青春の爽やかな「密室の謎」を味わってみよう=青崎有吾「早朝始発の殺風景」

学校内に住むアニメオタクの名探偵・裏染天馬が活躍する「図書館の殺人」や「体育館の殺人」といった青春ミステリーの名手である筆者がおくる、始発の電車や、放課後のファミレス、観覧車のゴンドラといった突然成立した「密室」でおきる謎解きの短編集が本書『青崎有吾「早朝始発の殺風景」(集英社文庫)』です。

ちなみに「殺風景」というのは、人名ですので驚かないようにね。

あらすじと注目ポイント

収録は

「早朝始発の殺風景」
「メロンソーダ・ファクトリー」
「夢に国には観覧車がない」
「捨て猫と兄弟喧嘩」
「三月四日、午後二時半の密室」
「エピローグ」

となっていて、「エピローグ」は一話目の後日談となっているので、実質的には5篇の青春ミステリー短編集です。

第一話の「早朝始発の殺風景」は始発電車で登校している男子学生・加藤木が、クラスメートの「殺風景」という女子生徒と偶然列車内で出くわす所から始まります。ふたりとも名前を知っている程度の仲で、どちらもが相手がわざわざ「始発」で登校しているのか、の推理を始めて・・という筋立てです。
加藤木くんのほうは、最初、人気連載マンガをコンビニで立ち読みするために今日は始発に乗ったと嘘をつくのですが、殺風景さんの尋問にだんだんとボロがでてきて、見事に推理されてしまうのですが、殺風景さんの理由というのは、実は犯罪絡みの復讐劇で・・という展開です。

第二話の「メロンソーダ・ファクトリー」では、幼馴染で小学5年生の頃から仲のいい「私(真田)」と詩子、今年のクラス替えで仲良くなったノギちゃんの三人がいつも溜まり場にしているファミレスにやってくるところから始まります。彼女たちはたいていドリンクバーと何かのセットメニューを注文するのですが、「私」と詩子はデザート系、ノギちゃんはサラダかポテトのサイドメニュー系、飲み物は、詩子はメロンソーダで、いつもストローをとりわすれるといった描写で始まるのですが、すでにここから謎解きのしかけが始まっているので注意しておいてくださいね。
そして、事件のほうはこのファミレスで三人が学校の文化祭用につくるクラスのTシャツのデザイン決めのときに起きます。デザインは2つあって、一つは石川さんというクラスメートのクラスの40人分のニックネームをローマ字で並べたちょっとありきたりのもの。もう一つは「私」の考えた、地色の緑の上にペイズリー模様を真似た赤い葉っぱを重ね、クラス全員のニックネームは葉っぱの中に織り交ぜるように赤いローマ字で書き込むという凝ったデザインです。
二人がどちらが気に入ったか聞くと、ノギちゃんは「私」のデザインを選んでくれたのですが、詩子は石川さんのデザインを支持します。彼女によると絵は好きだけどわかりづらい、という理由です。まあ、彼女は小学校のクリスマス会はシャンメリーがないのでつまらない、といったり、中学の美術の授業で写生に行った公園では、自然の風景ではなく、「マンホール」を模写したり、といったかわった娘なので、その独特の感性もわからなくはないのですが、「私」のデザインを否定してくる様子に、「私」は詩子との友情そのものへの疑いまで生じてきて・・という展開なのですが、ここでノギちゃんが素敵な謎解きをしてくれますので詳細を原書のほうで。

このほか、高校の部活の引退記念の会で、ディズニーランド近くの幕張の遊園地にやってきて、後輩と一緒に観覧車に乗ることになった「俺」なのですが、後輩が観覧車に乗せたのにはそれなりの理由があって、という「夢に国には観覧車がない」や、両親が離婚して離れ離れに暮らしている兄妹が半年ぶりに会った時、妹が捨て猫を拾ってやってきます。保護猫としてどちらかが飼ってやりたいのですが、妹は猫アレルギー、兄のほうは父親が今度再婚する相手が猫アレルギーということで壁にぶつかってしまいます。二人がなんとか飼う方法を模索しているうちに、妹が、その猫を捨てた元飼い主がだれか気づいてしまい・・という「捨て猫と兄弟喧嘩」。風邪で高校の卒業式を欠席してしまった同級生のところへ、卒業証書などを届けに来た学級委員長が発見した、クールでクラスの同級生とじゃれあおうとしなかったその同級生の大人びた自室で感じた違和感と同級生の本当の姿に気づく「三月四日、午後二時半の密室」となっています。

エピソードで第一話の「早朝始発の殺風景」の結末譚が語られる中で、他の四話の登場人物たちと「加藤木」と「殺風景」がすれ違っていく、という形になっています。
第一話で話された「殺風景」の復讐劇がどんな結末を迎えたか、は今話中に少し書かれているのですが、「警察に協力する」といっていた割に、手荒いことをしているようですね。

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レビュアーの一言

いずれの話も、場面が遷移することなく小さな謎が提示され、登場人物たちの会話によってヒントが紡ぎ出され、謎解きがされていく、という非常に動きのすくない「密室劇」のミステリーとなっています。
そして、どの話も、ありえなそうでありえる青春の一コマ的な物語展開で、青春のオムニバス・ドラマを見ているような感じのする一冊です。

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