おばあさん探偵は、助けを求めるメモの本当の狙いを解き明かす=吉永南央「月夜の羊 紅雲町珈琲屋こよみ」

大観音像のそびえる地方の中核都市で、「小蔵屋」という和食器とコーヒー豆の小売を商う小さな店を営んでいる、70歳がらみの初老の女性、「お草さん」こと「杉本草」を主人公としたミステリーの第9弾が本書『吉永南央「月夜の羊 紅雲町珈琲屋こよみ」(文藝春秋)』です。

本の帯の紹介文によると

日課の散歩の途中、メモを拾ったお草。
そこに書かれたいたのは、<たすけて>という一言
助けを求めているのはいったい誰?

ということで、謎の誘拐事件を予測されるような雰囲気なのですが、血みどろの凶悪犯罪のおこらないことでは定評のあるコージーミステリーの「紅雲町」シリーズではおせっかいのおばあさん探偵が活躍する人情ミステリーが展開されていきます。

あらすじと注目ポイント

構成は

第一章 昼花火
第二章 桜が一輪
第三章 ストーブと水彩絵の具
第四章 コツン、コツン
第五章 月夜の羊

となっていて、物語は秋から冬へと季節が変わった寒い朝、自宅から河原へ出、川寄りの小さな祠から、三ツ辻の地蔵をめぐる日課の散歩の途中で、黒いボールペンで、弱々しく乱れた字で「たすけて」と書かれたメモ用紙を、お草さんがひろうところから始まります。

なにやら事件の臭いを漂わせる滑り出しで、メモを拾った夕方、小蔵屋に寄り道してくる高校生たちから、紅雲中に通っている「渡辺聖」という女子生徒がいなくなっている、という話をききます。そして、その女の子がいなくなった日に河原で見慣れない「銀色のバン」に乗った男が目撃されていて、少女の失踪となにか関係があるのか・・といった展開をするのですが、中学生の少女の失踪は、今回は犯罪とは全く関係なし。
ただ、少女の母親が小蔵家の常連であったため、捜索にお草さんも協力し、それが縁でこの少女「渡辺聖」がお草さんに懐いて、今回はお草さんが謎解きの過程でみせる「荒事」のアシスタントを務めます。ついでにいうと、彼女が通学する中学校の校長が、右よりのバリバリの上昇志向の持ち主で、教育委員会の受けをよくするために生徒指導を頑張りすぎて、OBたちの尻尾を踏んでしまうというエピソードの仕掛け人でもあります。

物語が本格的に動き出すのは、この失踪事件のあと。お草さんが拾ったメモのことが気になって、メモが落ちていたあたりを調べていたところ、散歩ルートの途中にある「百々路」という家の玄関に、住人の高齢女性が倒れているのを見つけ、救急車を呼ぶことに。そして、後日、その女性の見舞いに行くと、無理やりその家の鍵を渡され「お願いします」と懇願されます。この女性の頼みとは何なのか、またあのメモはこの女性が書いたものなのか・・といったのが最初にでてくる謎ですね。

そして、この女性が倒れていた時、家の中には勤め先で不祥事の責任をとって辞職後、引きこもりになっている中年の息子がいたこともわかり、さらに、この女性の娘も見舞いにはほとんど来ようとせず、といったのがこの謎を膨らませていきます。

ここに、渡辺聖の失踪事件の時に目撃されていた、「銀色のバンの男」も出没していることもわかり・・という展開なのですが、少しネタバレしておくと、被害者然としていた老女の本当の姿が謎解きの鍵となってきますね。被害者は単純な被害者ではなかった、というところですね。

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レビュアーの一言

今巻では本筋の「たすけて」のメモの謎ときと並行して、同棲をはじめた店員の久実ちゃんがそれを実の両親に黙っていたことからおきるトラブルと実家の両親の不和とか、同棲相手の一ノ瀬の昔の登山仲間が山へ戻るよう強烈にプッシュしてきたり、といったこととか、一ノ瀬が以前住んでいた「糸屋」の再開発がうまくいっていない話とか、次巻以降の伏線もはってあると推測いたしましたがどうでしょうか。

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