マリアとレンの「ジェリーフィッシュ」以前の苦い謎解き=市川憂人「ボーンヤードは語らない」

ジェリーフィッシュと呼ばれる飛行船が空に浮かび、遺伝子技術で「青いバラ」が生まれている、こちらの世界のパラレルワールドのアメリカによく似たU国の片田舎で警察官をしている、誰もが振り向く美貌とだらしない着こなしで、「寝起きのモデル」とも称されるマリア・ソールズベリ警部と、彼女の部下でJ国出身の冷静な刑事・九条漣が密室殺人の謎を解き明かしていくミステリ・シリーズの第4弾が本書『市川憂人「ボーンヤードは語らない」(創元社)』です。

ジェリーフィッシュ事件で、世紀の大発明であった真空気嚢の発明の秘密とそれに起因した大量連続殺人を解き明かしたマリア&レンの過去と、彼女たちの協力者として登場したジョン・ニッセン空軍少佐の事件のエピソードが描かれた短編集です。

あらすじと注目ポイント

収録は

「ボーンヤードは語らない」
「赤鉛筆は要らない」
「レッドデビルは知らない」
「スケープシープは笑わない」

の四編。

まず、第一話「ボーンヤードは語らない」は、ジョン・ニッセン空軍少佐が勤務している「ボーンヤード」と呼ばれている、故障や耐用年数の経過、新機種との入れ替えなどで退役した軍用機が多数保管されている空軍基地での事件です。

この広大な敷地の基地の夜間警備の見回りをしていたテリー・ラトリッジ軍曹が、奥の保管場所の戦闘機が置いてあるとことで、一人の男性軍人が死んでいるのを発見されるところから事件は始まります。

被害者の死因はこの基地にたくさん生息している「サソリ」に刺されたものと判明するのですが、なぜ、夜更けに飛行機の墓場といわれる場所に倒れていたのか調べるために、ジョン・ニッセン少佐がかかわったくることになります。

実は、この基地ではかねてから「航空部品の横流し」の噂があって、それとこの事故との関連性が疑われたわけですね。

実際、この死体を発見したラトリッジ軍曹は、しばらく後に、先輩兵士二人に空き会議室に連れ込まれ、さぐりをいれられてきていて、ますますその疑惑が強まっていくのですが、マリア・ソールズベリから二杯のビールと引き換えに引き出した事件推理をもとに、ニッセン少佐が辿り着いた真実は意外にも・・という展開です。

第二話の「赤鉛筆は要らない」はU国にやってくる前、J国で高校生活をおくっていた頃のレンこと九条漣の事件推理です。

市内の病院で偶然、部活の先輩・河野茉莉とその母親に出会ったレンは、荷物を抱えて難儀している二人を手助けして、先輩の家まで送ることとなり、そこで休憩しているうちに、成り行きで止まらせてもらうことになります。まあ、Hな関係というのではなく、その先輩の家に時折おしかけてくる父親の妹夫妻の行動を牽制するため、茉莉が泊まるよう誘導した、というところですね。

このため、夜更けまで、妹夫婦と付き合わされたレンなのですが、翌朝、茉莉の父親が離れの別室で殺されているのが発見され・・という筋立てです。この離れへつながった庭には往復の足跡が一組と行きだけの足跡が積もった雪の上に残っていたのですが、犯人がどうやって犯行現場の離れから脱出したのか、というのが謎となります。

少しネタバレしておくと、この叔父夫婦が容疑者として検挙されるのですが、これがうまいひっかけになってますのでご注意を

第三話の「レッドデビルは知らない」は、マリアのハイスクール時代におきた同級生の死亡事件の謎解きです。

彼女は、今もなおっていない喧嘩早さと素行の悪さで、良家の子供のかようハイスクールに親族によって無理やり入学させられ、寮生活をおくっています。その柄の悪さで「赤毛の悪魔」と呼ばれて周囲の同級生と孤立していた彼女の楽しみは、唯一の親友である「ハズナ」とのふれあいなのですが、彼女もその風貌から「黒檀の魔女」と呼ばれ、成績も素行もいいにもかかわらず生徒たち、特に白人の生徒から疎外されています。

そして、事件は、マリアと会う約束をハズナがすっぽかした夜におきます。彼女は、住んでいたアパートのベランダから落ちて死亡するのですが、同時に、彼女を一番疎外していた男子生徒の手下であった男子生徒もそこから転落して死んでしまいます。

現場にかけつけたマリアは何者かにスタンガンで襲われ昏倒するのですが、そのせいで彼女が事件の犯人では、と疑われることにもなり・・という展開です。

開かれた、自由の国である「U国」の暗い側面が滲み出る事件であるとともに、マリアが警察官を志した理由がこの話でわかってきます。

第四話は、マリアとレンがコンビを組んで直後におきた虐待事件の謎解きです。彼らが所属するフラッグスタッフ署に幼い子供の声で緊急通報が入ってきます。それは「たたかれて・・ママ・・しんじゃう」とカタコトで助けを求めると切れてしまうのですが、ここから、マリアの推理によって、発信先をつきとめ、そこでおきている事件の真相が明らかになっていきます。

この話では、冷静な「レン」も舌を巻くマリアの推理力のキレが垣間見えますね。

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レビュアーの一言

今巻で、マリア、レン、ジョン・ニッセンの、三人の過去と、彼らが抱え続けている「痛み」が明らかになっていきます。いずれも、親しかった同僚や同級生の非業の死や、憧れていた先輩の「犯行」という苦い思い出なのですが、ここらを知ると、今までの「乱暴なだけ」と思えていたマリアの行動をはじめ、登場人物の常人とはちょっと違う行動の理由が少しずつわかってくるような気がします。

さて、次はどんな密室と、どんな最新技術が登場してくるんでしょうか・・。

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