「准教授 高槻彰良の推察6ー鏡がうつす影」=紫鏡の呪いが、高槻を異界へと導く

一度見たら全てを記憶する「瞬間記憶」と抜群の観察力、そして子どもの頃に誘拐されたことによるトラウマを抱える、東京都千代田区にある青和大学で民俗学を教える准教授・高槻彰良と、幼い頃の怪奇体験から人の嘘が歪んで聞こえる異能を持ってしまった青和大生・深町尚哉が、民俗学の知識を遣いながら、世の中で不思議現象といわれているものに隠されている「真実」を解き明かしていく民俗学ミステリー「准教授 高槻彰良の推察」シリーズの第6弾が本書『澤村御影「准教授 高槻彰良の推察6ー鏡がうつす影」(角川文庫)』です。

前巻で、尚哉が嘘を聞き分ける異能を得た、長野県の祖母の住んでいた村で再び遭遇した「死者と山神の夏祭り」から、八百比丘尼の沙絵のおかげで生還してから一週間経ち、次自分の異能の源を知り諦めをつけた尚哉と、彼を災厄に巻き込んでしまったことを後悔している高槻たちが、再び新たな怪異の謎を解き明かしていきます。

あらすじと注目ポイント

構成は

第一章 お化け屋敷の幽霊
第二章 肌に宿る顔
第三章 紫の鏡

となっていて、長野から帰京してから、体調を崩している高槻を、佐々倉の依頼で尚哉が見守りにマンションを訪れるところから始まります。

第一章 お化け屋敷の幽霊

尚哉を災厄に巻き込んでしまい、さらに、その死者の夏祭りの最中は「自分の中にいるもう一人の高槻」に意識をのっとられて記憶を失ったことに落ち込んでいた高槻なのですが、自分の運営する怪奇譚の投稿サイト「隣のハナシ」に、お化け屋敷に出没するおばけの話で元気を取り戻していくところは、さすが都市伝説の研究家らしいところです。

投稿はそのお化け屋敷でアルバイトをしている女子大生で、そのお化け屋敷は、毎年テーマを変えていて、今年は学校で殺人鬼に殺された教師と児童の呪いをテーマにしていて、廃校に擬したつくりにしてあるのですが、来場者のアンケートに出口の前の廊下にある鏡が怖かったという答えが混じっていることがわかります。その場所は何も仕掛けはなく、大きな古い鏡がかかっているだけのところで、後ろからお化け役がおいかけてくるので怖い場所なのは間違いないのですが「鏡が怖い」というのは意味不明です。
その鏡は、このお化け屋敷をプロデュースした専門家が、自分の卒業校で、最近廃校になった小学校から借り受けてきたものらしいのですが・・という筋立てです。

依頼を受けた高槻たちは、高槻+大学院生の生方瑠衣子、尚哉+佐々倉のグループに分かれて、そのお化け屋敷を現地踏査するのですが、お化けの仕掛けに驚いたものの、投稿のあった鏡には特段怪異はみつかりません。しかし、佐々倉の言った一言が・・という展開です。

第二章 肌に宿る顔

第二話の「肌に宿る顔」は、高槻の従兄弟・高槻優斗の婚約者・鷹村未華子という女性の方に「人面瘡」ができてしまった、という相談事です。その「人面瘡」を肩の部分がケロイド状に盛り上がったもので、見方によっては人の顔に見えなくもない、というものなのですが、高槻と会うなり未華子は「天狗様」と高槻が最もいやがる呼び名で呼びはじめ・・という筋立てです。

さらに、婚約者の優斗を放っておいて、高槻に媚びてきます。いかに政略結婚とはいえ、これはルール破りではというところなのですが、ここまで彼女が変身した理由には実は子供の頃から秘めていた理由があって・・という展開です。

第三章 紫の鏡

第三話の「紫の鏡」は、浅草で古くから営業している旅館の跡取り娘・松井志穂からの相談です。その旅館には、家長以外には入っていけない納戸があるのですが、そこには紫の布がかかった和風の姿見がおいてあるからなのですが、彼女は母親から「紫鏡」という言葉を20歳まで覚えていたら死んでしまうと教わります。その母親は、彼女は7歳のときにその納戸に入って、そのまま行方知れずになってしまったというのですが・・という筋立てです。

依頼を受けて、その旅館に調査に訪れた高槻たちは、その母親が行方不明になる前、そこの従業員の男性の一人と浮気をしていて、逢引にその納戸を使っていたということを知ります。母親が行方不明になったとき、その男性も行方をくらましているので、おそらく二人で駆け落ちしたのでは、と思われているのですが、現実的な謎解きが多いこのシリーズには珍しく、本当の「怪奇」が忍び込まされています。

実は紫鏡は、この旅館の主人の祖父が借金のかたに手に入れたもので、その商家に繁栄をもたらすかわり、家長以外のものがその鏡を覗き込むと「あの世」へと引き込んでしまうというもので、志穂の母親は男と逢引をしているうちにその鏡を覗き込んでしまったため、引き込まれてしまったという経緯です。鏡を覗き込んだ高槻を「紫鏡」はあの世に引き込もうとするもですが、ここで高槻の中にいる「もう一人の高槻」が逆襲して・・という展開ですね。

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レビュアーの一言

今回の民俗学的うんちくで注目しておきたいのは、お化け屋敷の調査でお化け屋敷が人々に好まれる理由を解き明かしているところで、高槻准教授によると

お化け屋敷のルーツである見世物小屋は、もともと寺社の出開帳などに伴ってお個回れることが多かった。つまり「ハレ」の場なんだよ。
(略)
慣れ親しんだ日常は安全で安心なものだけど、ちょっと退屈だ。その退屈を土屋ブル特別な体験が「ハレ」の場で味わう非日常なんだよ。普段だったら別に見たくもないグロテスクなものも、自分の日常から離れた場所で見るなら、・・「楽しい」へと変換される。しかもそこで約束されているのは、僕らに対して決して牙を剥くことのない、作り物の恐怖や残酷さだ。

ということのようです。「怪奇譚」や「ホラー」が世代を超えて好まれるのはこんな理由があるからのようですね。

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