樹林伸「ドクター・ホワイト」1・2=汚れなき「診断」をくだす美少女「白夜」の正体は?

脳内に摘出困難な腫瘍を抱えている妹をもつ雑誌記者の狩岡将貴が、朝のジョギング中に見つけたのは、白衣一枚で裸足で彷徨い歩いている一人の美少女。彼女は「ビャクヤ(白夜)」という名前以外のほとんどの記憶を失っていたのですが、という設定で始まる医療ミステリーが『樹林伸「ドクター・ホワイト」(角川文庫)』シリーズです。

公園に見つかった彼女は将貴の幼なじみ・高森麻里亜の実家が経営している大病院にかつぎこまれるのですが、そこで普通の医者顔負けの医学知識と診断の能力を発揮します。彼女の正体は、そして、彼女が公園を彷徨っていた理由は、といった筋立てで物語が展開していきます。

第一巻「ドクター・ホワイト 千里眼のカルテ」

構成は

第一章 カスパー・ハウザー
第二章 DCT
第三章 可愛い悪魔
第四章 ミルウォーキーの奇跡
エピローグ=プロローグ

となっていて、第一章は「白夜」と名乗る少女が公園で発見されたところから始まります。

その美少女は高森総合病院に搬送されるのですが、そこで発見者である「狩岡将貴」の口臭からわずかな「アンモニア臭」を嗅ぎ取り、彼がピロリ菌感染者であることを言い当てます。

第一章の表題の「カスパー・ハウザー」というのは19世紀の前半にドイツで見つかった少年のことで、彼は16歳になるまで窓のない牢獄のようなところで監禁されていた、と主張し、言葉もろくにしゃべれなかったのですが、暗闇で字も読め、色も判別でき、嗅覚や触覚も異常なほど鋭敏だった少年のことですね。通常生活に関する知識も何もないが。医学知識はとびぬけていて、どこかから脱出してきた、というこの少女の様子をなぞらえたわけですね。

将貴の家でしばらく暮らすことになった「白夜」に、将貴は、脳内に腫瘍を抱えている将貴の妹・晴汝(はるな)を紹介するのですが、そこで晴汝は突然、足に麻痺が出て、せん妄状態を発症します。

晴汝が緊急搬送された高森総合病院の医師たちは、彼女の脳にある腫瘍による脳動脈瘤に変調が起きているのだと診断するのですが、「白夜」はそれは「誤診です」と言い切り・・という筋立てです。そして、彼女が下した診断は、なんと兄の病気にも関連した意外なモノで・・という展開なのですが、その診断については原書のほうで。

白夜の診断の様子を見て、麻里亜の父親の高森総合病院の高森院長は、二度の誤診診療で評判を落とし、それが原因なのか音取り息子が失踪し、経営が悪化している高森総合病院の起死回生策となる、診療科を超えたDCT(「診断協議チーム」)のメンバーとして抜擢します。ここに、記憶喪失でありながら、豊富な医学知識と抜群の診察能力をもち、院内の「誤診」を見抜いていくドクター・ホワイトが誕生していく、という流れです。

そして、彼女の「診察能力」は、DCTのメンバーとして受け入れられてからガンガンと発揮されていきます。

第二章では虫に刺されたと皮膚科を訪れ、傷口から細菌が入って悪化した細菌感染だとして抗生剤の点滴を命ずる皮膚科のイケメン医師・夏樹の診断に対し、「ここ最近、海外旅行にでかけなかったか」という質問から、その男性が妊娠中の妻に隠していた本当の病気の原因をつきとめますし、第三章では、高森総合病院の乗っ取りをたくらむ医療ファンド・グループ・JMAの代表・藤島の子供が家の階段で転落し、その後、腹痛と激しい嘔吐を繰り返します。この病状に対し、尿路結石による細菌感染の診断を下したファンドグループが派遣してきた流れ者の腕利き医師たちの診断に対し、白夜は「誤診だ」と断言し、ある虫害による中毒を主張するのですが・・といういった感じです。

そして第四章では有名カメラマンに枕営業をしていた元アイドルのモデル・日比野カンナが湖水の照り返しで錯乱したり、幻視をみて暴れたりといった撮影中に起こした奇妙な行動の陰に、世界ではまだ恐ろしい伝染病である狂犬病の証拠を撮影されたビデオの中から見つけていきます。そのついでに発症すると死ぬしかないといわれるこの病気の唯一の治癒例を見つけ、高森病院の総力をあげるのですが、それは患者を一定期間、仮死状態におくという驚くべき方法で・・ということで、詳しくは原書のほうで。

いずれの話も自信満々に診断を下し、患者家族や、同僚医師たちに「上から目線」で対応する医師たちの鼻が無残にへし折られるところはかなり痛快でありますね。

Bitly

第二巻「ドクター・ホワイト 神の診断」

第二巻となる「ドクター・ホワイト 神の診断」の構成は

プロローグ
第一章 1年後の喧騒
第二章 消えた胎児
第三章 血のデッドライン
第四章 必然の邂逅
第五章 悪魔の工場
エピローグ

となっていて、狂犬病患者の治療成功から1年後、高森総合病院は、前作の最後で狂犬病感染患者の治療のため、患者を仮死状態に保つため、院長の高森巌が最後に力を振り絞った末に死亡した後、JMA寄りだった副院長の真壁が院長職を継いで、故高森院長の娘で創立者のひ孫である高森麻里亜から実権を奪うようJMAの派遣医師たちと陰謀をめぐらしているという院内情勢です。

そこに高森総合病院へ実家が産婦人科病院を経営している若手の女性医師・絵馬色葉が研修医としてやってくるところから始まります。彼女はすごく熱心な研修医なのですが、その熱意が空回りするタイプで、ラグビーの練習後、胸痛を訴える男子高校生の診断で心筋梗塞と診断し、白夜から「誤診」を指摘されて、プライドをぺしゃんこにされてしまいます。

そして、色葉医師は、前巻で狂犬病が治癒した日比野カンナ(彼女をデビュー当時から心配して見守っていた編集者の滝と結婚して今は滝カンナに改姓しているようですが)が妊娠していると診断するのですが、その後、胎児が消えてしまうという事態に遭遇します。彼女の高校生の診断ミスを知っている病院関係者は、今度も彼女の診断ミスと判断するのですが、カンナの脈をとった白夜は、カンナは妊娠していると判断します。しかし、単純な妊娠ではなく、子宮ではなく卵巣妊娠で、しかも片方の卵巣には癌ができているとの診断を下します。

子供を産みたいと望むカンナの希望を叶えるため、白夜のアドバイスした治療法は・・というのが今巻の注目ポイントの一つですね。このあたりは、現在の抗ガン治療と対立するところがあるので、医療関係者にはちょっと賛成できない人もあるかもしれません。

そして、もう一つの注目ポイントは、白夜の正体です。行方をくらましている麻里亜の兄が白夜が収容されていた施設から解放した人物であることがわかり、白夜の監禁には、日本を代表するIT起業家・海江田が絡んでいることがわかります。

海江田と彼の亡くなった妻の血液型が白夜と同じ「RH Nul」であることがわかり、さらに彼の娘・朝絵は難病で数十年前から寝たきり状態のまま、治療が続けられていることも判明してきます。彼と「白夜」の関係は?、そして行方をくらましている麻里亜の兄が関係している「組織」とは?といった謎解きが始まるのですが、そこで明らかになる「白夜」の正体はなんと、海江田の娘・朝絵を助けるための・・という展開です。

さらに、第二巻の後半では、摘出不可能という診断がくだされていた春汝の脳腫瘍手術も白夜の診断と手術方法の指示に基づいて、麻里亜の兄・高森勇気が摘出手術に挑んでいく手に汗握るシーンへとつながっていくので、そのあたりも原書のほうでお楽しみください。

Bitly

レビュアーの一言

このシリーズは2022年1月に、「白夜」役を若手人気ナンバーワン女優「浜辺美波」さん、高森病院の創設者のひ孫で、病院の立て直しに奮闘している副院長の女医「高森麻里亜」役に「瀧本美織」さんのダブルキャストでテレビドラマ化されています。

放映前は、「美波ちゃんに素肌に白衣というシーンを演じさせるのか」なんて声もあったようですね。

少しネタバレしておくと、小説的には、白夜の正体に関連した大陰謀もハッピーエンドに近い結末を迎える筋立てとなっているので原作に近い脚本であれは、浜辺美波ファンも安心して見ていられそうなのですが果たして・・・。

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U-Nextならドクターホワイトの過去回の配信もされています。

TVドラマ化にあわせてでしょうか、コミック版の連載も始まっているようですね

Bitly


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