元マジシャンが、田舎町の殺人に隠された過去の秘密を暴く=東野圭吾「ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人」

東京駅から新幹線で1時間、そこから私鉄の特急で1時間のところにある、地名にもなっている歴史的な寺院と温泉があるだけの地方都市でおきた元高校教師の殺人事件に秘められた同級生たちの抱える秘密と殺人の謎を、被害者の娘さんと、元マジシャンの被害者の弟が心理トリックを使いながら解き明かしていくミステリが本書『東野圭吾「ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人」(光文社)』です。

あらすじと注目ポイント

物語は被害者の娘で、東京に不動産会社で働いている「真世」のもとへ、同級生・桃子から中学校の同窓会の件で連絡が入るところから始まります。彼女の父親は中学校の国語の教師をしていて、真世が中学校のとき、彼女のいたクラスの担任をしていたせいで、なんとなく父親との間に何か挟まったような関係になり、高校卒業後、進学で上京した真世はそのまま東京の会社に就職し、母親が亡くなって以後は実家にはほとんど帰省しない、という状況です。

実は彼女は、職場の先輩と近く結婚する予定なのですが、その連絡も電話で済ませたようですね。

同窓会の出席も、父親も招かれているのでためらう彼女なのですが、そこへ実家のある町の警察署から緊急の電話が入ります。その内容は、同窓会の打ち合わせで実家を訪れた同級生によって、ダンボールの中に埋もれて死んでいる父親が発見されたという報せです。しかも、父親の死因は、何者かによってタオルで首をしめられての窒息死で、という筋立てです。

あわてて、実家に帰って、警察から聞き取りされ、捜査に協力することになった真世なのですが、父の葬儀の準備をしているときに現れたのが、父の弟で、アメリカでマジシャンとして活躍した後、突然、日本に帰国し、今は東京でバーを営んでいる叔父「神尾武司」なのですが、彼は真世や警察の意向を無視して、ぐいぐいと事件捜査に入り込んできて・・という展開です。

この叔父・武司は、警察にも平気にさからう反逆児なのですが、マジシャンの技術を活かして、警察官のスマホから捜査情報を抜き出したり、実家に監視カメラと盗聴器をしかけて、警察官の会話と捜査の様子を見たり、と通常人ではできない「自主捜査」を真世とともに仕掛けていきます。

しかも、真世の実家のある町(長野県の善光寺市あたりではないかと管理人は推測しているのですが)では、真世の同級生で今は人気漫画家になっている「釘宮」の原作をリアル化したテーマパークをつくる計画が持ち上がっていたのですが、資金難で頓挫したのをなんとか復活させようと真世の同級生で建設会社の二代目になっている柏木という男性が、取り巻きの地元銀行の銀行員(これも真世の同級生なのですが)とともに作者の釘宮と彼のマネージャーを自称している大手広告会社勤務の九重梨々香という同級生に猛アプローチをかけている、という中学校の同級生同士は入り乱れての動きを見せています。

さらに、柏木のテーマパーク計画に関連して、出資者の資金をごまかしたのでは、という疑惑もあって、ということで、真世の父の死が単なる「怨恨」ではないのでは、と読者を誘っていくわけですね。

少しネタバレしておくと、殺された真世の父は同窓会で、人気マンガ家の釘宮の中学時代の心温まるエピソードを披瀝したいといっていたので、事件の謎解きの鍵になってくるのですが、真相は原書のほうで確かめてくださいね。

ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人
謎を解くためなら、手段を選ばない。コロナの時代に、とんでもないヒーローがあらわれた! 名もなき町。ほとんどの人が訪れたこともなく、訪れようともしない町。けれど、この町は寂れてはいても観光地で、再び客を呼ぶための華々しい計画が進行中だった。多...

レビュアーの一言

本篇の意外な読みどころは、真世の父の殺人事件に絡む様々な思惑を、人気マジシャンあがりの真世の叔父・武司が傍若無人に暴いていくところなのですが、それに付随して、事件に関係はないのですが、真世の同級生たちが隠している秘密も次々と明らかになっていくところです。そして、それは真世の婚約者にも及んで・・というところで、物語の最後で思ってもみない秘密が暴露されるので最後まで油断しないようにしましょうね。

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