探偵ガリレオは、美しい海岸でおきた一酸化炭素中毒の謎を解く=東野圭吾「真夏の方程式」

天才物理学者・湯川学をメインキャストにして、同級生の警視庁捜査一課の刑事・草薙と、彼の部下の女性刑事・内海薫が、現代科学をつかった難事件を、その科学的知識と推理力で謎解きをしていくミステリーで、福山雅治主演のドラマとして人気の衰えない「探偵ガリレオ」シリーズの第6弾が「東野圭吾「真夏の方程式」(文春文庫)」です。

海底の金属鉱床調査事業の説明会の参考人として「玻璃ケ浦」という田舎の海岸町に滞在することになった湯川学が、宿泊先の寂れた旅館でおきた警視庁の元刑事の変死事件に巻き込まれていきます。

この作品は2013年に、湯川役は福山雅治、相棒刑事には前作やTVシリーズで柴崎コウが演じた「内海薫」役にかわって、映画オリジナルキャラの、国立大学出のキャリアのエリート女性刑事「岸谷美砂」役に吉高由里子、事件の舞台となる旅館「緑岩荘」の主人夫婦に前田吟と風吹ジュン、娘役に杏というキャストでリリースされています。美しい海という設定の「玻璃ケ浦」として、西伊豆町浮頭が主ロケ地となって撮影されています。

あらすじと注目ポイント

「玻璃ケ浦」での湯川と少年の出会い

物語は、夏休みの中盤、大阪で新しいブティックを開店するため家を留守にするため、その間、「玻璃ケ浦」という田舎の海岸町で旅館を営業する親戚のところへ向かう「柄崎恭平」少年が、電車内で老人から携帯電話のことでひどく叱られているところを、偶然、一緒になった「湯川学」に助けられるところから始まります。

湯川は「玻璃ケ浦」沖で計画されつつある海底の金属鉱床の調査事業の説明会のオブザーバーとして、事業を計画している会社に招かれてこの地へやってきていた、という設定で、当初、事業会社が用意した宿舎となるリゾートホテルをキャンセルして、恭平の伯父たちが経営する「緑岩荘」に滞在することとなります。

この旅館は、東京で会社勤めをしていた川畑夫妻がUターンして家業を継いで経営していた旅館なのですが、地元が寂れていくに従い、旅館経営も厳しくなっているというところです。なので、海底鉱床の事業は、地元の経済振興の上ではめったにないチャンスなのですが、開発と環境保護で地元が対立が始まっている、という設定です。

旅館の娘・川端成美は、家業を手伝いながら、熱心に地元の海を守る環境保護運動をやっていて、調査会社のオブザーバーとしてやってきた湯川は「環境の敵」として認識していて、説明会の前後では、保護運動のリーダー役である沢村とともに、湯川や事業会社に対して噛み付いていくこととなりますね。

屋外で一酸化中毒発生?

事件のほうは、この緑岩荘に宿泊していた「塚原正次」という男性客が夕食後、旅館から外出し、近くの防波堤の下に落ちて死んでいるのが発見されます。遺書はなかったため、酔い醒ましに外出して、足を滑らして転落死したのだろうと地元警察は推察するのですが、死亡した塚原が元警視庁の捜査一課の敏腕刑事であったことから、その後輩で警視庁の管理官をしている「多々良」が遺族とともに訪れ、塚原の遺体を強引に検死解剖に回します。その解剖で、塚原の死因が転落による脳挫傷ではなくて、一酸化炭素による窒息死であることがわかります。屋外で死んでいた塚原がどうして窒息死することになったのか、といった謎がここでうまれるわけですね。

塚原の死因と彼が縁もゆかりもない「玻璃ケ浦」を訪れた理由に不審なものを感じた多々良管理官は、地元警察の捜査とは別行動でこの事件を調べるよう、捜査一課の草薙たちに命じます。というのも、湯川が事件の現地に滞在していることがわかったため、彼に事件の謎解きをしてもらうために、偏屈な彼を動かすため、同級生の草薙に白羽の矢が立った、というわけですね。

謎解きのカギは過去のホステス殺人事件

湯川と連絡をとりながら、地元警察には秘密で調べ始めた草薙と内海のコンビは、塚原が以前、劇的な逮捕劇を演じたホステス刺殺事件の犯人が、この「玻璃ケ浦」に別荘を持っていて、ここを何度も訪れていたことや、服役して出所しているその犯人の所在を調べていたことをつきとめます。そして、旅館の主の妻・節子が刺殺されたホステスと同じクラブにつとめていたこともわかり、今回の事件に、旅館の主人夫婦がなんらかの関わりをもっていそうなことが濃厚になるのですが・・といった展開です。さらに、この刺殺されたホステスは金遣いが荒く、お客や同僚に嘘をついたり、脅迫まがいのことをしてあちこちに多額の借金をしていた、というところもヒントになってきます。

少しネタバレしておくと、この塚原の一酸化炭素中毒死は、旅館の主人・重治のボイラー操作と換気ミスであったと彼が自首してき、警察のほうではその線で納得しかけるのですが、湯川は、このまま県警の捜査が進めば、ある人物の人生をゆがめてしまう、と本格的に事件の謎解きを始めます。そして、彼が導き出した真相と、その人生がゆがめられてしまうかもしれな人物とは、さらに、塚原が関わったホステス刺殺事件に隠されていた真実は・・ということで二重三重の仕掛けが施されていますので、詳細は原書か映画のほうでどうぞ。

Bitly

レビュアーの一言

今巻はその何層にも重ねられた謎と子供が苦手な湯川と恭平少年とのふれあいが印象的な作品ですが、環境保護と開発という常に対立、その多くは感情的な対立を産んでしまう課題に対して一つの警鐘をならした作品でもあります。
湯川自体は、環境保護派でも開発推進派でもなく、あくまでも科学者という立場なのですが、環境保護運動に邁進し、開発会社の関係者に対して敵愾心を燃やす成実たちに対し、

君は環境保護の専門家かもしれないが、科学に関しては素人だろう?海底資源開発について、どれほどのことを知っているというんだ。両立させたいというなら、双方について同等の知識と経験を有している必要がある。一方を重視するだけで十分だというのは傲慢な態度だ。相手の仕事や考え方をリスペクトしてこそ、両立の道も拓けてくる

と冷水を浴びせます。もちろん、湯川は開発会社の説明ぶりにも苦言を呈していて、どちらの立場にも牽制球を投げたというところです。「開発と環境保護」という場面だけではなく、すべての感情的な対立をうむ場面では心しておかないといけないスタンスですね。

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