青柳碧人「霊視刑事 夕雨子」1=幽霊の「思い」を聞いて、事件の謎を解け

祖母譲りの霊能で、この世に未練のある幽霊の姿が見えて会話ができる、警視庁中野署の新米刑事・大崎夕雨子が、強引な捜査と突っ走ってしまう性格から、とある犯罪捜査で失敗し、本庁の捜査一課からトバされてきた女性刑事・野島夕梨子とともに、幽霊のアドバイスを受けながら事件を解決して、幽霊を成仏させるユーモア系サイキック・ミステリー「霊視刑事」シリーズの第一弾が本書『青柳碧人「霊視刑事 夕雨子 誰かがそこにいる」』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

プロローグ
第一話 疑わしきはエステティシャン
第二話 スープのアリバイ
第三話 デパート狂騒曲
第四話 思い出の場所
エピローグ

となっていて、まずプロローグのところで、このシリーズの主人公となる大崎夕雨子のプロフィールがざっと紹介されています。彼女は、祖母の霊能力を受け継いでいて、この世に思いを遺した幽霊の姿が見え、会話ができるのですが、亡くなった祖母から贈られた色あせた赤い「ストール」を身に付けている時だけ、見えなくすることができます。さらに、彼女は幼い頃に参加したキャンプで行方不明になった「公佳」という少女をみつけたくて、警察官になった、という設定ですね。

そんな彼女は、新米警察官として都内の中野署の刑事課に配属されているのですが、ここで警視庁捜査一課から異動してきた剛腕女性刑事・野島夕梨香とタッグを組まされることになります。はっきりいうと、剛腕な捜査でトラブルメーカーとされている野島の「お守り」を押し付けられた、というところですね。

第一話「疑わしきはエステティシャン」は、そんな二人がタッグを組んで捜査する最初の事件で、高校時代の友人で、今はエステティシャンとなっている片山奈々子に殺されたという幽霊の相談を受けることから始まります。

その幽霊は、奈々子の元恋人で、奈々子がエステの専門学校に通う学費を負担していたのですが、浮気疑惑からケンカとなり、別れてから1か月後、部屋の中においてあった栄養ドリンク剤を飲んだところ、中毒死してしまったと訴えます。警察捜査では「自殺」とされたのですが、幽霊はそのドリンク剤はつき合っていた頃、奈々子が差し入れによく持ってきていたものと同じで、彼女が学費の返還を免れるために自分を毒殺したのだ、と言うのですが・・・という展開です。奈々子の勤務しているエステサロンの店長を犯人と疑う、夕雨子に対し、野島が冷静に推理して犯人を割り出していくのが対照的です。

第二話の「スープのアリバイ」は夕雨子の上司であり「シンさん」が元相棒の岡沢刑事と担当していて未解決のままとなっていたラーメン店主殺人事件を、ガンで死んだ岡沢刑事の幽霊とともに謎解きしていく話です。

当時から疑わしかったのは、そのラーメン店主の破門された弟子だったのですが、その弟子が事件から十年ほど経ってからラーメン店を開店していて、繁盛店になっています。そのラーメンのスープが殺された店主の作っていたラーメンスープそっくりの味。殺された店主はレシピを記録に残すことを嫌がっていたはずなのですが・・という展開で、レシピをどうやって盗んだかというところと犯行の証拠がセットになっていますね。

第三話の「デパート狂騒曲」では、JR新宿駅近くにある京竹デパートに仕掛けられた爆弾騒動に夕雨子と野島が挑みます。「あおいはいびすかす」と名乗る爆弾魔がデパートのあちこちに仕掛けた爆弾を、デパートのコンシェルジェの服を着た前畑という女性と、彼女が紹介してくれた屋上のピエロの幽霊の出す「なぞなぞ」をもとに見つけていきます。

管轄外の新宿署で起きる事件の上に、野島の天敵である本庁捜査一課の有原が捜査を仕切ることとなり、野島と夕雨子は捜査の第一線から遠ざけられるのですが、前畑のアシストで大活躍をするのですが、前畑の正体は意外にも・・という展開です。

第四話の「思い出の場所」では勤務先の会社の脱税に関与していた男性・門井が、その仲間によってひき逃げされてしまいます。脱税の証拠となるUSBは、男性の自宅のあって、脱税の仲間が家に入り込んで探すのですが見つかりません。どうやら、男性の息子・真司郎が在り処を知っているようなのですが、息子は、仕事一辺倒で家庭のことをほったらかしにしていた男性に心を閉ざしています。

真司郎少年は、彼が学校のクラス内のトラブルで不登校になった時、門井が真司郎少年を勇気づけたという「思い出の場所」にUSBは隠してあるというので、夕雨子がその場所を推理し・・という展開です。

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レビュアーの一言

霊能力をもった女性警察官が、幽霊の言葉を聞いて事件の謎を解いていく、という設定は、かなりの「ホラー風味」を想像させるのですが、登場してくる幽霊が、「思い」は遺していても、「怨み」は少なめというものばかりなので、夕雨子の謎解きもどこかしらユーモラスな感じが漂います。さらに、相棒の野島の強引な捜査がそれを増幅しています。

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