「准教授 高槻彰良の推察Ex」=高槻の周りの脇役たちのサイドストーリーはいかが

一度見たら全てを記憶する「瞬間記憶」と抜群の観察力、そして子どもの頃に誘拐されたことによるトラウマを抱える、東京都千代田区にある青和大学で民俗学を教える准教授・高槻彰良と、幼い頃の怪奇体験から人の嘘が歪んで聞こえる異能を持ってしまった青和大生・深町尚哉が、民俗学の知識を遣いながら、世の中で不思議現象といわれているものに隠されている「真実」を解き明かしていく民俗学ミステリー「准教授 高槻彰良の推察」シリーズのメインキャストとサブキャストがそれぞれの物語が描かれるエクストラ・バージョンが、本書『澤村御影「准教授 高槻彰良の推察Ex」(角川文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

収録は

第一章 お人形あそびしましょ
第二章 わんこくんのわんこの話
第三章 俺の友達の地味メガネくん
第四章 休日は本棚を買いに

となっていて、まず第一話の「お人形あそびしましょ」は、高槻准教授の属する青和大学の文学部で日本史を教えている三谷孝行教授の研究室が発端となった話です。彼は市松人形フリークで、研究室には集まってきた20体以上の市松人形が飾られているという状況で、人形が苦手の尚哉くんには恐怖の研究室のようですね。

事件のほうは、三谷教授のブログに、彼が蚤の市で買った市松人形が、祖母が大事にしていたのだが、母親がゴミに出してしまったものかもしれないというコメントが入ったところから始まります。コメントを入れた畑中千尋という女性に聞いてみたところによると、祖母が幼くして亡くなった娘の形見として作ったもので、「まぁちゃん人形」と名前を¥つけて、ずっと大事にしていたのですが、千尋と彼女の父母と同居してから、怪異が起こり始めます。
それは、ピアスとか指輪とか細々したものがなくなって、翌日、その人形の膝の上になくなったものが置いてあったり、家のあちこちにその人形が移動したりといったものだったのですが、母親がすっかり気味悪がって、人形を捨ててしまったというわけですね。
人形がいなくなって悲しんでいるおばあさんのために、「まぁちゃん人形」を千尋の家に帰すべく、千尋の母親の説得を始め・・という展開です。

物語は、人形が帰って一件落着と思われてのですが、そこで終わらないで怪奇色がでてくるのがこの話のキモですね。

第二話の「わんこくんのわんこの話」は、人のつく「嘘」が歪んで聞こえてしまい、その仕草から相手の嘘に気づいていることを知らせてしまうため、友人だけでなく家族との仲もぎくしゃくしてしまうようになった尚哉が、唯一、心を開いてつきあうことのできた愛犬「レオ」とすごした日々を描いた掌編です。これを読むと、彼が高槻研究室で使っているマグカップの絵柄の謂れがわかりますね。

第三話の「俺の友達の地味メガネくん」は、そんな尚哉の人間としての唯一の友人「難波要一」くんが、尚哉にコクって振られてしまった女の子の友人に頼まれて、その女の子を振った理由を聞き出そうと試みる話なのですが、尚哉がその女の子をネズミ講詐欺から救出していたり、と意外な「騎士(ナイト)」的行動をしていることがわかります。
そして、難波が尚哉を居酒屋に呼び出して聞き出す場面では、いつ尚哉は秘密を暴露してしまうか、と期待させるのですが、グダグダの難波くんでは無理だったようですね。

第四話の「休日は本棚を買いに」は、大筋としては高槻と彼の幼馴染・佐々倉との休日の一コマが描かれています。時間軸としては、浅草の旅館での「紫鏡」騒動の後ぐらいでしょうか、自分の中の「もうひとりの高槻」が強引に意識を支配する頻度が上がっていることを自覚する高槻と、それを心配している佐々倉の姿が描かれているので、二人の友情物語をお楽しみください。
なお、今話で、第4巻の「人魚のいる海」で登場した、おそらくは八百比丘尼であろう「海原沙絵」が、佐々倉の所属する警視庁捜査一課の「人でないもの」が起こした事件を担当する「異質事件捜査係」のマーク対象となっていることがわかります。彼女は、「死人の夏祭り」から尚哉と高槻を救い出した恩人なのですが、高槻の知らない事件にも関わっていそうな感じです。この「異質事件捜査係」と「沙絵」の活躍するアナザーストーリーも読んでみたいものですね。

准教授・高槻彰良の推察EX (角川文庫)
高槻の研究室に、市松人形を抱いた日本史の三谷教授が訪ねてきた。 蚤の市で手に入れたその人形の写真をブログにアップしたところ、元の持ち主の孫を名乗る人物から連絡があった。 曰く、その人形は勝手に髪がのびたり動き回ったりするので、母親が気味悪が...

レビュアーの一言

今巻で注目する「民俗学」的小ネタは、なぜ、「お菊人形」の髪は伸びるのか?というところ。人形の髪が伸び続けるという話は怪奇現象の定番ネタであるのですが、この理由の一つは『「のびてる」のではなく「ずれてる」だけなのでは』という解釈があるらしいです。本書によると

人形に植毛するときは・・・長い髪の毛を二つ折りにする。・・(二つ折りにして)中央の輪になった部分を人形の頭に埋め込んで、膠を接着剤にして固定する。
(略)
ところが、長い時間が経つと、膠が古くなって接着力がなくなったり、何らかの事情で下地や中張りがずれたりして、均等な長さで二つ折りになっていたはずの髪が左右のどちらかにずれてしまうことがある

ということのようなのですが、果たして全ての「お菊人形」の怪異を説明できるかどうかは「?」なようですね。

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