藤原一族の内部抗争過激化。ツンデレ美女・藤原高子はどう動く?=灰原楽「応天の門」17

宇多天皇・醍醐天皇に寵愛されて政治の権を握ったのだが、藤原一門との政争に破れて太宰府に左遷され、死後、祟り神となって時の権力者である藤原時平ほか藤原四兄弟をとり殺したとされる「学問の神様」菅原道真と、平安時代きってのプレイボーイとして有名な在原業平の二人の活躍を描く「応天の門」シリーズの第17弾。

前巻までで、藤原一族の一方の雄・藤原良房が病と称して引き籠る中、娘を宮中にいれ、権力の奪取を図る藤原良相の動きが活発になるなど、藤原一族の宿痾ともいえる「一族同士の権力争い」が激化していくなか、前巻の最後で、伴善男が、以前に一服盛られた毒の影響がぶり返すなど、権力争いが一族以外にも波及していくのが今巻です。

あらすじと注目ポイント

構成は

第九十一話 伴中庸、橋の上に思し悩む事 一
第九十二話 伴中庸、橋の上に思し悩む事 二
第九十三話 狐を嫁にした男の事
第九十四話 藤原高子、屋敷に吉兆が現れる事 一
第九十五話 藤原高子、屋敷に吉兆が現れる事 二
第九十六話 伴中庸、五条の屋敷に赴く事

となっていて、巻の冒頭では、藤原良房が病と称して宮中への出仕を差し控える中、ここぞとばかりに弟の藤原良相が政治を取り仕切り始めます。この情勢で、掌を返して彼に媚びを売る貴族たちもでてくるのですが、その者たちにしても心から心服しているわけではないのが、貴族社会の「怖さ」ですね。

ただ、権力基盤の脆さは、良相自体も自覚しているようで、藤原一族で仁明天皇の寵愛を受けて女御となり、文徳天皇を産み、その幼少時には政治も取り仕切った、太皇太后の藤原順子へと接近をし始めます。この藤原順子が政治の場へ復帰する条件として出したのが、良房の影響下にいない伴義男が味方に付くことで、良相一派による伴善男の取り込む工作が始まります。

誘いに応じて、良相派に組み込まれることに一抹の不安を抱いていた善男だったのですが、息子の「中庸」が偶然、五条大橋の上で、太皇太后に出会ってしまったことから、息子を半ば人質がわりに使われ、良相+太皇太后へと組み込まれていきます。

前巻までの様子や今巻の「伴中庸、橋の上に思し悩む事」や「伴中庸、五条の屋敷に赴く事」を見ても、伴中庸の「人の良さ」は格別で、とても狡猾で悪賢いと言われた「伴善男」の子供とも思えない好男子ですが、このあたりが応天門の焼打ち事件の時に、藤原一族としては利用しやすかったのかもしれません。

中ほどの「藤原高子、屋敷に吉兆が現れる事」では、入内間近といわれながらも在原業平との恋愛の噂からか、藤原良相の娘・多美子に入内の先をこされた、藤原基経の妹・藤原高子にもようやく入内が現実化してきます。

それを祝うかのように、屋敷内で白い蛇と白い亀は見つかったり、と瑞兆が現れるのですが、その一方で、屋敷の侍女たちに、目を病んだり、まだ霜が降りる時には早いのに、手が真っ赤になって皮がむけたりといった症状が出始め・・という展開です。

瑞兆が実は瑞兆ではなく、さらに高子の屋敷内にも太皇太后や兄・基経の密偵が入り込んでいて、宮廷内での政治闘争は、藤原高子たちのところまですでに影響が及んできているようですね。

このほか、在原業平が10年前に信濃国で切り株の足を挟んでいた狐を助けたことの後日談となる

「狐を嫁にした男の事」や、道真の奥さんとなる、宣来子は白梅をヘアメイクする番外編一や、道真の悪友・紀長谷雄が、イジメっ子から牛追童を助け出す番外編二などが収録されています。

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レビュアーの一言

番外編ニでは、紀長谷雄の鞭独楽の技が披瀝されるわけですが、平安時代の遊び、特に庶民の遊びについては記録なども少なく、実像はわからないところが多いですね。

少し調べてみると、石を何個か地面に置いて、そのうちの一個を上に放り上げて、落ちてくるまでに置いた石を掴み、投げ上げた石を受け止める「いしなご」や、鼓型の筒を紐で回して遊ぶ輪鼓などのほか、子とろ、かくれんぼう、竹馬といった遊びも平安時代から遊ばれ始めたようです。

都の近くだけだったのかもしれませんが、貴族だけでなく、庶民も遊べるほど生産力もあがっていたってことでしょうか。

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