女性死刑囚の最期の言葉「約束は守ったよ」の意味するものは?=柚月裕子「教誨」

幼いわが娘と近所に住む幼い女の子を殺し、死刑宣告を受けていた母親が、処刑の直前に呟いた言葉は「約束は守ったよ、褒めて」だった。

女性死刑囚の最後の言葉の真意を求め、遠縁の女性が故郷で辿り着いた幼女殺人の悲しい真相を描いたミステリーが本書『柚月裕子「教誨」(小学館)』です。

最近は美貌の元弁護士・上水流涼子の活躍する「合理的にあり得ない」シリーズなど「ソフト」路線が人気の筆者なのですが、今回は、筆者の得意とする人間の哀しさが特徴のミステリーものです。

あらすじと注目ポイント

物語りの出だしは、本編の探偵役を務める「吉沢香純」という三十代の女性が、遠縁の女性で死刑囚の三原響子の遺骨と遺品を受け取りに東京拘置所を訪れているところから始まります。

「香純」は彼女の母親とともに響子の「身元引受人」になっているのですが、けして響子と親しかったわけではなく(物語の途中で、響子とは小学生の頃、親戚の法事の際に一度会っただけの仲であることがわかります。)、殺人を犯したために、故郷の村内や親戚内から「村八分」のようになっていう上に、死期の近くなっていた響子の母親・静江によって無断で指名されていたもののようです。

ただ、響子の死刑執行後、彼女の両親はすでに死亡していたため、拘置所から身元引受人である香純親娘に遺骨などの引き取りの打診があった、という経緯ですね。最初は当惑していた香純たちだったのですが、犯罪者とはいえ、亡くなった親戚の遺骨と遺品なので、引き取って故郷の菩提寺に納めようとする香純なのですが、思いもかけず、響子の生れ故郷の菩提寺も、親戚の本家も頑強に納骨を断ってきます。

響子の犯罪は、当時8歳だった我が子「愛里」を住んでいた青森市内の白比女川のかかる橋の上から落として水死させ、それからおよそ一か月後に近くに住んでいる5歳の女の子「栞」ちゃんを自宅にアパートに連れ込み、絞殺したというものです。東北の小さな町でおきた連続幼女殺人で、しかも

犯人は母親ということで、地元では大きな騒動となり、そのため、旧家であった響子の本家も響子の一家とは絶縁した、という経緯があります。

さらに、香純は、拘置所の職員から響子の最期の言葉が「約束は守ったよ。褒めて」であったことを教えてもらい、それが響子の遺品の中にあった日記で頻出する「約束は守ってます」という言葉と符号していることに気づきます。

いつ執行されるかわからない死刑に怯えつつ過していた死刑囚の女性が、心の支えのようにしていた約束とは何だったのか、いったい誰と交わした約束だったのか?

響子の遺骨を抱えて、彼女の故郷をやってきた香純は、響子の遺骨の埋葬先を探すため、菩提寺や響子の親戚や響子の母親の友人たちを訪ね、説得したり、話を聞いてまわるのですが、その過程で、響子の犯した二つの犯罪の意外な真相が明らかになってきて・・という展開です。

レビュアーの一言

少しネタバレしておくと、死刑囚の「謎の言葉」がキーになっているのですが、そこには奇想天外なトリックや、サイコパス系の犯罪の真相といったものはありませんので、筆者の佐川貞人シリーズのような社会派ミステリーや「虎狼の血」シリーズのような警察小説を期待して読むとちょっとあてがはずれます。

どちらかというと「あしたの君へ」とか「慈雨」に近い味わいの、人の哀しさを痛感するミステリーかと思います。

「オール読物」の著者インタビューはこちらでアップされているのですが、底ネタとなったのは2006年に秋田県でおきた「秋田児童連続殺人事件」のようですね。この事件についてはFRIDAYデジタルの記事が詳しいです。

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