上田秀人「惣目付、臨検仕る」1・2=聡四郎は幕府の”全て”を監察するお役目に。幕臣の反発は必至。

新井白石によって門外漢の「勘定吟味役」に抜擢されたのを皮切りに、徳川吉宗に見いだされ、大奥を監視する「御広敷用人」、街道を見張り諸国を監視する「道中奉行副役」に任命され、吉宗の行おうとする大改革の先頭に駆り出された水城聡四郎だったのですが、道中奉行副役の任務中、御広敷伊賀者の抜忍たちによって略取された娘と妻を救うため、任務途中で江戸へ還り、二人を奪還したのが、前シリーズ「聡四郎巡検譚」でした。

お役目を途中で放棄したので、お咎めがあると思いきや、なんと幕府内のすべてについて監視し、取り調べができる「惣目付」に任じられ、既得権益を守ろうとする幕府内の旧勢力や吉宗を倒して復権を狙う尾張や抜忍の伊賀者たちとの、新たな激闘が始まるのが聡四郎の新シリーズ『上田秀人「惣目付、臨検仕る」』です。

第一巻「抵抗」=幕府のすべてを監察する「惣目付」に幕府役人は大反発

シリーズ最初となる「抵抗」の構成は


第一章 慣例の壁
第二章 江戸の移ろい
第三章 覚悟の有無
第四章 新たなる敵
第五章 再動する闇

となっていて、まずは前シリーズ「聡四郎巡検譚」で死闘を繰り広げたメンバーたちの近況が語られます。聡四郎側のほうは愛娘「紬」を誘拐され、取り戻したもののそのショックで腑抜けのようになってしまった妻の「紅」がいつもの伝法な調子を取り戻していきますし、吉宗は相変わらず、幕府の改革は遅々として進まないことに苛立っています。

一方、聡四郎を付け狙う御広敷伊賀者の抜忍・藤川儀右衛門のほうは、残った仲間たちをつれて江戸を退き、反撃の体制を整えようとしているのですが、将軍を敵に回したことで仲間の離反が相次いでいる、という状態です。もともと「利」でつながった者たちなので、落ち目になると離れるのも早く、藤川は手勢の食い止めと挽回作を思案するところまでで今巻は止まっています。

聡四郎側、藤川側とも前シリーズの混乱が収まらない中、吉宗が推し進めようとする幕政改革にはずみをつけるため、今度も聡四郎を抜擢し、前面に立てようとしてきます。それが「惣目付」という役目の創設で、旗本を監視する「目付」、御家人を監視する「徒目付」、大名を監視する「大目付」とは別個の組織として、吉宗の手て足として天下の「すべて」を監察する役目に聡四郎を任命します。

今まで例のない職をつくることなので、御広敷用人や道中奉行副役の時のように既に役職についている役人や監察される幕臣たちからの猛反発が起きるのは確実で、今回は、監察の役職にある大目付や目付、さらには今まで実質的に監察の対象から外れていた幕政のトップ層にいる勘定奉行や寺社奉行、老中からの妨害活動が始まります。

妨害活動はまだ職務に就いていない聡四郎ではなく、吉宗に対して、職務の詳細を尋ねたり、先例のあれこれとの整合性を聞いたりといった姑息なことから始まるのですが、それらをこなごなに粉砕していく吉宗の豪腕ぶりをお楽しみください。

Bitly

第二巻「術策」=「惣目付」の邪魔をする「徒目付」を全員、入れ替えろ

前巻で「惣目付」の創設と聡四郎がその任に就くことが発表され、いよいよ幕臣たちの妨害活動が本格化してきます。構成は

第一章 小波大波
第二章 役の始め
第三章 殿中暗闘
第四章 監察の闇
第五章 雌伏の客

となっていて、勘定奉行や寺社奉行の「惣目付」創設への妨害行為が吉宗によって粉砕された後、吉宗が命じた最初の役目は「奥右筆」の監察です。

もともとは将軍親政を進めるため、五代将軍・綱吉によって創設され、老中たちの合議による「御用部屋」政治から脱却するためにつくられたものなのですが、幼君の誕生によって、老中の手先となってしまっています。このあたりは、同じ筆者の「奥右筆秘帳」のシチュエーションとはちょっと違っています。

この物語の「奥右筆」は綱吉の将軍親政によって、将軍に挙げられる書類や決裁事項の全てに目を通し、さらにその優先順位も左右することができるようになっているため、幕政の陰の実権を握っている状態になっています。老中の意を受けて、吉宗に大量の書類の決裁をあげて政務を遅滞させます。怒った吉宗は奥右筆の組頭を脅しあげ・・という展開です。調子にのって虎の尾をふんでしまい、虎に噛みつかれるという聡四郎シリーズでよくあることですね。

そして、奥右筆を吉宗に締め上げてもらったのは、惣目付である聡四郎の命じる仕事のサボタージュを考えている「徒目付」に鉄槌をくらわすために、徒目付の大幅入れ替えを行うため、その障害のなりかねない事務手続きが遅れるのを事前に取り除いたということですね。ついでに、幕臣の家庭状況などをよく知っている奥右筆から人選の推薦をあげさせるためもあったようです。

幕府の監察役という立場で、いままで外部からの批判をうけることのなかった目付や徒目付は聡四郎によって存在意義を大きく揺さぶられていくことになります。

Bitly

レビュアーの一言

第二巻で、次巻以降の新たな火種として仕込まれているのが、「全てを監察する」という役目から、今まで幕府の監視の眼も緩かった御三家。中でも五代将軍綱吉と八代将軍吉宗の将軍選出の際に、将軍の座を争った経歴を持つ尾張徳川家です。

年代的には兄の徳川吉通、甥の五郎太の急死を受けて、徳川継友が第6代尾張藩主となっていた時代で、吉宗と七代将軍・家継の後継の座を争い、経済政策でも対立の多かった人物ですので、大火事が予測される「火種」としては十分な仕掛けですね。ちなみに、御広敷伊賀者の抜忍・藤川も尾張に食い込もうと企んでいるようです。

【スポンサードリンク】

コメント

タイトルとURLをコピーしました