「ラプラスの魔女」は見当たり捜査員の無念を晴らし、AIに勝つ=東野圭吾「魔女と過した七日間」

父親によって施された脳手術によって、自然界に起きる物理現象から未来に起きることを予見できる「ラプラスの悪魔」と呼ばれる能力を持ってしまった女性「羽原円華」が活躍する東野圭吾さんの「ラプラスの魔女」シリーズの第三弾が本書『東野圭吾「魔女と過した七日間」(角川書店)』です。

第一弾の「ラプラスの魔女」では、温泉地でおきる硫化水素殺人の現場に出没し、円華と同じく「ラプラスの悪魔」の能力をもつ「甘粕謙人」の父親への復讐をとめようとし、「魔術の胎動」では、成績不振に悩むスポーツ選手や同性愛者への偏見に苦しむミュージシャンなどを担当する鍼灸師の前に現れ、その能力で人々に救いを与えたのすが、今回は父親の突然に死に直面した少年とともに、父の死の真相を究明していきます。

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あらすじと注目ポイント

物語は、都内に住む「月沢陸真」という中学三年生の男子生徒が、市立図書館で、車椅子に乗った少年をエスコートする若い美人の女性に出会うところから始まります。その女性と図書館の玄関で再び出会うと彼女は陸真の自宅がここから徒歩15分ぐらいであることを聞くと、「今降っている雨は15分ほどしたらやむが、5分ほどすると再び降り始める。その後、10分五ぐらいにまたやむので、急いで帰ること。それから30分ほどするとまた降り出して朝までやまない」と告げてきます。やけに詳しい予告に半信半疑ながら従う陸真だったのですが、天気はそのとおり推移して・・という出だしです。

シリーズの読者ならピンとくると思うのですが、この女性が「ラプラスの魔女」シリーズの主人公・羽原円華で、これから陸真が巻き込まれる事件に大きく関わってくることになります。

で、陸真少年は円華のアドバイスに従って、雨に濡れることなく、自宅へ帰るのですが、父親と二人で暮らしている陸真のもとに帰りが遅くなるという連絡が入ります。その時は何の疑問ももたなかったのですが、朝になっても帰ってきません。翌日、警察に捜索願を出したところ、6日後に、多摩川で水死しているのが発見され、というのが事件の始まりです。

ここで少し周辺環境にふれておくと、陸真の父で水死した月岡秀司は元警視庁の刑事部捜査共助課の警察官で、街中に張り込んで、行きかう人の顔を観察して、指名手配犯を見つける「見当たり捜査員」をしていたのですが、AIによる監視捜査が普及するにつれ閑職に回され、嫌気がさして退職して民間の警備保障会社に再就職したのですが、それまでの経験が買われて、スタジアムやコンサート会場で不審者を発見し、AIで確認する「潜入監視員」になっているという設定です。AIによる監視捜査がイヤで退職したらそこでもAIが待っていたという皮肉な経過なのですが、陸真の父は、在職時代につくっていた指名手配犯の顔写真や特徴をリストアップした大型のノートが「AIに負けない資料」とちて自慢で、退職後も何回か、指名手配犯を発見したことがあるようです。

そして陸真は、残された父親の通帳に2回振り込みがあり、それがそのまま「ナガエタキコ」という女性の口座へ振り込まれていることと、父親が「永江照菜」という名前の血液検査結果を大事にしまっていたのを発見し、この二人の居場所を調べていくと、そこは「羽原円華」のいる「数理学研究所」で・・という筋立てです。

ここで、「永江照菜」と陸真との意外な関係が明らかになり、この二人の「無念」と陸真の父親の「無実」を立証するるため、一肌脱ぐことにした「円華」が、陸真とその友人の純也、そして「ラプラスの魔女」で円華のボディーガードを務め、現在は焼き鳥屋をやっている「武尾徹」を動員して真相究明に乗り出すのですが、どうやら陸真の父の死には、被疑者自殺で終結したことになっている「T町一家三人殺人事件」と、闇カジノを運営する非合法組織が絡んでいるようです。

真相をさぐるため、円華たちは、この闇カジノに潜入していくのですが・・といった展開です。

警察が見落としているものから陸真の父が川に遺棄された現場を突き止めたり、警察が見落としていたものから事件の謎を解く鍵を発見したりと、「物理現象」から導かれる円華の洞察と推理は相変わらず的確に動いていくのですは、前二作で発揮された「無鉄砲さ」も健在です。

そして陸真の父を殺した真犯人をつきとめたと思えたところで、実は事件の裏にさらに大きな秘密が隠れていることが明らかになります。それは警察の科学捜査の「闇」につながるものでもあって・・という展開で、最後の最後まで気が抜けないのでご注意を。

レビュアーの一言

少しネタバレしておくと、今巻の最後で、羽原円華はアメリカに留学し、場合によっては向こうに永住するかも、といった筋立てになっていて、ひとまずこの「ラプラスの魔女」シリーズは終結という風を見せています。

ただ、あの人気の「ガリレオ」シリーズでも、第8作目の「禁断の魔術」で弟子格の青年の犯行を阻止した後、研究のためにアメリカに渡った湯川学が数年後、教授となって戻ってきた(「沈黙のパレード」)ように、羽原円華も、再びパワーアップして帰還してくるような気がするのですがどうでしょうか。

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