クスノキの巨木のもつ「念を預かる」力の秘密は?=東野圭吾「クスノキの番人」

東京から1時間ほど電車で行った駅からさらに山中へわけいったところにある「月郷神社」には古いクスノキの巨木があり、その空洞の中で祈りを捧げると願いが叶うという評判のパワースポットです。勤め先の工場をクビになった青年「直井玲斗」は一度も会ったことのなかった伯母に助けられ、その神社とクスノキの管理人となるのですが、そのクスノキには、木の洞で夜に祈りを捧げた人の「念」を受け取り、その願いをかなえるという噂があるのですが、という民俗ホラー風ミステリーが本書『東野圭吾「クスノキの番人」(実業之日本社)』です。

あらすじと注目ポイント

物語は、本編の主人公となる「直井玲斗」が、クビになった勤務先の工場から、未払いの退職金や賃金の代わりだと精密機械を盗み出そうとして捕まっている警察の留置所から始まります。

その元勤め先はかなりブラックな職場だったので、警察の取調官に同情はされたのですが、泥棒は泥棒、さらに盗もうとした精密機械を破損させたため、その修理代も請求されているという泣きっ面にハチの状態です。

これは刑務所入りかなと覚悟していた玲斗だったのですが、彼の母親の腹違いの「姉」と称する女性から、彼女が管理している神社の管理人として務めるつもりがあるなら、釈放させるための弁護士も費用を伯母もちでつけるし、壊した精密機械の修理代も負担する、という申し出を受けます。

今まで会ったことのない人物からの申し出を怪しまなかったわけではないのですが、背に腹は代えられず、この申し出を了承して、玲斗は神社の管理人として務めることとなります。

その神社というのが、東京近郊の山中にある「月郷神社」で、神社の謂れは不明ながら古くからあって、願いをかなえるという大きなクスノキがあるという神社です。

玲斗はこの神社の管理人として、日中は神社を訪れる参拝客の案内と掃除、そして、ひと月に何回か予約の入る、クスノキの洞の中で祈りを捧げる行為をする人に、特製のロウソクをわたし、祈りの間、誰も近づかないように見張るという仕事に就くこととなるのですが・・という設定てです。

このクスノキへの祈りが本当に願いをかなえるものなのかインチキなのか、あるいは別の効能があるのか、彼に管理人を命じたこの神社を代々管理してきた一族の長である伯母・千舟が何も教えてくれないので、詳細がわからない玲斗だったの貴ですが、ある時、最近よくクスノキの予約をいれる佐治という男性の娘と名乗る女性が、父は浮気をしていて、その浮気相手と結婚するために母親を呪い殺そうと祈っているに違いないので、一緒に真相をつかんでほしい、と頼んできます。最初は断った玲斗なのですが、その娘・優美と佐治を尾行すると、確かに若い女性と密会していて、優美の主張もあながち嘘とは思えず、彼女に協力することになり・・という展開です。

さらに、大企業グループの後継者候補の一人である青年・大場壮貴が、死んだグループの総帥であった父親がクスノキに残した、と言われる「念」を受け取りにやってくるのですが、御付きの人の熱心さにくらべ、彼は全く熱意がありません。それには彼と父親との「血縁関係」の秘密が隠されているようなのですが・・という別筋も展開していきます。

そして、伯母・千舟から、この神社に祈りに訪れた人々の記録を電子記録として整理するよう命じられ、過去の記録の入力をしているうちに、このクスノキへの祈りのある法則性に気づきます。それはこの「祈り」の真の姿につながっているもので・・と物語が動いていきます。

優美の父親や壮貴の父親の祈念の中身がなんなのか、そして、クスノキの秘密とは。さらに、一族の総帥ではあるものの、老齢ゆえにその地位を退こうとしている伯母・千舟が玲斗を「クスノキの番人」にした意図は・・といった謎解きの真相は、原書のほうでお確かめください。

レビュアーの一言

本作品は筆者の「秘密」「時生」「ナミヤ雑貨店の奇蹟」の系譜につながる、新しいエンターテインメント小説といううたい文句なのですが、クスノキの「大木」という日本では巨石と並んでパワースポットの代名詞であるアイテムが使われていることで、民俗ホラーっぽいイメージが強くでているのが特徴的ですね。

この雰囲気が気に入った方には、北森鴻さんの「連杖那智」シリーズや、三津田信三さんの「刀城言哉」シリーズ、あるいは澤村御影さんの「准教授・高槻彰良」シリーズあたりもおススメです。

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