「S&S探偵事務所 キボウのミライ」=馴染みの喫茶店主を襲った七年前の愛娘誘拐事件の謎を解け

元防衛省のサイバー防衛隊の一員で、違法スレスレの調査で首になったバリキャリ娘の「しのぶ」と、両親が行方不明になってから長い引きこもり生活を送っていた凄腕のハッカー「すもも」の二人が、経営する私立探偵事務所「S&S IT探偵事務所」に持ち込まれてくるネット犯罪やコンピューター犯罪の解決に挑むハッカー系コージー・ミステリーのシリーズ「S&S探偵事務所」シリーズの第二弾が本書『福田和代「「S&S探偵事務所 キボウのミライ」(祥伝社文庫)』です。

前巻でイジメで「狩られる」寸前だった「笹塚透」を助け出し、事務所のコック兼アルバイトとして雇って、探偵事務所の「料理問題」を解決したり、「スモモ」が引きこもりとなった原因であった行方不明になった両親の謎を解いた「しのぶ」と「スモモ」のハッカー探偵コンビだったのですが、今巻では、世界中に広がったマルウェアが狙う目的を明らかにするとともに、常連になっている喫茶店の店主「デラさん」の七年前に誘拐されて行方不明になっている娘の謎を解きあかします。

あらすじと注目ポイント

構成は

第一章 野良猫だって意地がある
断章 ラフト工学研究所だより(1)
第二章 シュレディンガーの少女
断章 ラフト工学研究所だより(2)
第三章 キボウはこの手の中に

となっていて、まずは「しのぶ」の古巣である防衛省から仕事の依頼がやってくるところから始まります。彼女の在職当時の同僚である「明神海斗」が持ち込んだ仕事は、世界的な規模で様々な企業のサーバーやパソコンに入り込んでいる「キボウ」というマルウェアの調査です。このマルウェア実態は来年の1月21日に、現在存在しないアドレスへ向けて通信するというだけのもので、すでにワクチンソフトも開発済なのですが、危険な臭いを感じた明神たちが、マルウェアの出処とか配布者の調査を頼んできた、というところです。問題なのは、来年度からの顧問契約を条件に今回は委託金はタダにされたことですね。

第一番目の事件としては、この防衛省からの委託案件とは別に、あるゲートマンションの管理会社から依頼される事件です。そのゲートウェイマンションには芸能人を含め多くのセレブが入居しているのですが、入居者の一人である女優の息子が突然街で知らない男に話しかけられ、彼は家族以外誰も知らないはずのフィギュア製作の趣味や、いまつくっているフィギュアのことを話しかけられたというのです。

おそらくはパソコンかスマホに何か仕掛けられていると推測して調べると、知らないうちに盗撮アプリが仕込まれていることがわかります。早速、そのアプリを削除するのですが、数日後、再びそのアプリがスマホにインストールされているのが発見されます。なんと、このマンションの各戸ごとのルーターに「ミライ」というIOT機器に感染して外部から遠隔操作できるようにするマルウェアの亜種が感染していて、ルーターを踏み台に、削除したはずのアプリをダウンロードさせていたことがわかります。放っておくと、マンション中のPCや家電、スマホが外部から遠隔操作される事態も想定されます。

誰がどうやってマルウェアを持ち込んだのか、というなぞ解きになるのですが、もちろん一番怪しいのは、この時点で「偉そうに威張っている人」というのがコージーミステリーの定番です。

第二番目の事件は、都内のお嬢様学校の女子生徒・室月里奈が持ち込んできた校内で生徒のパソコンが次とウィルスに感染しているのでなんとかして、という事件です。こ女子高に蔓延しているウィルスは仮想通貨のマイニングを他人のPCの空いている能力を勝手につかってやるものなのですが、最近、このウィルスの駆除をたくさんの女子高生から頼まれて面倒くさくなった「しのぶ」は、彼女にワクチンプログラムを入れたUSBメモリを渡し、自力でやってみるように勧めます。

このワクチンソフトで無事、ウィルスを駆除できたので、同じウィルスに感染していると思われる学校のパソコン室のパソコンにそのUSBを挿し込んでワクチンソフトを駆動させると、50台あるパソコンが次々とダウンしていくという大トラブルを起こしてしまいます。

里奈が学校のパソコンにウィルスを蔓延させたのではという疑いをかけられたため、USBメモリの提供者である「しのぶ」が彼女を無実を立証するために乗り出していって・・という展開です。

一方、第一話、第二話の謎解きと並行して、デラさんの過去と娘が誘拐された経緯が明らかになってきます。彼は以前、警察の公安部に所属していたのですが、当時捜査していた新興宗教団体の情報を得ていた、団体の内部通報者の青年が、警察のスパイであることがばれ内部抗争の末に殺され、さらに彼が殺されたことを警察に密告した元信者の女性も不審死を遂げていています。

青年の母親・狭川浪子は、デラさんが青年から情報をとっていたことが、殺害につながったと信じていて、ひどく恨んでいたようなのですが、その母親とデラさんの面談後、デラさんの娘が誘拐され行方不明になったという顛末です。

その母親も当時容疑者として疑われていたのですが、誘拐事件後、自宅を売り払って行方をくらましてしまい、そこから手がかりがほとんどなくなっている状況なのですが、これが最終話の前ぶりとなっています。

最終話の「キボウはこの手の中に」では、行方不明になったままの狭川浪子らしき人物が、「スモモ」のハッキングの技術によって田代湖畔のベーカリーに勤務していることがわかり、「しのぶ」「スモモ」「デラさん」の三人が調査に行きます。

残念ながら、その女性はすでにその店を退職した後だったのですが、彼女が暮らしていた「角館」の民家を突き止めたところから、7年前の誘拐事件の真相が明らかになっていきます。少しネタバレしておくと、コージーミステリの常として、陰惨な結末は用意されていませんので御安心を。

もちろん、最終話で第一話目にでてきたマルウェア「キボウ」の作者とその狙いが明らかにもなってくるのですが、意外にも犯人は、「しのぶ」たちの近くにいる人物だったりするのと、その目的のオタクさに驚くかもしれません。

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レビュアーの一言

第二作目は、第一作目に比べて、デジタル色がかなり強めです。
IOT家電やスマホに侵入する盗撮のマルウェアであったり、仮想通貨をマイニングするアプリを侵入させるウィルスソフトであったり、と犯人の手口もそうなのですが、「スモモ」がデラさんの娘の誘拐犯を探す方法も、日本人のスマホの中に収められている画像を、AIによって画像検索させるというかなりマニアックで、違法スレスレ(あるいは違法かも)の手段が使われています。
パソコンオタクのミステリーファンにとっては、ワクワクする謎解きのアイテムが満載の仕上がりとなっています。

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