山本巧次「満鉄探偵 欧亜急行の殺人」=欧亜をつなぐ列車内密室殺人の謎をとけ

昭和初期、中国東北部に大日本帝国の大陸支配の傀儡政権として建国された国・満州国にあった「南満州鉄道」は鉄道運営だけでなく、鉱山や製鉄産業、駅を中心とした都市建設など満州国の国家運営の中枢を担った国策会社として有名です。その「満鉄」内部の書類紛失に始まる連続殺人事件の謎解きが、日本軍やロシアのスパイを巻き込みながら展開される鉄道ミステリーが『 山本巧次「満鉄探偵 欧亜急行の殺人」(PHP文芸文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

満鉄社内で書類消失が発生

構成は

第一章 大連
第二章 欧亜急行
第三章 興安嶺
第四章 満州里
第五章 星ケ浦

となっていて、物語の探偵役を務めるのは、南満州鉄道本社の資料課に勤務する「詫間耕一」 。資料課というのは本書によると明治40年に当時の社長・後藤新平の肝いりでつくられた、日露戦争後の満州や周辺部、ロシアの地理、歴史、民俗、政治情勢を調査する「調査部」の流れを汲んだ部署なのですが、その調査機能は「経済調査会」に引き継がれていて、この物語の当時は少し斜陽な部門のようです。ただ、こういう目立たなくなっているところに情報処理担当を置くっていうのが常で、詫間も満鉄総裁・松岡洋右の密命をうけて秘密の調査業務に従事しているようです。

で、彼が今回指示されたのが、満鉄内部で消失する文書が相次ぎ、しかもそのうちの重要なものは、一旦消えてからしばらくすると見つかるという現象が続いているので、その真相を調べろ、というものです。

第一の被害者は大陸浪人

社内の書類の紛失事件なので、疑わしいのは満鉄の社屋内で勤務していたり、出入りする人物で、耕一は友人の刑事・矢崎の力を借りながら調査を進めるのですが、浮上してきたのが、元大陸浪人で日本陸軍の関東軍や憲兵隊などに情報を売っているという噂のある「塙宗謙」という人物。まあ、こうした怪しげな人物が社内に出入りしているということで、満鉄自体がただの鉄道会社ではないことがわかります。
この人物に会って、書類紛失事件のことを聞き出そうと訪問したところ、塙の家で部屋にあった「大黒天の像」で後頭部を殴られて死んでいるのを発見して、というのが第一の殺人事件ですね。

この殺人事件の犯人究明のため、彼がよく使っていた「沙楼夢」というクラブの馴染みのホステス・春燕に聞込みをし、塙殺害に絡んでいそうな白系ロシア人のエフゲニー・ボリスコフという男に目をつけるですが、彼の監視を始めると、大連の憲兵隊や特務機関が妨害をしてきて、といった筋立てで一挙に「国家犯罪」的な様相を示してきます。

欧亜急行内で第二の殺人発生

この後、ハルピンへ向かうボリスコフの後を追って、松岡総裁の命令で、調査に同行することになった辻村という男とともに、欧亜急行に乗り込むのですが、そこには、監視の邪魔をしてきた憲兵隊と特務機関の軍人や、沙楼夢のホステス・春燕も同じ列車に乗り込んでいることがわかります。春燕はすごい美人な上に、五ヶ国語が喋ることも判明し、ただのホステスではないことがだんだんとわかってきますね。そして、列車がハルピンへ向かう途中、列車内の金品を狙う「匪賊」に襲われるのですが、匪賊の撃退騒ぎにまぎれて、ボリスコフが何者かに射殺されてしまい・・という展開です。

車内には、殺されたボリスコフの乗車していた車内には、日本人や中国人以外に欧米諸国のスパイかもしれないと思わせるドイツ人やフランス人、ポーランド人も乗車している上に、沙楼夢のホステス・春燕がボリスコフの部屋を監視していたという証言も出てきて・・といった感じで、疑わしい人物満載の密室事件となってくるわけですね。

殺人の原因は偽造書類?

列車は大連を出発し、途中、ハルピンに向かう途中でボリスコフが射殺され、その後、満州里へと向かうのですが、途中、興安嶺で線路工夫に化けた連中による線路爆破未遂もあり、どうやらボリスコフが盗み出したらしい「書類」をめぐり、各国のスパイたちが暗躍している気配が濃厚となってきます。ところが、ボリスコフの旅行鞄から見つけ出した書類は、満鉄の調査部が以前、満州周辺の資源について調べたものだったのですが、その内容が全くの嘘っぱちに改ざんされていて・・と展開していきます。

さて、「塙」と「ボリスコフ」を殺したのは誰で、その目的は?、さらには春燕の正体は何なのでしょうか、真相と途中の大活劇は原書のほうでお楽しみくださいね。

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レビュアーの一言=ヨーロッパまでの旅行料金は相当高価

今回の物語では、南満州鉄道の欧亜急行に乗車して謎解きを進めていきます。東京から大陸へ渡り、シベリア鉄道を経由して欧州へつながる欧亜連絡鉄道は、ソビエト革命後大正14年に復活しているのですが、所要旅行期間はだいたい2週間ぐらいかかったようなのですが、1ヶ月程度必要な船旅に比べると「早い」旅ですね。
次に気になる料金は、というと

鉄道賃は東京〜ロンドン間が、一等車 181ドル70セント、二等車 135ドル85セント、三等車  90ドル62セント

寝台料金(昭和2年)は、モスクワ〜満州里間が、一等 45ドル63セント、二等 10ドル38セント、三等 6ドル92セント

となっていて、三等車利用でも97ドル54セントかかっています。
当時のレートは1ドル=3円50銭ぐらいだったようなので、鉄道賃+寝台料金でも350円ぐらい。当時の大卒初任給が90円ぐらいなので、当時の大卒が超エリートなことを考えると、かなりお高価いですね。

(料金などは「鐵道趣味」さんの「第144回鐡道記念日 特集 第一列車富士・超特急燕で行くシベリア経由欧亜連絡旅行です!」の記事を参考にしました)

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