美人女性弁理士は、美人VTuberの特許権侵害の危機を救えるか?=南原詠「特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来」

現代の企業活動の帰趨を支配するといってもいいのが知的財産権の一つが「特許権」。その権利をタテに、使う予定もない特許を使って企業から巨額の賠償金をふんだくっていた元「パテント・トロール」の凄腕女性弁理士・大鳳未来が、立場を逆転させて、映像技術の特許権侵害を警告され、活動休止かた引退も囁かれるようになった売れっ子VTuberの危機を救う、法廷ミステリとは違った特許をテーマにしたリーガル・ミステリが本書『南原詠「特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来」(宝島社)』です。

この作品は第20回の「このミステリーがすごい」大賞受賞作品で「すごい!ヒロインと、まったく新しいミステリーの誕生」と絶賛された作品でもありますね。

あらすじと注目ポイント

構成は

第一章 強奪する側から守る側に鞍替え
第二章 唯一無二の大人気VTuberが特許権侵害?
第三章 敵は特許権者だけじゃない
第四章 敵の思惑
第五章 いちかばちか

となっていて、冒頭のところではシャープの大ディスプレイ工場のある三重県多気町の小さな電機メーカー「亀井製作所」の工場から始まります。そこで、皆川電工という中規模の電機メーカーの社長と社員が亀井製作所の製作したテレビを特許権侵害で押収しようとして揉めているのですが、そこに登場するのが本作の主人公で知財専門の法律事務所「ミストルウ特許法律事務所」の弁理士・大鳳未来です。

彼女はもともと使うあてのない特許を多数登録して、それを使って企業から多額の賠償金をせしめる「パテント・トロール」の凄腕弁理士だったのですが、どういう風の吹き回しか今は、特許侵害の訴えから企業を防衛する「法律事務所」を中国系の弁護士・姚愁林とともに立ち上げていたのですが、今回も「亀井製作所」の依頼を受けて、特許侵害の訴えから同社を防衛しようと活動を始めています。その詳細は原書のほうでお願いしたいのですが、こういうシチュエーションで連想される「正義の味方」的なものとは全く異なって、双方の利害を、法律すれすれ(少し違法側に足を踏み入れているかもしれません)に調整・解決していく、というあざとい仕事ぶりなので気をつけておいてください。

で、そんな「未来」の事務所へ、東京のITベンチャー企業からオファーが入ります。その企業「エーテル・ライブ」は、VTuberをプロデュースする事務所なのですが、そこの人気VTuberの「天ノ川トリィ」の特許権侵害の警告書が、ある測量機器製作メーカーから送られてきて、彼女の使っている撮影システムの使用が、その会社の保有する「専用実施権」(特許庁への登録により他人の発明を独占的・排他的に実施できる権利)を侵害しているというものです。

トリィの使っているシステムは、彼女がネットのフリーマーケットで手に入れた機械で、そのメーカーが製作する機械とは全く関係のないはずですし、さらになぜ測量機器メーカーがVTuberの活動にいちゃもんをつけてくるの?といった筋立てですね。

依頼を受けた「未来」は複数の謎と不審な点を抱えながら、特許権侵害を訴えてきたメーカーと直談判に及ぶのですが、そこにVRを活用した大規模なスポーツテク・プロジェクトや、人気ナンバー1の「天ノ川トリィ」にとってかわろうと画策する二番手VTuberや「エール・ライブ」のライバル事務所の思惑と、そのライバル会社への投資者も絡んできて、一挙に、企業小説っぽくなってきます。

そして、特許の権利関係をがっつりと固めた測量機器メーカーの警告によって、人気No1 VTuber「天ノ川トリィ」の活動が阻まれ、彼女の引退までささやかれるようになってくるのですが、「未来」はトリィの使っている、特許侵害の対象として訴えられている最新鋭の機械を使ったあることを仕組むのですが、それは全国のVTuberを巻き込むある大掛かりな秘策で・・という展開です。

隙きなく固めた特許の法律関係を盾に圧迫をしてくる敵方が「未来」の予想外の反撃手段によって足元をガラガラと崩されていくのが痛快ですので、最後まで気を抜かないでくださいね。

Bitly

レビュアーの一言

「特許制度」という一般人にはほとんど馴染みのない法律制度が、こうした血湧き肉躍る「リーガル・ミステリ」になるのか、というのがまず驚きの一番目です。

リーガル・ミステリというと、法廷を舞台にした裁判系か、被告の無実を立証していく刑事事件ものが定番ではあるのですが、新川帆立さんの「競争の番人」の独占禁止法と同様に、一味違ったドキドキ感が味わえます。

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