宗像は日本古代史に隠れている製鉄民の歴史をあぶり出す=星野之宣「宗像教授異考録」3〜5

圧倒的な歴史的知識と猪突猛進といってもいい探求心、そして、制約をしたない独自の理論構築と考察力で、古代史・人類史の謎解きに挑み続ける異端の民族学者「宗像伝奇」の活躍を描いた「宗像教授」シリーズの第2シリーズ『星野之宣「宗像教授異考録」(ビッグコミックス)』の第3弾から第5弾。

あらすじと注目ポイント

第3巻 宗像は「出雲大社」の真の姿を見抜く

第3巻の構成は

第1話 人穴
第2話 鬼の来た道
第3話 神在月

となっていて、第一話の「人穴」は、長野県諏訪地方で、宗像の友人が発見した縄文時代の蛇神「ミシャグチ」の巨像と生贄に捧げられた人骨が集積した洞窟遺跡が舞台となります。
この遺跡一帯の山が、ここを故郷とするIT関係企業を経営する若手経営者「網野」に買収されるのですが、彼は洞窟内の神像をはじめ遺跡を根こそぎ東京へ移転し、縄文ミュージアムをつくることを計画しています。
地元の大事な「遺産」を奪う行為なのですが、その動機は物語の最後半で明らかになります。
しかし、その下見に洞窟内に入った網野は洞窟内に大きく開いた穴に忌部神奈と、彼女を助けようとした宗像とともに落ちてしまいます。ここから出口を求めて洞窟内を彷徨うことになるのですが、それは縄文時代の地下の交通路をたどることにつながり・・という展開なのですが、これは徳川家康の伊賀越えに残された謎を解くことにも繋がっていきます。

第2話の「鬼の来た道」は、宗像が大学時代の学友で現在は民間の研究者をしている「若緖」とともに、福井県の敦賀近くにある、古代には物部氏が支配していたといわれる「鬼部村」へ調査にでかけます。
そこには古代の製鉄遺跡もあり、さらに、風の強い丘の上で何体もの死体をつかって鉄を吹く、鬼気迫る奇祭がかつては行われていたということで・・という展開です。

この祭りは今では絶えてしまっていたのですが、村を訪れていた都会から来た若者たちが車の暴走で事故死してしまったことから、村人たちの「祭り」へのスイッチが入ってしまい・・という筋立てです。

思わぬことから「古代の呪い」が復活するという、民俗ホラーんも定番的な展開です。

第3話の「神在月」では、全国から神々が集結するという旧暦の十月に島根県の荒神谷遺跡の資料館に招かれた宗像と神奈が、そこで人の気配を感じさせない「古老」っぽい考古学・歴史学の権威たちと出会い、彼らと語り合ううちに、出雲大社のもともとの姿と、縄文時代に日本海沿岸に築かれたシンボルの存在に気づいていく物語です。

ここで、付近の山のがけ崩れで、原・出雲大社ともいうべき古代遺跡が出現することになります。

第4巻 宗像は「サルタヒコ」の真の姿を見抜く

第4巻の構成は

第1話 サルタヒコ計画
第2話 鉄の帝国
第3話 黒塚

となっていて、物語は、宗像が秋田の湯沢市の郊外で、「猿」そっくりの風貌のサンオー観光の「羽柴秀吉」と名乗る人物に出会い、彼から日本神話で「国譲り」のために高天原から降りてきた天孫ニニギの道案内を務めた異形の神「サルタヒコ」の正体を突き止めてくれと依頼されます。

羽柴社長と昔からの知り合いという忌部神奈とともに、彼のクルーザーで日本海側を航海して調査するのですが、出雲で、サルタヒコは岬など立って、海からくる者に国の境界を知らせる「境界神」だったと推理し、各地の岬に「サルタヒコ」の巨大模型を建てて番組をでっちあげようとする神奈の兄・忌部捷一郎に出会います。彼はサルタヒコとイースター島のモアイとの類似点を上げてきます。

その話を一笑に付す宗像だったのですが、この立像の近くの崖から縄文時代人が集団埋葬されている遺跡が発見されたことから、宗像は「道案内」の神といわれる「サルタヒコ」の全く逆の役割に気づくこととなります。

第2話の「鉄の帝国」は、日本の近代を支えた製鉄所のあった「八幡」が舞台です。この地の銅の採掘跡地の坑道跡に入り、遭難してしまった宗像だったのですが、彼を救出しようと、姪の宗像三姉妹がかけつけます。
そして、坑道内を奥へ進んだ四人が見たのは、日本の近代を「宗教的」に支えた「地底の神社」の存在で・・という展開です。

第3話の「黒塚」は安達ケ原の鬼婆伝説がテーマです。

安達ケ原の鬼婆伝説は、乳母として使えた姫君の病を治すため、それとは知らず、実の娘の腹の子を奪おうと娘を殺してしまった母親が鬼に転じてしまった話なのですが、これと各地に残る鬼婆伝承とを結びつけることによって、日本の製鉄民の隠された姿が明らかになってきます。

第5巻 安珍清姫伝承と髪長姫伝説が導く、藤原氏の陰謀とは

第5巻の構成は

第1話 道成寺
第2話 複合遺跡
第3話 虫めずる姫君

となっていて、第一話の「道成寺」は歌舞伎の「娘道成寺」の原話となる「安珍清姫伝説」の謎解きです。その道成寺に近い日高川の底から古い鐘が発見されるのですが、道成寺が文武天皇の勅願によって建てられたことと、紀伊国の九海人の里の海女の娘で、文武天皇の后となった「宮子」の伝承である「髪長姫」伝説がむすびつけられ、実在の文武天皇の后で藤原不比等の娘で、聖武天皇を産んだ「宮子」に隠された藤原氏の陰謀が明らかになっていきます。

そしてそれは、宗像の若い頃の、恋物語も蘇らせることとなります。

第2話の「複合遺跡」は徳島と高知の県境の山中で発見された遺跡が、土佐物部一族と阿波忌部一族の信仰していたそれぞれの神社の跡ではないかとされ、現在は表立って対立してこなかった古代に端を発する両族の対立を再燃させます。

そして、両族の「御神体」とされてきたものがともに「巨大隕石」であっったことが明らかになるとともに、それは古代における「聖地争奪」の戦いを意味していたのですが、それが現代に再現されることになり・・という展開です。

第3話の「虫めずる姫君」は宗像が東亜文化大学で、昆虫学を専攻するが女子学生と知り合いになり、彼女から古代に大流行した「常世の虫」信仰で御神体とされた「常世の虫」の正体を教えられることになります。

レビュアーの一言

日本の神話・伝説と世界の神話・伝説との関わりを見つけ出し、日本史のグローバルな側面を明らかにする物語の多い第2シリーズなのですが、第3巻体異5巻まではオーソドクスに、日本の古代史の意外な真相を明らかにする物語が多いですね。特に今回は、宗像教授の研究テーマである「鉄」「製鉄民」に関わるものが多く、日本古代史の異説が楽しい仕上がりとなっています。

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