交換日記には秘密の話が隠れている=辻堂ゆめ「あの日の交換日記」

2015年に「いなくなったわたしへ」でデビュー。『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞し、2022年春からNHK夜ドラで「卒業タイムリミットが放映されていて、気鋭の作家として注目を集めている辻堂ゆめさんが、「交換日記」をテーマに描く感動コージー・ミステリーが本書『辻堂ゆめ「あの日の交換日記」(中央公論新社)』です。

本書のカバーに

「交換日記、全部読みました。そして思い出しました。
嘘、殺人予告、そして告白・・・。大切な人のため綴った日記に秘められた真実とは

気鋭の若手ミステリ作家が綴るのは、驚くべき仕掛けとその後おとずれる感動」

(本書カバーの紹介文より引用)

とあるように、「交換日記」といえば仲の良い男女学生か女子学生同士の間で行われるのが一般的だと思うのですが、先生と生徒、姉妹、親子、夫婦などの親しいけれど時として隙間風が入り込む間柄で繰り広げられる交換日記のやりとりに隠された秘密を明らかにしていく、連作コージー・ミステリーです。

あらすじと注目ポイント

構成は

第一話 入院患者と見舞客
第二話 教師と児童
第三話 姉と妹
第四話 母と息子
第五話 加害者と被害者
第六話 上司と部下
第七話 夫と妻

となっていて、まず第一話の「入院患者と見舞客」は、白血病のため入院している女の子と担任の女性教員との間で行われる交換日記です。入院が長引いて、学校生活に戻れない本話の主人公・井上愛美は、友達の「さくら」と「すみれ」の話を中心とした「学校生活」のことを交換日記を介して担任教師・坂田小百合先生と話をするのが、なによりの楽しみになっています。しかし、病状が悪化する一方の愛美は骨髄移植を受ける決断をし、無菌室となる病室には交換日記は持ち込めません。

4年間続けた交換日記の最後の日、愛美が書いた日記には、先生への感謝の言葉と、今までの学校生活に関わるある秘密が隠されていて・・という展開です、

少しネタばれすると、骨髄移植の結果、愛美の病気は治癒するのですが、その後、小学校へ登校した時の、愛美の様子に涙腺崩壊間違いなしです。

第二話の「教師と児童」は卒業式を間近に控えた小学六年生と担任教師との交換日記です。その女子小学生は、クラスの中に殺したいほど疎んでいる同級生がいるらしく、彼女の殺害計画を交換日記の中で告白します。この子の目的は、同級生の殺害とあわせて、交換日記で教師とのつながりを深めるということに欺瞞を覚え、それを勧める担任教師を教え子の殺害という事件で貶めるつもりも隠されています。

しかし、彼女が計画する殺人は交通事故による方法も含めうまくいきません。そして、そのうち、クラスに馴染めず、昼休憩も教室の残っている彼女に、そのマンガを書く才能を見出した同級生の友だちができ、いつのまにか殺人計画のほうはおろそかになっていきます。そして最後にその女の子が殺したがっていた同級生が明らかになるのですが、それは・・という展開です。

第三話の「姉と妹」は双子の姉妹「さくら」と「すみれ」の間の交換日記なのですが、華やかな姉と大人しい妹というとりあわせは外部から見ると仲が良さそうなのですが、交換日記にかかれている内容をみると、互いの悪口の応酬です。交換日記の交換、もともと妹の「すみれ」が引きこもりがちになったことに端を発しているのですが、そこには、二人の大切な祖母の交通事故死の原因が、すみれが車道の飛び出したのを助けようとしたことであることを、偶然聞いてしまったときから始まったものです。ただ、書かれている内容が、悪口の応酬になっているのは秘密があって・・という筋立てです。少しネタバレすると、最後のほうの姉妹の仲直りのところに意外な仕掛けが隠されています。

第四話の「母と息子」は、発達障害の男の子とその母親との交換日記なのですが、その男の子はいつも少し前の学校の出来事で誰かをなかしたり、喧嘩をしたり、といったことを書いてきます。そして、母親のお返しの日記を見て、「ママ、怒っていない?」と聞いてくるのですが、実はそこに、その男の子と担任の先生との交換日記の秘密が隠されていて・・という展開です。

第五話の「加害者と被害者」は、飲酒運転で小学校教師をはねてしまった犯人の男性・礼二が、お見舞いに訪れてくるところから始まります。毎日、お見舞いに来る彼に対して、その小学校教師の女性は、交換日記をすることを提案するのですが、実はそれにはある意図が隠されていて。という筋立てです。少しネタバレしておくと、お見舞いの持ってくるお菓子とかから、この交通事故の真相が明らかになっていくのですが、この事故の被害者に悲劇が突然やってくるあたりはちょっとびっくりですね。

第六話の「上司と部下」は交換日記ではなくて、中堅の事務機器販売会社の営業部の「日報」でのやりとりですね。この物語の主人公・篠崎は後輩社員の宇野紘奈のことが気になっているのですが、彼女が、幼い頃、仲良かった幼なじみではないかという疑いをもっています。その幼なじみに、幼い頃、彼女の実家の商売がうまくいかなくなっているのだから、彼女の大好きなピアノレッスンは家計を助けるために辞めるべきだ、と心無い言葉をかけたことがあり、それをずっと気にしていたというわけですね。さらに、その言葉をかけてから気まずくなったまま、彼女は両親と夜逃げ同様に姿を消してしまい、彼女の夢だったピアニストの道を諦めたらしいことから尚更気に病んでいるわけですね。

今でも、紘奈は篠崎のことを恨んでいるのか、篠崎の上司・葉山が仕事の確認を粧って探りを入れてみると、意外なことが明らかになってきて・・という展開です。基本的にはハッピーエンド、といっていいのかな・

そして最終話の「夫と妻」は第六話で登場した葉山とその妻・愛美との交換日記です。愛美は切迫早産で入院しているのですが、忙しくて見舞い時間に遅れがちになる夫のため、彼女は受け持ちのクラスの生徒たちとやっている「交換日記」を始めることにするのですが、続けるうち、夫の嘘に気づくのですが・・という展開です。夫が不倫をしているのでは、と疑う彼女なのですが、実はもっと大きな感動的な秘密が隠されています。

あの日の交換日記 (単行本)
「クラスの大杉寧々香を殺します」 私は先生との交換日記にこう書いてみた。その時の先生の反応は? 手書きの日記で交わされる、謎&感動満載の1冊!

レビュアーの一言

本巻の冒頭では「交かん日記をするときのお約束」という七か条が掲げられていて、それは

・読みやすい字で、ていねいに書きましょう
・ほかの人の悪口は書かないようにしましょう
・何を書くかは自由です。その日あったことや最近思ったこと、自分で作ったお話でもかまいません
・なやみを打ち明けられたら、優しく相談にのりましょう
・相手がどんなことを書いたとしても、せめたりおこったりしてはいけません。
・交かん日記をやめたくなったら、きちんと相手に言いましょう
・使い終わったノートをどうするかは、話し合ってきめましょう

というものなのですが、この七か条がそれぞれの話の「謎解き」のキーワードになる仕掛けになっているので、注意しておいてくださいね。

ちなみに、交換日記自体は日本独特の文化らしく、戦前の女学生文化の中で誕生したというイメージがありますが、当時は文通が主体でどうやらこれはフェイクのようですね。1960年代の「女性明星」の小説あたりにその起源があるという論説もあるようです。

人力検索はてな「交換日記の起源について」

ともかく、「交換日記」というおよそミステリーとは関わりそうもないアイテムをつかってミステリーを仕上げる作者の力量はすごいですね。「日記」という静的なものであるにもかかわらず、結構、ハラハラドキドキの感動コージー・ミステリーです。

【スポンサードリンク】

コメント

タイトルとURLをコピーしました