ど田舎の農村の因習に抗った女子高生が遭遇したものは何?=川瀬七緒「うらんぼんの夜」

福島県の山深いところにある、古くから伝わる「地蔵」を信仰する小さな集落で、曾祖母、祖父母、父母、兄という大家族で生まれ育った「遠山奈穂」は、近くの町の進学校の女子高に通う成績優秀で、田舎町から早く脱出したいと思いながら、家業の農業の手伝いに駆り出される夏休みをおくっています。

田舎の村のせいか、昔からの風習が根強く残っているところなのですが、村の移住政策によって都会から、4人の家族がやってきたところから、この集落によそ者排斥の動きが起き出しすのですが、それは集落に伝わる「地蔵信仰」に関連しているようで・・という伝奇ホラーミステリーが本書『川瀬七緒「うらんぼんの夜」(朝日新聞出版)』です。

本書の帯の紹介文によると

十六歳んなるまで、地蔵さ見てはなんねえぞ
閉ざされた集落を舞台に、乱歩賞作家が放つ妖しきミステリー


「お盆が明けたら魂はあの世へ帰るんだよね?」

ということで、怪奇色が色濃く漂う物語です。

あらすじと注目ポイント

構成は

第一章 佇む地蔵さま
第二章 忌作とウランバナ
第三章 竹藪の鈴
第四章 逆さ吊りの女

となっていて、プロローグをはじめとして、物語中の勘所と思われるところで、この集落に太平洋戦争当時暮らしていた「キミ子」という名の女の子の話が挿入されています。それをたどると、戦争が激しくなったため、急に結婚が決まった彼女は、ある願い事を集落の「地蔵」にするのですが、といった筋立てで、これがこの物語の展開に大きく関わってくるので、注意しておきましょうね。

物語の本筋のほうは、夏休みになって、一日中、家業の農業の手伝いに駆り出されて、汗だくになって働いている遠山奈穂が育った集落に、東京から北方亜矢子という美少女が、母、兄、姉とともに引っ越してくるところからスタートします。

彼女は

ツヤのある黒髪は顎の線で切りそろえられ、薄い前髪から形のいい眉が透けている、切れ長の目は筆ですっと描いたように細く、長い睫毛に縁どられているさまがとても印象的に映った。蒼白い肌は驚くほどきめ細かい。色素の薄い唇が物言いたげ

といった風貌の女の子で、いかにも「都会育ちの美少女」という様子です。

亜矢子たち親子は、村の移住促進策である「空き家事業」の助成を受けて移住してきたのですが、母親は病気がちで職には就いていないようですが、兄と姉はゲーム制作のベンチャーを経営している、というバリバリの「都会もん」ですね。

田舎町の中でもさらに山奥の田舎で暮らしていることに劣等感を感じていた「奈穂」は、おなじ集落に、都会でもめったにみかけない美少女が引っ越してきて、村に馴染もうとしてくれるのをみて、なにか誇らしい気持ちになっていくのですが、これには、その集落が「地蔵」信仰でつながる数軒で「内部落」という濃いつながりを形成していて、その数軒でなんでも助け合って暮らしている、という田舎特有の人間関係の存在も起因しているようですね。

この「内部落」では、地蔵のある祠に人が無暗に近づかないよう周囲を紐でくくった竹板を吊るして監視していたり、家ごとに作ってはいけない作物「忌作」があったり、女性は16歳になるまで地蔵の顔を拝んではいけない、といった細かなしきたりがあって、おどろおどろしさを助長していますね。

そして、村人の前に姿をみせて挨拶もしようとしない亜矢子の母親に不快感を抱いた村人たちに、この一家を追い出そうとする意識が高まっていくのですが、亜矢子と仲良くなった奈穂は村のしきたりを亜矢子にレクチャーしたり、彼女を農作業に連れ出したり、と懸命にサポートをします。

しかし、亜矢子が16歳になるまで地蔵の顔をみてはいけないという集落の「禁」を知らず、地蔵に祈りを捧げ、供物を供えたことから、村人の意識はヒートアップ。集落の近くにある、村が移住政策でリゾートっぽく整備して、都会から移住者を呼び込んだものの村人の冷たい対応で、移住者が出て行ってしまった「緑川地区」で、認知症の爺さんに襲撃されたりといった事が起きます。

さらには、その爺さんと何事か話し合っていた村の駐在が、水死体で発見されるという事件に発展して・・という展開です。

果たして、駐在は事故死なのか、殺人なのか。そして、引っ越し以来、姿を見せない亜矢子の母親の正体は、と謎は深まっていきます。

そして、最終番にむけて、この集落に生まれ育った女の子が、なぜ16歳になるまで地蔵の顔をみて祈ってはいけないのか、途中に挿入される「キミ子」の仕出かしたことの真相とともに、驚愕の真実が明らかになっていきます。

うらんぼんの夜
片田舎での暮らしを厭う高校生の奈緒は、東京から越して来た亜矢子と親しくなる。しかし、それを境に村の空気は一変し、亜矢子の口数も少なくなる。疑念を抱く奈緒は、密かに彼女の自宅に忍び込もうとするが……。書き下ろしミステリー。

レビュアーの一言

排外意識の強く、因習のキツイ田舎の集落に生まれ育った女の子が自由を求めて、転校してきた同級生とともに、村の長老である自分の曽祖母をはじめとする旧勢力と戦っていく姿に思わず声援を送ってしまう展開です。

その勢いのまま、最終番までやってくると、思わぬ「暗闇」と「恐怖」が出現してくるので最後まで気が抜けない一冊です。

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