「准教授 高槻彰良の推察4ーそして異界の扉が開く」=江ノ島に現れた「人魚」の謎を解け

一度見たら全てを記憶する「瞬間記憶」と抜群の観察力、そして子どもの頃に誘拐されたことによるトラウマを抱える、東京都千代田区にある青和大学で民俗学を教える准教授・高槻彰良と、幼い頃の怪奇体験から人の嘘が歪んで聞こえる異能を持ってしまった青和大生・深町尚哉が、民俗学の知識を遣いながら、世の中で不思議現象といわれているものに隠されている「真実」を解き明かしていく民俗学ミステリー「准教授 高槻彰良の推察」シリーズの第4弾が本書『澤村御影「准教授 高槻彰良の推察4ーそして異界の扉が開く」(角川文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

第一章 四時四十四分の怪
第二章 人魚のいる海
【extra】それはかつての日の話Ⅱ

となっていて、人のつく「嘘」が歪んで聞こえる異能の持ち主「深町尚哉」が青和大学文学部に入学してから一年経過し、二年へ進級しています。高槻准教授の講義はあいかわらずの人気のようで、第一回目の講義では、ネットで有名な「きさらぎ駅」の考察が描かれているのが興味をひくところです。

第一話の「四時四十四分の怪」は建築設計事務所に勤務する若い美人の女性からの相談です。彼女の職場で休憩中に「四時四十四分に4人の人間が集まって、教室の黒板に円を描き、その中に全員で左手をつくと、異次元の世界にひきこまれる」という「四時四十四分の呪い」が話題になり、そこに集まっていた同僚4人でそれをやってみたところ、怪異が起き始めた、という相談です。

その怪異というのが、知らないアドレスから「4444」という数字だけ入ったメールが届き、4人のうち一人は「444」と、一つ数字が欠けています。まず、その欠けたメールを受け取った女性は家の近くの怪談から落ちて怪我をしてしまいます。そして、その「4」の連続するメールは連続数字を減らしながら数日おきに届きます。二番目にほかより一つ数字が少ないメールが届いた人は、職場で本棚が倒れてくる事故に巻き込まれた上に、事務所のオーナーに突然機嫌を損ねて契約社員の更新を断られ、さらに帰宅途中に何者かに鉄パイプで殴られるという不運に見舞われます。そして三番目の社員は届いたメールに驚いて、職場をとび出したところで車にはねられ、生死に関わる長期間の入院が必要な大怪我をおったり、災厄のレベルがアップしていっています。

「四時四十四分の呪い」の職場での話は、その相談者の女性が始めたものなので、自分がきっかけで同僚に不幸が訪れ、さらに、災厄が訪れていない自分にはどんな大きな災厄がくるのか不安にかられ・・という展開です。

相談を受けた高槻は、「四時四十四分の呪い」が「四」と「死」を音が似ていることから結びつけて考える「言霊信仰」が根っこにあることを明かした上に、今回の連続事故の影に、職場内での嫉妬に根ざした「いじめ」が隠れていることを見抜いていきます。

この相談過程で、高槻は「四時四十四分の呪い」を祓うある「おまじない」も伝授していますので、その仕掛けも原書のほうで確かめてくださいね。

二番目の「人魚のいる海」は、「江ノ島に人魚が出た」という都市伝説の謎解きに高槻と深町・佐々倉のトリオが挑戦する話です。

江ノ島の沖合に、上半身は女性で、下半身は魚というディズニー映画さながらの姿で泳いでいるのを早朝、漁にでていた漁船の漁師がみかけたというものなのですが、その調査の途中で立ち寄ったイタリアンレストランを経営している夫妻の妻・夕子が、一年前に病気を苦にして海に入って自殺していることを知ります。この夫妻には足が不自由な男の子が一人いたのですが、その男の子・陸は母親は死んでおらず、海に入って人魚になったのだ、と主張します。そして、最近家の窓の外で歌を歌ってくれたとも。母親が歌ってくれた場所と男の子が言うところには「魚の鱗」も落ちていて・・という展開です。

実はこの前に、この妻の幼馴染の「沙絵」と魚屋に勤めている女性に出逢っていて、彼女が人魚の謎を解く鍵を握っています。陸に母親・夕子が人魚だったという沙絵の声はウソで歪んでいなかったり、レストランに飾ってあった昭和初期の江ノ島の海岸を撮した写真に「沙絵」によく似た人物が撮っていたり、と母親を亡くした小さな男の子の心を傷つけまいとする大人の気配りと小さな嘘では説明しきれない事実もあって・・という筋立てです。

最終話の「【extra】それはかつての日の話Ⅱ」は、誘拐事件後、母親との仲が決定的に悪化し、実家に居場所のなくなった「彰良」が、イギリスへ留学し、そこで叔父・渉の仲間たちに囲まれて、だんだんと自分を取り戻していくところが描かれます。この話の中で、本シリーズでもでてくる、意識を失い、別人格が現れてくる彰良の最初の姿が描かれるのですが、この現象は最終話のイギリスの「取り替え子」の伝説に関係しているのか気になるところですね。

Bitly

レビュアーの一言

今巻では、人のつく「嘘」が聞き分けられるようになった尚哉と同じように、青い提灯のさがった祭りに迷い込んだ経験をもつ建設事務所の社長の「遠山」ですとか、高槻の叔父で、イギリスでアンティーク商を営む高槻渉、さらには、人魚の調査で訪れた江ノ島で出会った、手相を見るのが得意といって、高槻や尚哉が隠している秘密と彼らがきづいていないこれからの災厄を予言する「沙絵」といった今後のシリーズ展開に大きな影響をもってくる人々が登場します。特にこの「沙絵」という女性は大きな秘密を抱えているようで、次巻以降の闇にかかわる重要なところで登場してくることになります。

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