事件の「裏の顔」を犯罪博物館の美人館長が見抜く=大山誠一郎「記憶の中の誘拐 赤い博物館2」

英国スコットランドヤードの犯罪博物館こと「黒博物館」を模して、警視庁管轄下で起きた事件の捜査資料や証拠を保管し記録するためにつくられたのが、警視庁犯罪資料館、通称「赤い博物館」。ここの館長で、キャリアで頭も切れるのだが、コミュ障のせいで出世街道からはずれている「雪女」の異名のある美人警視・緋色冴子と、警視庁捜査一課当時に情報漏洩の失態で博物館に左遷され、さらに警視庁に優秀な刑事の過去を館長の右腕として暴いたため、塩漬け確定となっている警察官・寺田聡に二人が、迷宮入りしかけている事件を寺田の聞き込み情報に基づき、緋色が「安楽椅子探偵」として謎を解いていく「赤い博物館シリーズ」の第2弾が本書『大山誠一郎「記憶の中の誘拐 赤い博物館2」(文春文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

収録は

「夕暮れの屋上で」
「連火」
「死を十で割る」
「孤独な容疑者」
「記憶の中の誘拐」

となっていて、まず第一話の「夕暮れの屋上で」は、23年前に、卒業式間近の高校の屋上で起きた女子高生の変死事件です。被害者となったのは二年生の美術部の女子生徒で、彼女が屋上の花壇の角に誰かに突き飛ばされ、頭をぶつけて死んでいるのが発見されます。
事件が発生した頃、1階下で掃除をしていた委託会社のスタッフが、屋上で女性の「わたし、先輩のことが好きなんです。ずっと、ずっと一緒にいたいんです」という声を聞いたことから、美術部の卒業する3年生の男子生徒3人に疑いがかかるのですが、決め手がなく迷宮入りとなっています。
その女子生徒が好意をよせていたらしい「友永」という男子生徒にも疑いがかかったのですが、彼に犯行をした覚えがなく、今は、同じ美術部の2年後輩だった女性と結婚しています。
緋色館長から事件の再調査を命じられた寺田は、この友永のところへ聞き込みに向かい、彼が死んだ少女から好意を持たれていたかどうかを確かめます。そして、それを確かめたとき、緋色館長が指摘した真犯人は・・という筋立てです。「好意を寄せられている先輩」というフレーズと卒業式間近というシチュエーションが、読者を迷わせています。

第二話の「連火」は、24年前に起きた連続放火事件の謎解きです。この事件では府中、国分寺、国立、立川で連続して放火が起きているのですが、犯人は火事になる直前に住人に火事が起きることを報せて避難させているので、殺人目的ではないと思われます。
五件目の放火事件がおきた後、若い女性から犯人と思われる人物がいるという通報が入ります。彼女は、自分の友人と一緒に部屋でテレビを見ているとき、連続放火事件のニュースが放映されたのですが、その時、その友人が「もう五件目なのに、またあの人に会えなかった」と呟いたというのです。警察が友人の名前を聞こうとしたとき、その女性は犯人に襲われ絞殺されてしまい、この放火事件の手がかりはそこで途絶えてしまいます。

「あの人に会えなかった」という言葉から、現代版「八百屋お七」事件と称されることになった放火事件なのですが、緋色の再調査で寺田が命じられたのは、その時の放火された被害者と、火災の実況見分を担当した消防庁の火災調査担当職員への再聞き取りを行うこと。そこでわかったのは、放火された家の管轄消防署がすべて異なり、さらに全て木造で、同じような時期に建築された家であったことぐらいなのですが、この情報で緋色は真犯人を推理していくのですが・・という展開です。
少しネタバレしておくと、「あの人」というのは消防署に関連した生きた人間とは限らない、というところですね。

三話目の「死を十で割る」は、赤羽でおきた女性にモテて、車に目のない会社員のバラバラ殺人事件の再捜査です。被害者は後頭部をアイスピックのような尖った凶器で後ろから刺されて殺され、その後、頭部と胴体、左右上腕部、左右前腕部、左右上腿部、左右下腿部の計10個にバラバラに切断されて遺棄されています。
一番、疑わしかったのは被害者と離婚調停で揉めていた妻なのですが、彼女は被害者の死亡時刻のしばらく後に電車に飛び込んで自殺、また被害者が妻に暴力をふるいながら離婚に応じないことで被害者を憎んでいた妻の父にもアリバイがあります。疑わしい人物が死んでいるか、アリバイがあるため迷宮入りが近くなっています。

ここで、緋色館長は、「犯人は(一番重くて運搬が面倒な)被害者の胴体を分割していないのに、腕と脚を分割しているのはなぜ」という疑問をいだき、ここから謎に挑んでいきます。そして、(ネタバレになるのですが)緋色の導き出した結論は「犯人が死体をバラバラにしたのは被害者がどんな姿勢を取っていたのか、わからなくするためだ」とということで・・という展開です。

このほか、会社の同僚や上司に金を貸して弱みを握っている男が殺された事件の真犯人が抱えていたもう一つの秘密(「孤独な容疑者」)であったり、26年前に起きた実母による誘拐事件の真相(「記憶の中の誘拐」)など、緋色が、過去の事件の思って見なかった側面を明らかにして、真犯人と事件の真相を明らかにしていきます。

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レビュアーの一言

前巻が、事件の周辺にいながら、誰も疑うことのなかった意外な人物が真犯人であることを明らかにして、今まで安定していた人間関係を破壊してしまうという筋立てだったのですが、今巻は、当たり前と思っていた事件の周辺事情が実は全く違っていたことを明らかにして、真犯人をあぶり出す、という筋立てとなっています。

どちらにしても、いままで安定していた人間関係や鉄板と思われていた捜査の前提をひっくり返してしまう事件の再捜査には間違いなく、寺田聡くんは捜査一課のメンバーたちから疎まれる境遇はまだ継続しそうな感じですね。

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