忘却探偵はニューヨーク進出を果たす=西尾維新「掟上今日子の忍法帖」

ショートカットの髪は総白髪、小柄な美人で、年齢は25歳前後。一旦眠ると経験したことを全部忘れて17歳当時の記憶まで戻ってしまうことから、1日以内の「最速」で謎解きをする忘却探偵・掟上今日子の活躍を描くシリーズの第14弾が本書『西尾維新「掟上今日子の忍法帖」(講談社)』です。

前巻で、記憶を失くす体質になる前の過去に部下であった傭兵「ホワイト・ホース」によって、自宅兼探偵事務所を爆破されてしまった掟上今日子さんだったのですが、彼女が野放しになるのを危険視したFBIによって、アメリカに不法入国させられ、無認可の探偵事務所を開業して、ニューヨーク市警のもちこむ事件を解決していく姿が描かれます。

あらすじと注目ポイント

収録は

第一話 掟上今日子の手裏剣
第二話 掟上今日子の兵糧丸
第三話 掟上今日子の不忘術

の三話で、今巻では今日子さんは、探偵事務所の倒壊した日本を出国し、ニューヨークの、「治安の悪い」という表現がみられるのでセントラルパーク近くなのでしょうか、そこのアパートで、無認可の探偵事務所を開業しています。もちろん、彼女にはパスポートとかもないので、密入国の不法滞在状態ですね。

第一話 掟上今日子の手裏剣

第一話の「掟上今日子の手裏剣」では、セントラルパークで手裏剣が胸にささって死んでいた証券マン殺人の容疑者として、毎日のようにセントラルパーク内に出没する白髪・眼鏡の若い女性が有力容疑者として浮上します。凶器が「手裏剣」で、さらに手裏剣には日本独特の毒物「ふぐ毒」のテトロドキシンが塗布されていたということで日本人を中心に捜査が進んだものですが、この有力容疑者というのが、本シリーズの主人公「掟上今日子」さん、という流れです。

彼女のところへ尋問にやってきた、ニューヨーク市警の「リバルディ警部」と「キャステイズ警部補」への今日子さんの答えと、後から登場するFBIのホワイト・バーチ捜査官の話をまとめると、東京の彼女の探偵事務所爆破のあといFBIによってアメリカに連れてこられ、ニューヨークでFBIや軍部の監視を受けながら探偵業を非合法に営んで暮らしているようです。

そして、彼女の証言やFBI捜査官の発言でなんとか容疑を晴らした格好の今日子さんだったのですが、バーチ捜査官に勧めもあって、この証券マン手裏剣殺人事件の真犯人探しに協力することとなります(もちろん、探偵契約を結んだ”有料”コースです。)

しかし、ここで彼女の「網羅推理」こと、あらゆる思い付きを片っ端から実験して、実行可能か調べていく、という手法が全開して、セントラルパーク上空に揚げられた大凧からの攻撃であったり、死体現場の近くの池の中からの攻撃といった犯行手段の検証にキャステイズ警部補が振り回されていく、という展開です。

この検証を経て、行き着いたトリックというのがまた大掛かりな方法なのですが、種明かしのほうは原書のほうで

第二話 掟上今日子の兵糧丸

第二話の「掟上今日子の兵糧丸」はブロードウェイのダンサーがステージでのダンス中に餓死してしまうという事件の謎解きです。このダンサーはまだ下摘みで、スターを目指して奮闘中で、ダンサーを維持するための無理なダイエットが原因だったのだろうと、結論付けられそうになるのですが、ブロードウェイの複数のダンサーが同じように餓死していて、被害者たちが「HYOROGAN]という小さな黒い丸薬を服用していることがわかります。

さらに死んだダンサーたちには、どこからか一定額の「報酬」が定期的に振り込まれていることがわかり、連続毒殺事件では、という疑いが濃厚になります。

ここで、「日本人」で忍術に詳しいということで、いつものように「掟上今日子」さんに嫌疑がかかり、彼女は自分の無実を晴らすため、最速の解決を行うこととなるのですが・・という展開です。

この事件の謎解きで、今日子さんは、押収された証拠の「丸薬」の無毒性を確かめるため、自ら服用する、という荒技にでます。

第三話 掟上今日子の不忘術

第三話の「掟上今日子の不忘術」では、ナイアガラの滝のそばで死んでいた女性のに蘇生術を施していた女性として「今日子」さんが捕まります。本来なら、不法滞在地であるニューヨークを離れ、アメリカ・カナダ国境を超えれば二重に逮捕されることになるのですが、そこはFBIとニューヨーク市警の力で不問に付されるところが、彼女のもつ「危険度」の大きさを象徴しています。

死んでいた女性には。左腕に無数の傷痕があり、他殺によるものであることを示しているように見えたのですが、今日子さんは、何かを覚えておくために自ら傷を負う「不忘術」ではないか、その網羅推理をめぐらします。しかし、この推理は案の定、ハズレ。今回は、今日子さんではなく、杓子定規な「リバルディ警部」が珍しく名推理をするのですが、これが今日子さんの「過去」に結びつくもので・・ということとで、再び前巻の「ホワイト・ホース」の影が垣間見えてきます。

Amazon.co.jp: 掟上今日子の忍法帖 忘却探偵 電子書籍: 西尾維新: Kindleストア
Amazon.co.jp: 掟上今日子の忍法帖 忘却探偵 電子書籍: 西尾維新: Kindleストア

レビュアーの一言

今回は、突然に今日子さんがニューヨークに登場、ということでグローバルな探偵稼業がこれから展開か、と思わせたのですが、今のところは助走段階といったところでしょうか。

最終話でホワイトホースの影が見えたところで、ニューヨークも脱出してインドへ逃走か、というシーンもあるのですが、幸いなことにしばらくはニューヨーク滞在が続くような筋立てになっています。語り部であった「隠館厄介」もニューヨークに到着し、次巻では再びコンビ結成かもしれません。

【スポンサードリンク】

コメント

タイトルとURLをコピーしました