「准教授 高槻彰良の推察5ー生者は語り死者は踊る」=尚哉は再び「死者の夏祭」を訪れ、山神に出会う

一度見たら全てを記憶する「瞬間記憶」と抜群の観察力、そして子どもの頃に誘拐されたことによるトラウマを抱える、東京都千代田区にある青和大学で民俗学を教える准教授・高槻彰良と、幼い頃の怪奇体験から人の嘘が歪んで聞こえる異能を持ってしまった青和大生・深町尚哉が、民俗学の知識を遣いながら、世の中で不思議現象といわれているものに隠されている「真実」を解き明かしていく民俗学ミステリー「准教授 高槻彰良の推察」シリーズの第5弾が本書『澤村御影「准教授 高槻彰良の推察5ー生者は語り死者は踊る」(角川文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

第一章 百物語の夜
第二章 死者の祭
【extra】マシュマロココアの王子様

となっていて、今巻の舞台は「夏休み」の時期。まず第一話の「百物語の夜」では、高槻の授業を受講している学部1年生・葉山からの提案で、がく名で「百物語」を開催したいという提案に、高槻がのって学生20人を集めての「百物語」が開催されます。教室内で物語をし、定番の物語が一つ終わるごとのロウソクや行灯が使えないので、百均で買ったペンライトを消していくという趣向ですね。

語られる物語は、伝聞やネットからひろってきたものがほとんどなのですが、大石という学生の語った事故死した妹の話ぐらいが本物でしょうか。

彼の妹は、彼が小学生の頃、友達と遊びにでかけていたときに、ボール遊びのボールをおいかけて車に轢かれて死亡しています。妹にめを配っていなかったことを悔やんでいる彼のところに、妹と彼が喧嘩の仲直りの印によくやっていたように、枕元に花が置いてあったというもの。怪奇譚というよりも、「いい話」っぽいものなのですが、百物語の最後に「おにいちゃん」という小さな女の子の声が聞こえたことからにわかに怪奇色が増してくるわけですね。

実は、この小さな女子の「声」には仕掛けがあって、勘の鋭い方ならお気づきのとおり、「百物語」の仕掛け人である「葉山」が友人を使って、この声を教室の外から百物語の終わり際に流した、ということなのですが、百物語が終わっても、大石のもとに「妹の仲直りの印」の花が届き続けたという、本当の謎が始まります。

第二話の「死者の祭」では、嘘が歪んで聞こえるという「尚哉」の異能の原因となった、青い提灯のさがった「死者の盆のお祭り」の現地へ、高槻と尚哉・佐々倉が訪れます。尚哉と同じ経験をして、同じ異能を持ってしまった建築設計会社社長の遠藤によると、過疎化が進んでいて、何も残っていないということなのですが、遠藤がそこで出会った、村人の「嘘」が手がかりですね。

尚哉たちは、従兄弟の記憶に従って、村にある小山の中程の夏祭が行われる神社を抜け、頂上にある「巨岩」を祀った場所へ上り、そこから向かい側の村へと下って、そこで、村の謂れや、森の中には死んだ人が歩いているといった伝承があるのを知ります。

そして、日が暮れた後、もと来た道をたどって、尚哉が子供の頃来ていた祖母の家のある村へ山道をたどっていくのですが、そこで高槻と尚哉は「死者の夏祭」に迷い込むこととなってしまい・・という展開です。ここで死霊やそれを統括する「山神」に襲われた高槻と尚哉を救うのは、前巻で登場したトリックスター「沙絵」で・・と物語が動いていきます。

山神が、高槻と尚哉を現世へ戻す条件として出したのが、寿命の半分を差し出せというものだったのですが、この無理難題をどうやって「沙絵」がかわしたか、原書のほうでお読みください。

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レビュアーの一言

物語の本筋と並行して、このシリーズでは民俗学的うんちくが魅力なのですが、今回は「百物語」に関するものが注目です。まず「なぜ百なのか?」っていうところでは

僕ら日本人の中で、百という数字は、ある種決定的な一区切りを示す一人も言えます。たとえば「ここで会ったが百年め」という言葉がありますね。「百発百中」とか「百も承知」とか、百を使う言葉はとても多い。・・・「百」という数字には、儀式的な意味合いがある。・・・願いを叶えるに足りだけの十分な数が「百」だったのでしょう

とか、怪談会や怪談話が夏の定番行事になっているのは

夏の行事で大きなものとして、盂蘭盆会があるよね。いわゆるお盆だ。・・夏は日本人にとって、死者を思い出すシーズンなんだよ。だから夏場に幽霊の話をするんだ。行きている者達は死者が出てくる物語を語り、聞き、そうして彼らに思いをはせる。たぶんそれが、生者と死者との付き合い方の一つだったんだよ

といったあたりですかね。百物語をテーマにした物語としては、京極夏彦さんの「巷説百物語」シリーズが有名ですね。

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