居眠り女官は「廃れ皇女」失踪事件の悲しい真実を見つけ出す=小野はるか「後宮の検屍女官」3

架空の中華の国「大光帝国」の後宮を舞台に、かつては前途有望な官吏であったのが、冤罪によって宮刑を受けた中宮付きの美貌の宦官・孫延明が、もとは皇帝の寵姫の侍女だったのが、後宮内の事件解決に関わったため機織りの閑職へ左遷され、暇さえあればぐうたらと居眠りをしつつも検屍となるととんでもない才能を発揮する女官・姫桃花とともに、後宮内でおきる怪異な事件の謎や冤罪を晴らしていく、中華後宮検屍ミステリー『小野はるか「後宮の検屍女官」(角川文庫)』シリーズの第3弾。

前巻までで、宮刑を受けた後、中宮内に逼塞していた孫延明が、後宮の女官と宦官を監察する役目につき、その求めに応じて、姫桃花も後宮内の事件の検屍に駆り出されて謎解きをする頻度が高くなってきているのですが、今巻から、現皇帝の一番の寵姫で、後宮の実力者である梅婕妤との対決が近づいてきています。

あらすじと注目ポイント

構成は


第一章 親心
第二章 蝶々
第三章 偽り

となっていて、まず第一の事件の被害者は梅婕妤の乳母の「曹絲葉」という女性。彼女は梅婕妤の母親が梅家に嫁ぐ際に実家から伴をしてきていて、梅婕妤が生まれてからずっと、実母の母替わりとして養育して来、そのまま後宮へついてきたもので、まさに「育ての母」といっていい存在です。

その彼女が、梅梅婕妤にいびり殺されたと噂されている李美人が住んでいた「三区」で櫓から落下して死んでいるのが発見されます。本当であれば、育ての母の死で梅婕妤陣営が大騒ぎして真相究明に乗り出すはずなのですが(場合によっては対抗する「皇后派」に濡れ衣を着せるのを企んだりして)、どういうわけか梅婕妤派の中常侍が調べ、身投げによる自殺だとあっさりと片付けとしてきます。

そこに不審を抱いた延明はいつものように桃花を連れ出し、検屍をさせるのですが、彼女は、乳母の死体のあった現場の雑草などから彼女は櫓から落下したのではなく、現場に放るように遺棄されたことを見抜きます。そして、乳母はもっと高い建物から墜落死したことをつきとめるのですが、櫓より高い場所は?そして墜落した理由は、といった謎解きです。

李美人の幽鬼の影におびえる娘同様に育ててきた梅婕妤を守るためにとった、乳母の行動がヒントとなっています。

第二話の「蝶々」は後宮内の十区に住む「帰蝶公主」の失踪事件の捜査です。彼女は皇帝の娘には間違いないですが、母親である「諸葛充依」という側室への皇帝の寵愛は薄れていて、まあ「廃れ皇女」のような状態ですね。さらに、もともと仕えていた側室に先んじて妊娠したことで嫉妬され、母親の後宮内の地位も低いままで冷遇され、このため母親は皇女を疎んで、ほとんど育児放棄しているといった状況です。

そのせいもあってか、この公主は「蝶々好き」という変わり者である上に、過去にも失踪騒ぎの前科があります。さらに、母嫌だけでなく、その侍女も公主を隠れてイジメたり、食事を与えなかったりといた酷い扱いをしているという話があったため、彼女が公主失踪の秘密を知っているのでは、と拷問を受けます。侍女は、公がご飯を食べなかったり、我儘が多いので折檻したのだ、と言い逃れをするのですが、もともと快活だった公主が暗くなり、さらに我儘をいうようになったのには、ある秘密があって・・という展開です。

ネタバレを少ししておくと、この侍女は実は無実。帰蝶公主の失踪には、公主と仲良くあ尊dね板と思われていた別の公主が絡んでいるのですが、それを桃花がどうやって見抜いたか、は原書のほうでどうぞ。

第三話の「偽り」ではまず、李美人の元居住区「三区」内の井戸から、中に放置されていた宦官の死体が発見されるところから始まります。死体は、後頭部に傷を受けた後、自力で井戸の近くまできてふらついて落ち、井戸の水で溺死した、と桃花は検屍結果を出します。その宦官は、「穴堀りに行く」といって死んだ現場のほうへ行ったらしいのですが・・という筋立てです。

この事件は第一巻での李美人の死亡に関連した宮女の連続死事件にも関係してきます。

レビュアーの一言

李美人の不遇の死への寵姫・梅婕妤の関与の疑いといったところから始まったこのシリーズなのですが、ここまできて、許皇后派と梅婕妤派との対立の激化や、皇帝の座を争う資格のある第二皇子の存在など、後宮内の事件の謎解きから一挙に「政争」「権力争い」の様相が増してきました。

この巻では、その戦端が開かれる事件もおきていて、次巻の二派激突の大波乱が予測されるところです。

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