっているのは、明智たちの亡くなった娑可安湖テロ事件で使われたゾンビ・ウィルスを開発した「班目機関」の正体で、その手がかりとなるのが、、この事件の発生を予言した手紙が、怪異現象を専門に扱う「月刊アトランティス」という雑誌社に届いていたということで、その手紙には数十年前にW県の山奥の村に男達数人が:やってきて実験施設を建て、超能力の研究が行われていたとの情報を比留子が手に入れます。

これが「班目機関」の正体につながるのでは、と比留子と葉村は今も建物が残ってるという研究施設の跡「魔眼の匣」へ向かうのですが・・というのが今回の物語の始まりです。

まあ、現地で平穏無事な状況に終わるわけがなく、途中のバスの車中で、バスの猪との衝突事故の予知絵を書いた「十色」という女子高生と彼女に従僕のようについている茎沢という男子高校生たちと一緒にその屋敷へ行くのですが、そこの主人である「サキミ様」と呼ばれている老女が、この屋敷のある「真雁地区で、11月最後の二日間に男女が二人ずつ死ぬ」と予言したせいで、巻き添えになるのを嫌った村人たちに、屋敷と村をつなぐ吊り橋を落とされてしまいます。

この結果、屋敷に偶然やってきていたこの土地の住人でバー務めの女性・朱鷺野、バイク旅行中にガス欠になり、ガソリンをわけてもらおうとやってきた王寺、母親の葬儀の帰り道に立ち寄った師々田親子、「魔眼の匣」の取材にやってきていた月刊アトランティスの記者・臼井、屋敷の従業員で「サキミ様」の世話をしている神服という人々達と孤立してしまうこととなって、という設定ですね。

先回は、ゾンビたちの襲撃による「クローズドサークル」の構築ですが、今回は人里と唯一つながっていた「橋」の消失という比較的な、ミステリーにありがちな設定です。ただ、なぜ殺人が、というあたりは、未来を予知できる超能力者の「予言」という乱暴な理由でおしきっちゃってますね。

そして、何事もなければ「予言ははずれましたー」で済むのですが、孤立中に起きた地震かおこした山崩れに、雑誌記者の臼井が巻き込まれた遭難死したことから、連続殺人劇が始まります。

臼井の遭難に続いては、「サキミ様」の毒殺未遂、そして、二人の事件を予知するスケッチを書いていたことから女子高生・十色が疑われ、自室で謹慎中に散弾銃で討たれて死亡、と事件が続いていきます。臼井と十色の死亡で、予言が真実とすれば、あと男女一人ずつ死ぬことになるのですが・・という展開です。

そして、十色の死に動揺した茎沢が山中に逃亡し、さらには、比留子の行方もわからなくなってしまいます。この二人が死亡したとすれば予言はコンプリート、そのかわり物語も終結となるところだったのですが、比留子の失踪は実はフェイク。そこには真犯人をおびき出すための彼女の策略が隠されていて・・という展開です。

さて、いかなる殺人トリックが隠されているのか、そして、「魔眼の匣」に隠されたもう一つの秘密は、といったところは原書のほうでどうぞ。ただ、殺人事件のネタ割れしても、そこで謎解きは終わらないので、最後まで気を抜かないようにしましょうね。

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レビュアーの一言

少しネタバレになるのですが、今巻では、比留子の妹分になりそうな、予知能力のある「十色」という女子高生が登場して、案外この娘が新しいワトソン役の一人かな、と思っていたら、前巻であっさりゾンビの餌食となった「明智先輩」同様、被害者になってしまってました。

ホームズ役とワトソン役になり切れない、比留子と葉村なのですが、その絆は意外に強固な感じがします。

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