高学歴女性捜査官・澤務依理子は、大学爆破の陰にあるジェンダー差別を見抜く=伏尾美紀「数学の女王」

有名大学の大学院で博士号を取得し、研究者としての道が開けそうになったところで、恋人の自殺に直面してドロップアウトし、北海道警の警察官の道を選んだ高学歴警部補「沢村依理子」が、警察職場の偏見と閉鎖性と戦いながら、難事件の犯人をつきとめていく異色の女性警察官ミステリーの第二弾が本書『伏尾美紀「数学の女王」(講談社)』です。

第一弾の「北緯43度のコールドケース」では、迷宮入りしていた5年前の女児誘拐事件と、倉庫で発見された女子死体遺棄事件の真犯人をつきとめると同時に、捜査のイロハから教えてくれた先輩警察官を引退に追い込んだ主人公が、今度は大学に仕掛けられた無差別テロ事件の謎に挑みます。

あらすじと注目ポイント

今回の事件は、北海道札幌市に新設された理系専門の大学院大学のキャンパスでおきます。学長・桐生真の知り合いの他大学の教授から送られてきたという荷物を、学長秘書の女性が学長室へ運び、部屋の明かりを点けた途端、荷物が大爆発を起こし、学長秘書の女性と、近くを歩いていた大学院生や職員が巻き添えにした大爆発事件です。

この大学院大学は、ホテルや総合病院、巨大商業施設に立ち並ぶ札幌副都心に位置し、爆発が起きた時は、一般市民の講演会も開催されている最中であったため、不特定多数を狙ったテロ事件と学長への個人的な怨恨という二つの筋から捜査が進められることとなります。

ここで、本編の主人公である沢村依理子は本庁の捜査一課に抜擢になっているのですが、彼女の属する班はちょうど待機班であったため、自宅でネットの情報をかき集めるのですが、この大学院大学の学長・桐生真は、アメリカ帰りの女性数学者で、彼女の就任が決まる前には、現在、副学長をしている三島哲也という教授が学長候補となっていて、さらに大学の誘致は、この三島副学長が文部科学省の有力官僚にかなりアプローチをかけて実現した、といったきな臭い情報も。この学長の名前が男性とも女性ともとれる名前であることは、真犯人へのアプローチで重要なカギとなるので覚えておきましょう。

で、事件の捜査のほうは、大規模な爆発事件であり、さらにこの少し前に「藻岩山」という市内に近い山でも爆発事故がおきているため、セットで捜査本部が置かれるのですが、「爆破事件」ということで、過激派によるテロの可能性も想定されるため、北海道警単独ではなく、警視庁から公安関係の捜査官も多数派遣されてくることとなります。

このため、「刑事局vs公安」という警察小説ではよくある縄張り争いが展開されていくわけですが、沢村のほうは、捜査一課に大抜擢されたということで、同僚刑事からのジェンダー差別とも同時に闘わないといけない状況で・・・という展開です。

まあ、こうしたことに屈せずに捜査を進めていくのが主人公の凄さ(もっとも、あちこちぶつかったり、悪意をぶつけられたりと、かなりへこんでいることは事実なのですが)で、疑惑が捨てきれない三島教授に対し、爆破をスマホで操作できる位置に落ちていた数字の銀時計などを持ち出しながら、尋問をするのですが、三島には家政婦が証言したアリバイがある上に、アリバイを確かめようと、三島の妻にアプローチするですが、体調が悪いと拒否されてしまい・・という筋立てです。

そんな中、犯人が投函したものらしい、ユナ・ボマーの信奉者を気取る手紙と、現場近くで見つかった「銀時計」が三島教授の出身大学院の研究室で記念につくられたものであることが判明するのですが、その研究室には、「天才」といわれながら研究者になる道を断念したある女性数学者も在籍していたことが明らかになり・・ということで、真相の謎解きは原署のほうで。

レビュアーの一言

本巻の謎を解く鍵は「女性数学者」なのですが、日本の大学で理工系へ進学する女性が少ないのはもはや社会的な課題ともいえるレベルになっていて、とりわけ「数学」の分野は顕著なようです。女性の数学専攻の博士号取得者の割合は6%程度で、40%を超える国の多い中、もはや絶望的な状況といわざるをえないようです。

このあたりの原因は、河合薫さんによると親世代の思い込みや偏見、論理的思考や計算力は男性のほうが優れているという「無意識バイオス」によるものと考えられています。

歴史的にみると、4世紀ごろ、新プラトン主義の学校で数学と天文学、哲学を教え、キリスト教の狂信者に惨殺されたヒュパティア、ストックホルム大学で初めての教授となったロシア人数学者・コワレフスカヤなど多くの女性数学者が存在しているので、おそらく「性差」といったものはないんでしょうがね。

参考>女性数学者15名 有名で歴史に名を残す天才女性たち

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