探偵ガリレオは毒殺事件に秘められた女性の怒りを暴き出す=東野圭吾「聖女の救済」

天才物理学者・湯川学をメインキャストにして、同級生の警視庁捜査一課の刑事・草薙と、彼の部下の女性刑事・内海薫が、現代科学をつかった難事件を、その科学的知識と推理力で謎解きをしていくミステリーで、福山雅治主演のドラマとして人気の衰えない「探偵ガリレオ」シリーズの第5弾が「東野圭吾「聖女の救済」(文春文庫)」です。

「聖女の救済」は、フジテレビの「ガリレオ・シリーズ」の第2シリーズの最終作として、前・後編の仕立てで、殺害された真柴義孝役に堀部圭亮、その妻・綾音役に天海祐海役というキャストで2013年にリリースされています。

前作「ガリレオの苦悩」で草薙の後輩女性刑事として捜査一課のメンバーに加わってきた「内海薫」が警察組織の男尊女卑体質に反感をもちながらも一課内でその推理力を発揮するとともに、湯川の操縦の仕方を身に付け始めているのが本巻です。

あらすじと注目ポイント

物語は、結婚一年目を迎えているIT関連の会社を経営している真柴義孝と、人気のパッチワーク教室を運営しているその妻・綾音が、子供ができないことを理由に自宅の2階で離婚の話をしているところから始まります。わずか1年の間に子供ができる兆候が見えないことで離婚する、といったことや、自宅の1階では会社の顧問弁護士の猪飼夫妻と綾音のアシスタントの若山宏美をよんで、猪飼夫妻の妊娠を祝うホームパーティーを開いている最中ということを考えると、この真柴義孝という人物が仕事もでき、魅力的な男性ではあるものの、相手の気持ちはほとんど考えない人物であろうことが想像できます。

で、事件のほうは、このホームパーティーから数日後におきます。真柴からの離婚の申し出に対して心を鎮めるため、実家の北海道に「綾音」が帰省している中、アシスタントの若山宏美が、真柴邸のリビングで倒れて、死んでいる義孝を発見します。

実は、義孝と宏美は不倫関係にあって、綾音が留守にしたのを利用して自宅で会っていたのですが、この時も講師を勤めているパッチワークのカルチャー教室の終了後、真柴邸へやってきて、コーヒーを飲んで死んでいる義孝を見つけたというわけですね。

そして、普通なら、なんらかの体の不調による突然死と片づけられるところですが、事故死であるため、念のため検死したところを、「ヒ素」による死亡であることがわかり、毒殺事件として、草薙たち捜査一課のメンバーが関わることとなり、という展開です。

捜査は、自宅内から「ヒ素」は見つからず、また、コーヒーをいれたポットに付着した水滴からヒ素が検出されたことから、北海道に行っていた綾音を除いて、不倫のため何度か真柴邸を訪れていた宏美が第一容疑者として取り調べが始まるほか、何者かが留守中に屋敷内に忍び込み、ヒ素をポットの中に混入させたのでは、という線で進められます。

宏美のアリバイが強固なことから、外部犯の侵入説を捜査の中心に据えようとする草薙に対し、草薙が真柴の妻「綾音」に魅かれつつあることに気づいた内海は、捜査が歪む危険性を感じ、湯川に捜査協力を頼みにいき、ここから探偵ガリレオの推理劇が本格的にスタートしていくこととなります。

しかし、凶器となった「ヒ素」は見つからず、さらに真柴邸の水道や浄水器、ペットボトルなどからも検出されず、ヒ素入りのコーヒーをどうやって被害者に飲ませたのか全く手がかりがみあたりません。

そんな中、内海は容疑者として浮上してこなかった「綾音」が北海道に帰省する前に使ったシャンパングラスをキッチンに置いたままにしていた等、なにかもやもやとした疑惑が払拭できず、彼女の疑惑をきっかけに、湯川がある推理を働かせ、ひとつの仮説へと辿り着いてきます。しかし、彼によるとその仮設は「虚数解」で理論的には考えられるが、現実的にはありえない代物で、虚数解でないとすると「完全犯罪だ」というのですが・・という展開です。「聖女の救済」という言葉のもつ「女性の怖さ」が謎解きのところで伝わってくるので、そこは覚悟して読み進めてくださいね。

少しネタバレしておくと、事件がおきた後、綾音に頼まれて草薙が真柴邸の2階に置いてあるたくさんのプランター栽培の植物に水やりをしているのですが、草薙らしくないこの行動が、犯人の犯行を裏付ける重要な証拠に結びついていきます。

レビュアーの一言

今回の物語「聖女の救済」は「ガリレオの苦悩」に続く第5弾となっているのですが、作中で、草薙に内緒で湯川に事件の相談を持ってくる内海に対して「捜査一課の仕事にはなれたかい?」と声をかけたり、内海の依頼に対し「今回、君から電話をもらった時、僕は一旦断った。もう警察の仕事には関わらないとね。」といっているところから考える、湯川が犯人から襲われた「悪魔の手」事件の後ではなく、、湯川の行動によって優れた数学者を葬ってしまった「容疑者Xの献身」のしばらく後、「ガリレオの苦悩」の第一章「落下る」で内海薫と一緒に捜査したすぐ後ぐらいかな、と思います。

「落下る」の最後で、湯川の実験に粘り強く付き合った内海を評して「彼女はいい刑事になるよ」と誉めているのですが、この好評価が、今回の湯川の捜査協力につながるとともに、これ以後の湯川・内海コンビの強い絆につながっているのかもしれません。

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