マリアはNYの高層ビル内の大量密室殺人の謎を解く=市川憂人「グラスバードは還らない」

ジェリーフィッシュと呼ばれる飛行船が空に浮かび、遺伝子技術で「青いバラ」が生まれている、こちらの世界のパラレルワールドのアメリカによく似たU国の片田舎で警察官をしている、誰もが振り向く美貌とだらしない着こなしで、「寝起きのモデル」とも称されるマリア・ソールズベリ警部と、彼女の部下でJ国出身の冷静な刑事・九条漣が密室殺人の謎を解き明かしていくミステリ・シリーズの第3弾が本書『市川憂人「グラスバードは還らない」(創元推理文庫)』です。

今回は地元の州を離れて、希少動物の密輸販売を摘発するため、ニューヨークまで出張ったところで、大量密室殺人に出くわすこととなります。

あらすじと注目ポイント

構成は

プロローグ
第1章 グラスバード(Ⅰ)ー1983年12月20日 19:30~ー
第2章 タワー(Ⅰ) ー1984年1月21日 09:00~ー
インタールード
第3章 グラスバード(Ⅱ)-1984年1月21日 08:00~ー
第4章 タワー(Ⅱ)-1984年1月21日 09:40~ー
第5章 グラスバード(Ⅲ)ー1984年1月21日 09:40~ー
第6章 タワー(Ⅲ) ー1984年1月21日 10:01~ー
第7章 グラスバード(Ⅳ)ー1984年1月21日 10:00~ー
第8章 タワー(Ⅳ)ー1984年1月21日 11:00~ー
第9章 グラスバード(Ⅴ)ー1984年1月21日 10:40~ー
第10章 タワー(Ⅴ)ー1984年1月21日 11:40~ー
第11章 グラスバード(Ⅵ)ー1984年1月21日 16:45~ー
エピローグ

となっていて、本巻の被害者となる「ヒュー・サンドフォード」という多くの会社を所有している「不動産王」とも呼ばれているビリオネアと彼の会社の研究部門のメンバーたちの独白を綴る「グラスバード」の章と、このシリーズの主人公であるマリア・ソールズベリが、サンドフォードの希少動物の闇取引の捜査のためにサンドフォードの住居とビジネス拠点となっている高層ビル「サンドフォードタワー」に潜入し、そこでビルの爆発事故と密室大量殺人の捜査に巻き込まれる章とで構成されています。

まず物語としては、「グラスバード」の章を中心に展開していきます。大筋としては、大富豪でワンマン経営者のサンドフォード(モデルは当然「トランプ前大統領」だと思います)を中心にして、新規事業の研究開発チームの面々が右往左往し、彼のご機嫌をうかがう様子が描かれています。この研究開発チームが手がけているのは電圧によって透明になったり光を遮蔽したりする「透過ガラス」なのですが、専制君主のような社長の態度の一喜一憂する「宮仕え」の様子が悲哀をこめて描かれています。

さらに、ここで注目しておくべきなのは、この研究チームの中の三十過ぎの「チャック」という研究員とサンドフォードの一人娘「ローナ」とが恋仲になっていることで、彼女の案内で、サンドフォード・タワーの最上階にある、捕獲禁止の希少動植物ばかりを集めている施設博物館に案内され、そこで「エルヤ」と名づけられた「硝子鳥」の姿と歌声に魅了されてしまうのが、この物語の隠しテーマになっています。

そして、事件のほうは、この研究チームをサンドフォード父娘が集めて開いたホーム・パーティの後におきることとなります。

ホームパーティーは問題なく開始したのですが、メンバーたちはテーブルに並んだ料理を口にしたところで、全員が意識を失ってしまい、手術着のような白衣に着せかえられてビル内の部屋の中で気が付きます。彼らを監禁したらしい、サンドフォード付きのメイド・パメラは、この監禁がサンドフォードの命令でなされてことと、その理由は「その答えはお前たちが知っているはずだ」という彼からの伝言を伝えます。

全く意味がわからないまま、脱出の道を模索する彼らだったのですが、その後、次々の監禁されたメンバーが殺されていきます。そして、遂には全てのメンバーが殺されてしまい・・という展開ですね。メンバーが次々と死体となって見つかっていくシーンは、サスペンスチックな仕立てになっているので、不気味な雰囲気が味わえる、このシリーズには珍しい展開です。

ここで、「はー、さてはサンドフォード父娘が犯人だね」という声も上がると思うのですが、物語の中後半で、二人とも銃で撃たれて死んでいるのが発見されます、「残念」。

一方、マリアたちのほうは、メキシコに近い自分の管轄で、希少野性動物の密輸取引の買手に、U国の大富豪や大物政治家たちが名を連ねていることを見つけ出します。特に、大富豪で大実業家のサンドフォードがたくさんの取引をしていることを知り、彼の捜査を始めようとするのですが、警察の上層部からストップがかかります。

おそらく、サンドフォードの圧力だろうと推測したマリアは、独断専行でサンドフォードの捜査を進めるため、レンと一緒にニューヨークまでやってきて、サンドフォードタワー内に忍び込むのですが、レンと別れた単独捜査で最上階近くまで忍び込んだところで、サンドフォードタワーに仕掛けられた爆弾テロに遭遇してしまい・・という展開です。

レンの機転とたまたまニューヨーク近くにきていたアメリカ軍人のジョンの救援でタワーを脱出したマリアは、ビル火災で丸焼けになってしまったメンバーたちの大量密室殺人の謎に挑んでいきます。

少しネタバレしておくと、プロローグで出てくる、サンドフォードの拠点ビルの爆破事件や研究所での爆発事故が事件の根底に潜んでいるのでチェックしておきましょう。

Bitly

レビュアーの一言

今巻の大きなトリックは「硝子鳥」「グラスバード」という”希少動物”ですね。「ハミングバード」といった鳥もいるので、うまく作者に騙されて結末までひっぱられれていき、最後のドンデン返しの仕掛けに驚く読者も多いかと思います。個人的には、えー、そんな方向にまで発展してしまうのーってな感じがあります。

ちなみに「グラスバード」とネットで調べてみても、ガラスでつくられた置き物しかでてこないと思います。

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