妹の保険金殺人犯疑惑を晴らす姉は暗い過去を秘めている=くわがきあゆ「レモンと殺人鬼」

10年前、洋食屋を営んでいた父親が通り魔に殺され、その後、生活苦から母親が失踪。仲の良かった姉妹は別々の親戚にひきとられ、そこで二人と冷遇されながら成長し、成人してからは二人で支え合って暮らしてきた小林美桜と妃奈の姉妹。

しかし、妹の妃奈が遺体で発見され、さらに保険金殺人の犯人の疑いもかけられたことから、姉の美桜が、妹の潔白を証明するため、事件捜査に乗り出すミステリーが本書『くわがきあゆ「レモンと殺人鬼」(宝島社文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

物語は、関東の地方都市で、派遣の大学の事務員をしている小林美桜のもとへ、保険外交員をしている妹の妃奈の死体が山中に遺棄されていると知らされるところから始まります。遺体は死後時間が経過していたようで、刃物で数か所を刺されて死亡したとのことですが、4カ月前に会った時の様子でも、妹が恨みをかっているような様子もなく、美桜にはなぜ被害に遭ったのか皆目見当がつきません。

しかし、しばらくしてから、ゴシップ系の週刊誌に、妹の元交際相手がおよそ一年前に登山中に転落死していた、妹が多額の保険金を受け取っていたと報道され、妹は保険金殺人の容疑者として疑いの目を向けられることになります。さらに、地元の食材を使った料理店で成功をおさめている若き経営者の「銅森」がインタビューで、過去に保険金殺人の被害にあうところだったと告白し、その交際相手が妃奈であったことがネットに流出し、どんどん報道が過熱していきます。

そんな折、声をかけてくれたのが、桐宮という美桜の勤めている農学部の学生で、美桜に放課後児童クラブのアルバイトの仕事を提供し、美桜も迷いつつも、報酬につられて手伝い始めるのですが、そこで小学生時代の同級生で、彼女の容姿をからかってイジメていた「真凛」という女子学生に再会する、という伏線がここで挿入されてくるのですが、これが後半の謎解きにどう効いてくるか、は原書のほうでお確かめを。

美桜は真相を究明するため、銅森の事務所へ確かめにいくのですが、門前払いをくらわされて彼に会うこともできません。そんな彼女に執拗に絡んでくるマスコミの記者を撃退してくれたのが、「渚丈太郎」という美桜の勤めている大学の学生です。

彼は、美桜を小学生時代、美桜の容姿を執拗にからかってイジメていた真凛という同級生の「彼氏」なのですが、ジャーナリストとなるトレーニングのため、妹の無実を証明しょうとする美桜の調査に協力をする、と申し出てきます。

半ば疑心暗鬼で彼とともに調査を進めると、彼女たちの父親を殺した通り魔殺人の犯人・佐神が刑期が満了して退所したのですが、その後ゆくえがわからなくなっていることが判明したり、妹に保険金殺人の嫌疑をかけた「銅森」に直接会った直後に、暴漢たちに襲われたり、と妹の死にはなにかが隠されていると感じるのですが・・という展開です。

この主筋と並行して、実家がレストランを経営していた美桜と妃奈の子供の頃、店の「手伝い」をやっていた時の様子や、美桜の父親の死に関係しているらしい猟奇殺人鬼の独白が挿入されていて、美桜の近辺に危機が迫っている気配が強まったところで、最後のアクション・シーンへと突入していきます。最後で明らかになる「殺人鬼」の正体に驚かされるとともに、美桜の幼い頃の秘密とその屈折した思いにぎょっとすること間違いなしです。

レビュアーの一言

小さなレストランを経営していた父親の急死で、美桜の生活はどん底におち、彼女は苦労して成長するわけですが、その父親がつくる人気のメニューが「チキンのレモンソテー」です。ああ、このへんがタイトルの由縁なのかな、と思っていると、美桜と妃奈が「お手伝い」していた内容が後半でわかってくるにつれ、二重三重の意味が込められた「怖い」タイトルであることがわかってきますね。

ちなみに、本作は第21回「このミステリーがすごい」大賞の文庫グランプリ受賞作品です。

【スポンサードリンク】

【電子書籍比較】「まんが王国」のおすすめポイントを調べてみた
新型コロナウイルスの感染拡大がおきてから、一番利用者が伸びたのは、漫画の電子書籍サイトではないでしょうか。それ以来、電子書籍アプリは、書店系から出版社系まで数多くリリースされているのですが、今回は各種の比較サイトでベスト5にはいる「まんが王

コメント

タイトルとURLをコピーしました