ヤノハは倭国統一のため大陸の力の利用を目論む=「卑弥呼ー真説・邪馬台国伝ー」15

古代史最大の謎「邪馬台国」で、日向の巫女の娘が権謀術数の限りを尽くして、山社の国の女王「日見子」に成り上がり、九州諸国を束ねて、「大和」と倭国統一を巡って戦いを始める漫画版・卑弥呼物語『リチャード・ウー・中村真理子「卑弥呼ー真説・邪馬台国伝ー」(ビッグコミックス)』シリーズの第15弾。

前巻で金砂国を手中に収め、九州へと食指を伸ばし始めた「日下国」の軍勢を山陰の「青谷」で退け、さらにフトニ王を暗殺し、日下国の野望を挫いた「日見子=ヤノハ」だったのですが、態勢を立て直して本格侵攻してくるであろう日下とヤノハの反対勢力として九州を統治しようとする「暈国」の鞠智彦に対抗して、大陸の強国とのつながりを求めていくヤノハの姿が描かれます。

あらすじと注目ポイント

第15巻の構成は

口伝111 示斎の意味
口伝112 赤い土くれ
口伝113 謀略
口伝114 庭
口伝115 疑心
口伝116 強さと弱さ
口伝117 三国鼎立
口伝118 一生の夢

となっていて、冒頭では那国のトメ将軍が伊岐国の日守り・アシナカの案内で津島の近くにある「黒島」を目指して航海しています。対馬(津島)の領主であるアビル王が筑紫連合の敵・暈国と通じている疑いがあるため、本島には上陸せず、通常のルートとは逆の彷徨から朝鮮半島を目指そうという作戦です。ただ、この黒島が現在でも無人島であることからわかるように、このルートは漁師からもおすすめできない難航路のようですね。

中盤で嵐にあいこのルートによる渡航を断念したトメ将軍一行は、対馬の鰐浦で食料や水を補給し、そのまま朝鮮半島の南端の「加羅」へと渡ります。ここで、百年前から倭の駅役を務めてきた邑長から大陸の情勢を聞き、ある策略を思いつきます。その詳細は次巻以降の展開ですね。

そして前巻で、「田油津日女」として暈国に潜入し、鞠智彦に協力して五家のタケルを暗殺した女忍者のアカメとヤノハの弟・ナツハからの、対馬のアビル王が大陸の国際情勢を偽っていたという情報を知ったヤノハは、アビル王の暗殺計画を考え始めます。

ヤノハは秦国から亡命者から伝えられた始皇帝も服用したといわれる「丹」を入れた不老不死の薬を使って暗殺を謀むのですが、自ら調合した薬を、筑紫連合の盟友であるはずの那、穂波、都萬の国王に渡すよう近臣のミマアキに命じ、伊都、末盧、伊岐の国王へは自ら届ける、と言い出します。

ヤノハは味方の王全員を殺して、一手に権力を集めようとしているのか・・といった疑念のわくところですね。

一方、暈国は領内からスズが採れることを領民から教えられ、武具の一新を図り、筑紫連合に敗れて勢いを制されている日下に先んじて大陸の強国と結び「倭王」の称号を得ることを考え始めています。この時点では、当時、魏・呉・蜀漢の三つの国に分かれて中国大陸あるいは遼東半島を制していた公孫一族のどれと結ぼうとしているのかはまだはっきりしていないのですが、最後の方で「呉」と関係を結ぼうと考えていることが明らかになってくるのですが、通史の中では日本と呉との関係があったことを示すはっきりとした遺物はみつかっていないはずなのですが、少し調べる必要がありそうです。

錯綜する情勢の中で、僅かな伴を連れて諸国を巡るヤノハだったのですが、ここに日下国のサセリとモモソの陰謀が襲います。それは、アマテラス神の神託をうけた正当な日見子ではないことを隠してきた「ヤノハ」の弱点をついた巧妙な襲撃計画で、襲撃が失敗したとしても、筑紫連合諸国内の反目を誘うものだったのですが、・・といった展開です。

少しネタバレしていおくと、この危機下でのヤノハの判断が彼女の勢力をさらに拡大することとなりますね。

レビュアーの一言

今巻での中国大陸の情勢は、曹操・劉備・孫権がそれぞれ魏・蜀漢・呉を建国した当時からさらに時間が経過していて、魏は三代皇帝の曹叡、遼東半島の公孫一族は初代の公孫康の息子の公孫淵が継いでいます。ということは、蜀漢は暗君といわれた劉禅に代替わりしていて、諸葛孔明はすでに死去していると推測されます。

卑弥呼が魏国から「親魏倭王」の称号をもらったのが239年のことで、曹叡が没したのも239年のことなので、トメ将軍やヤノハが大陸を渡ろうとしているのは、魏国がまだ強大な勢力を保っていたころですね。249年には司馬懿による王族・曹爽一族を殺害して実権を握っているので、時期的には一番良い頃だったといえるのでしょうね。

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