コルネシア東京でおきる「交換殺人」を新田と尚美は止められるか?=東野圭吾「マスカレード・ゲーム」

都内にある超一流ホテル「ホテル・コルネシア東京」を舞台に、凶悪犯罪を未然に防止するため、ホテル内に潜入しホテルマンに扮しながら犯罪者を見つけ出そうとする「新田浩介」たち警察官と、ホテルのコンシェルジェ「山岸尚美」たちホテルマンがそれぞれのプライドをかけて時に対立しながら、犯罪者を見つけ出していく、ホテル・ミステリー「マスカレード」シリーズの第4弾が本書『東野圭吾「マスカレード・ゲーム」(集英社)』です。

第3作の「マスカレード・ナイト」の事件解決後、ホテルマンとしての才能を高く評価され、女性ながら抜擢されてアメリカに建設する新・ホテルのマネージャーとして「山岸尚美」が渡米し、新田は警視庁に復帰して、このホテルとの縁も一旦は切れたのですが、今回は連続殺人の舞台としてこのホテルが四たび浮上してきます。

あらすじと注目ポイント

物語は警視庁の捜査一課で刑事を務めている、このシリーズの主人公「新田浩介」が殺人事件の聞き込みで、あるレストランを訪れているところから始まります。今回、彼が担当している事件は、生産機械の改造や特殊仕様化を請け負う会社に勤務していた20代半ばの「入江悠人」という男性が、アパートの自室で胸をナイフで刺されて死んでいるのが発見されたというものです。

実はこの男性は前科があって、十七歳のとき、視覚障がい者用の誘導パネルの上に自転車を停めたことを、通りがかった青年・神谷に注意されて激高し、その青年に暴行して、植物状態にしてしまったという事件を起こしています。被害者の青年は植物状態になってから一年後に亡くなっているのですが、入江は傷害致死ではなく、傷害罪として少年院へ送致され、1年3か月、矯正教育を受けた後、娑婆に復帰しています。

少年院をでてからはトラブルに巻き込まていたという話もなく、敵対している人物もおらず、彼を殺害した容疑者として、かつて息子を入江に乱暴され、植物状態にされた神谷の家族(母親の「神谷良美」)が浮上するのですが、彼女にはアリバイがあり・・というのが前ふりになっています。

新田は何も手がかりが見つからない中、引き続き「神谷良美」の行動監視をさせているのですが、その時、捜査一課の管理官・稲垣から本部の会議室に呼び出されます。そこに集められていたのは。一週間前に狛江市の児童公園でおきた殺人事件、三日前におきた吉祥寺での殺人事件の担当者ばかりだったのですが、三つの犯行には、全員がナイフで刺殺されていて、全員に前科があり、さらに、全員が被害者の遺族から刑が軽すぎる、と恨まれている、という共通点があります。

三つの殺人事件ともかつての被害者遺族にはアリバイがあって、犯行を立証できない状態なのですが、もし、この三つの事件につながりがあるとすれば「交換殺人」の可能性の浮かび上がってきます。

そんな時、新田が監視を続けている「神谷良美」がホテル・コルネシア東京にチェックインしたことが尾行していた捜査員から情報が入るのですが、そこの宿泊者名簿を調べると、残る2つの事件の遺族も同日に宿泊しようとしていることがわかります。

ひょっとすると、第四の殺人がホテル・コルネシア東京で計画されているのでは、と疑った新田たち捜査チームは合同で、ホテル・コルネシア東京に潜入し、関係者の監視を始めることになり・・と再び「マスカレード」シリーズが再臨することとなります。

前の事件の未然防止の実績から、ホテル側も新田たちの隠密捜査に好意的なのですが、今回は、盗聴器の無断設置や客の荷物の無断検査など、違法すれすれの捜査を躊躇しない女性警部「梓真尋」が捜査チームに加わっていて、新田は彼女の暴走がホテル側との関係を悪くするのでは、とヒヤヒヤなのですが、捜査の首脳陣は彼女の「やり口」に好意的で、大きな火種となりそうな感じです。

そして、極秘操作が始まって数日後、ホテルの支配人の差配で、アメリカにいる「山岸尚美」がコルネシア東京に呼び出され、再び、かつての「マスカレード」コンビが復活することとなり・・という展開です。

このあと、三人の遺族の「交換殺人」を疑う捜査陣の推理を否定するような遺族たちの動きや、「梓警部」の暴走と独断専行が、山岸にばれ、新田が今まで築いてきた信頼がぐらぐらと揺れ始め、とハラハラの展開をしていきます。

果たして、遺族たちは「共謀」しているのか、そして「第四の殺人」はおきるのか、その被害者は・・という展開です。

レビュアーの一言

第3弾で、山岸尚美がアメリカのホテルに異動になったところで、このシリーズは終結かな、と思われたのですが。今回、臨時的に呼び戻され、そしてシリーズが続いていく予感をさせるエピソードが最終盤になって登場してきます。

少しネタバレしておくと、新田の環境へも変化が生じていて、舞台委も「ホテル・コルネシア東京」以外に広がっていきそうな雰囲気も漂わせています。

それにしても、事件は一旦解決して、煮詰まったところで、主人公をアメリカへ逃がし、読者の熱狂が醒めたところで再び日本へ帰還させてシリーズ再開、というのは「ガリレオ」シリーズでも見られるやり方で。作者のお気に入りの続編再開の仕掛けなのかもしれません。

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