誘拐の被害者に殺された親友の死には秘密が隠れている=生馬直樹「フィッシュボーン」

地域社会のコミュニティから疎外されてきた三人の少年が、自らの夢を叶えるために団結して起こしたビジネスがあることから破綻の危機に瀕します。それを回避するために彼らのとった手段は、金持ちの社長令嬢の身代金誘拐事件だったのですが、それは三人の絆を破壊することとなり、と展開するクライム青春ミステリーが本書『生馬直樹「フィッシュボーン」(集英社)』です。

本の帯によると

謎の焼死体、社長令嬢誘拐事件、不遇な少年たちの約束ー。
全てを覆すための哀しき犯罪計画とは。
スリリングでいて、痛いほどに切ないーー。

とあって、「夏をなくした少年たち」で新潮ミステリー大賞を受賞した作者の「大飛躍」と評されています。

あらすじと注目ポイント

物語はまず本書の主人公となる、「玉山陸人」「日高航」「沖匡海」という三人の男性の少年時代から始まります。

この少年たちは「陸人」は全国的な暴力組織の下部団体の組長の息子、「航」は親に捨てられて妹と二人で児童養護施設で暮らしていたのですが、その妹も里子としてもらわれていき施設で一人暮らし、「匡海」は父親が殺人の罪で服役中で、母親は周囲とトラブルをおこしていて孤立状態、という家庭環境で、三人とも地域社会からは疎外されています。この三人が小学校時代に偶然出会い、高校卒業時に陸人が警察官採用試験を、親の職業の影響で落ちたところから三人で「密漁」を主とするアングラ企業を立ち上げ、闇の世界へデビューします。

当初、漁師たちともめることはあったのですが、彼らと頑強に対立していた猟師の一人が行方不明になったことから、その反対活動も下火になり、それからは草刈り場のように漁場を荒らし、格安居酒屋で提供して大儲けするのですが、店を拡張しようとした矢先に失火し、急に経営状態が悪化していきます。

その危機を脱するため、彼らが仕込んだのが、地元で全国的な展開をしている製薬企業の社長の娘の誘拐と身代金の略取です。

市内のマンションで一人暮らしをしているその娘・平永莉瀬を待ち伏せして車で連れ去り、監禁するのですが、身代金請求の段階になって、不意をつかれて、陸人が莉瀬が逃げようとして振り回したボールペンが首筋を貫いてしまい事故死してしまう、というハプニングがおきます。

広域暴力団の組長をしている陸人の父親は、彼のことを溺愛していて、これがバレれば、実際に手を下した莉瀬ばかりでなく、航や匡海もなぶり殺しされてしまうのは明らかです。三人は、自らの命を守るために陸人の父親の組織と対立する相手の縄張り内に、陸人を死体を埋めて彼らの犯行にみせかける「偽装工作」を始め、という展開をしていきます。

しかし、彼らの偽装工作はあっさりとバレてしまい、匡海は現場で喉を裂かれ、航はどこかに連れ去られ、というのが長い前振りです。

そして、事件から5年後、身元不明の焼死体が発見されたことから再び事件が動き始めます。その焼死体は木製の腕時計とダイバー用のライトをポケットに入れていたことから、それを手がかりに警察は捜査を進めていきます。

腕時計は、かつて平永莉瀬が父親からプレゼントされた特製のものだとわかり、5年前の平永莉瀬誘拐事件との関係で捜査が進められていくのですが、本物の平永莉瀬は当時誘拐されていなかったことがわかります。

では、ゆうかいされた女性は誰だったのか、ということをきっかけに、陸人の死の真相が明らかになっていくのですが、詳細は原書のほうでどうぞ。

Amazon.co.jp: フィッシュボーン (集英社文芸単行本) 電子書籍: 生馬直樹: Kindleストア
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レビュアーの一言

本巻の前半部分では、親の職業や親は犯した犯罪などによって世の中から締め出されてしまった三人の少年が自分たちの居場所をつくろうとしながら横波を受け、さらにそれを守ろうとして誘拐に手を染めていく、というクライム小説ではあるものの、三人の友情のつながりの固さなんかを感じてしまう仕立てになっているのですが、後半になってから、今まで彼らの友情に感じていたリリカルな感情が見事に破壊されていく大どんでん返しが待っていて、予期せぬうちに沖へと流されていってしまう物語になっています。

この大ドンデン返しには好き嫌いが別れる所でしょうが、前半の友情物語のところでも十分読む価値はありますね。

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