探偵ガリレオは恩師のたくらむ完全犯罪の謎を見抜く=東野圭吾「ガリレオの苦悩」

天才物理学者・湯川学をメインキャストにして、同級生の警視庁捜査一課の刑事・草薙と、彼の部下の女性刑事・内海薫が、現代科学をつかった難事件を、その科学的知識と推理力で謎解きをしていくミステリーで、福山雅治主演のドラマとして人気の衰えない「探偵ガリレオ」シリーズの第4弾が「東野圭吾「ガリレオの苦悩」(文春文庫)」です。

今巻から、以後のシリーズで草薙刑事とともに、湯川の相棒役を務める女性刑事「内海薫」が登場してきます。「男社会」の傾向の強い捜査一課の中で、女性視点の推理を遠慮なく進言し、少し顰蹙をかうところはあるのですが、一面的になりがちな捜査の視点を多角化させる役割を果たしています。

皮肉屋の湯川も、しつこいほどの内海の粘りを評価している気配があります。

あらすじと注目ポイント

収録は

第一章 落下る(おちる)
第二章 操縦る(あやつる)
第三章 密室る(とじる)
第四章 指標す(しめす)
第五章 撹乱す(みだす)

の五篇。

最初の「落下る」は都内のマンションの一室からの女性の墜落死です。事件自体は、銀行勤めをしている三十歳すぎの女性が自室から墜落したもので、部屋からは被害者の頭を殴ったものと思われる「鍋」が発見されます。状況からみて、顔見知りの犯行と思われるのですが、捜査一課に配属されたばかりの内海は、被害者の家の玄関に、有名下着メーカーの段ボールが置かれたままになっていたことから、非常に親しい関係にあった人物の犯行ではと推理を働かせます。

そこへ、墜落当日、被害者の部屋へ行ったという男性が名乗り出るのですが、彼には、被害者が墜落した時、マンションの下にいて、ピザ屋の配達員と一緒に落ちた時に居合わせたというアリバイがあることがわかります。

しかし、内海は、この男性の犯行と確信し、マンションの下に居ながら被害者を落下させる方法を、草薙に紹介された湯川にアドバイスを求めに行きます。湯川は内海の頼みをすげなく断るのですが、諦めきれない内海は自分でその実験を敢行し・・という展開です。

内海の推理自体は空振りに終わるのですが、自ら実験をする内海と偏屈科学者・湯川の絆が形成された物語です。

第二話の「操縦る」は、湯川の恩師の元大学教授で「メタルの魔術師」というあだ名のあった高名な物理学者・友永の引退後の自宅でおきた事件です。彼は引退後、後妻の連れ子の女性・奈美恵と自宅の離れに暮らしていたのですが、本宅のほうには前妻の息子が入り込み、友永に寄生して暮らしている、という家庭環境です。

友永は脳梗塞で左手と足に麻痺が残り、車椅子生活をおくっているのですが、彼が死ねば家屋敷を息子が奪うのは明白で、友永は奈美恵に少しでも財産を残してやりたいと思っているのですが思うように任せない状況です。

湯川たちは、友永の退官後も集まって酒を酌み交わしていたのですが、今回は友永の自宅に招かれて宴席を設けていたところ、友永の家の本宅で、花火の爆発がおき、中から友永の息子が鋭利な刃物で刺殺された状態で発見される、という事件がおきます。

その本宅に出入りした者もみつからず、凶器も見つからず、捜査は暗礁にのりあげるのですは、「花火の爆発」と殺された長男の刺殺痕から、湯川は意外な犯人の正体と、その殺害方法を推理するのですが・・という展開です。

話の展開から、ひょっとすると、と読者のほうも感づくかもしれないですが、自首をしようとしない犯人の真意がわかるとホロっとくると思います。

このほか、湯川が旧友が経営している山中のペンションに招かれ、そこで宿泊客の密室からの失踪事件に隠された謎を解く「密室る」や高齢の女性でおきた金塊の強盗殺人事件の容疑者となった母親を助けるため、その娘が水晶のペンダントのダウジングによる捜査に内海がつきあって真相へたどりついていく「指標す」、湯川によって破滅させられたと思い込んでいる元研究者が、ある機械をつかってテロを繰り返すのですが、その標的として湯川も狙われていく「撹乱す」と、今回も科学技術を悪用した犯罪の謎解きに湯川の推理のが冴え渡ります。

レビュアーの一言

今巻から登場する、湯川の相棒「内海薫」なのですが、最初の「落下る」では、被害者が自動的に落下したという証拠をつかむために、一人で「ロウソク」実験を敢行するのですが、実は

無理です。自慢ではありませんが、小学生のときから理科の実権は苦手なんです。リトマス試験紙の色が、私だけ変わらなかったし。(第五章 撹乱す)

というような「理科嫌い」のようです。このあたりが逆に、実験オタクといってもいい湯川とウマの合うところかもしれません。

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