小学校時代の「イジメ」が、今、自分に還ってくる=辻堂ゆめ「悪女の品格」

ネットワーク関連企業の社長の父親と、売れっ子の女優との間に生まれた主人公「光岡めぐみ」は、子供の頃からの「女王様」キャラで、わがままいっぱいに成長し、成人してからは小学校時代の同級生で金持ちの3人の男性に三股をかけながら、贅沢なプレゼントをもらい、優雅に暮らしています。

そんな彼女が、ある財布を掏られたことをきっかけに、自らにふりかかってくる災厄の秘密を解き明かしていく悪女ミステリーが本書『辻堂ゆめ「悪女の品格」(創元推理文庫)』です。

本書の紹介文では

自らの強欲と罪を認めよ。
「あの日の交換日記」で話題沸騰の著者が仕掛ける、予想外の結末とは!?
嘘を重ね、贅沢な生活をおくるめぐみのもとに過去の罪をほのめかす手紙が届く。

とあって、男を手玉に取る女性が、小学校当時に自分がやった手酷いいじめを自らにしかけてくる犯人探しを、合コンで知り合ったエリート大学准教授とともに挑んでいきます。

あらすじと注目ポイント

構成は

第一章 監禁の跡は、理科の実験
第二章 実験の後は、塗りつぶし
第三章 塗りつぶしの後は、消毒液
第四章 消毒液の後は、冷たい冬の池

となっていて、冒頭では、この物語の主人公となる「光岡めぐみ」がアパートの共同物置に監禁されているところから始まります。その前日に道をあるいていたら見知らぬ男に押し込まれて、バッグも盗まれて連絡もとれず、翌朝、近所の住民に救出されたという流れです。暴行とかの危害を加えられたわけではないのですが、その物置の扉に貼ってあった「君は覚えてる?監禁の後は、理科の実験」という張り紙がこれから彼女の身にふりかかってくる「災厄」の始まりです。

「光岡めぐみ」のこれまでを紹介しておくと、大手ネットワーク関連会社の社長と有名女優の間に生まれた一人娘で、幼い頃から贅沢な暮らしと周囲にちやほやされて育ってきた女性で、学生時代は一貫して、クラスの「女王様」として成長してきています。

ただ、金遣いの荒さがもとで成人してから、親に勘当されて、今は保険のセールスレディをして暮らしているのですが。そう真面目に働く気はなく、月々のノルマを達成して給料分を稼いだら、あとは男友達にいろんなものを貢がせて贅沢に暮らしているという境遇です。そして、その男友達というのが、お坊ちゃん・お嬢さま学校だった、三人の同級生でいずれも金持ちの男性と三股状態で交際し、彼らからの高価なプレゼントを売りさばいて日々の贅沢にあてています。まあ、この段階では、三人の男を手玉にとっているのを小学校時代からの女友達に自慢しているので、いっぱしの「悪女」というところですね。

しかし、そんな彼女に次々と「災厄」が降りかかってきます。監禁事件のあとは、三人の男性から、プレゼントと一緒に、肌クリームや香水、美容飲料などをもらうのですが、全てに塩酸が混じっているいう事件、その後は、めぐみのバッグや三人の男性の家のドアや車がペンキがかけられていたり、油性マジックでいたずら書きされているという事件です。

最初、こころあたりのなかった「めぐみ」なのですが、女友達からのヒントで、小学校時代、中途編入してきた男の子に、花火大会の日に騙して呼び寄せ体育館に閉じ込めたり、理科の実験の時に、塩酸が他の同級生にかかってしまった濡れ衣を着せたり、その男の子が熱心に作っていたオルゴールの工作に油性マジックでいたずら書きをしたり、といったひどいイジメを繰り返していたことを思い出します。

その男の子には、それから小学呼応卒業までに給食に消毒液を混入して飲ませたり、冬の寒い時に校内の冷たい池の中に落としたり、といじめを繰り返していたことも思い出します。

そんな時、「めぐみ」のもとに、消毒液混入と池に落とされた「いじめ」の再現をされたくなかったら、現在付き合っている三人の男性にすべてを白状して別れろ、という新たな紅白状が届きます。生命の危険を感じた「めぐみ」はその脅迫に従うことになるのですが・・という展開です。

実は、この脅迫劇と並行して、浮気性の「めぐみ」は婚活パーーティーで、若くして大学の准教授となっているイケメンの男性と知り合っているのですが、彼の部屋に泊まった朝、その男性が、かつて「めぐみ」がいじめていた小学校時代の同級生の男の子であったことがわかります。一連の事件の犯人が、この男性では、と疑いを強める「めぐみ」に、彼は犯人ではないと主張し、真犯人を捕まえる、という理由で「めぐみ」につきまとうようになるのですが・・という伏線が動いていきます。

果たして、一連の事件の犯人はこの男なのか・・という「めぐみ」の疑惑を軸に物語は動いていくのですが、実は動機となる「イジメ」の被害者は彼だけでなかったことが謎解きの鍵となっていきます。

悪女の品格 (創元推理文庫)
悪女の品格 (創元推理文庫)

レビュアーの一言

事件の本筋は、過去のイジメ事件に起因した「復讐劇」の謎解きなのですが、最終盤のところで、生活に窮したときの最後の縋りどころとしてキープしていた父親に手ひどく裏切られるのですが、絶縁状態にあった母親と「和解」の兆しがみえてきます。

多忙を理由に子供にかかわることをしなかった「親」との関係を、子供が乗り越えていく「贅沢なネグレクト」の克服エピソードという側面も垣間見える作品です。

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