高学歴美女に、リストラ親父の魔の手がのびる ー 鳴神響一「脳科学捜査官 真田夏希 イノセント・ブルー」(角川文庫)

医師免許も持つ、高学歴・美貌なが、「幸せな結婚」を望んで婚活活動を続ける神奈川県警科学捜査研究所所属の腕利きプロファイラー・真田夏希の活躍を得菓子「脳科学捜査官」シリーズの第2巻。

前巻で、地雷除去犬としてトレーニングを受けたドーベルマン「アリシア」とその担当者・小川、神奈川県警の万年巡査部長ながら腕利きの刑事・加藤、警察の威信の保持を第一義に考えるイケメン・エリートの警察庁理事官・織田、神奈川県警のサイバー犯罪の専門家・小早川管理官といった個性的なメンバーと、連続爆破とSNSを使った大衆誘導を仕掛けてきた「マシュマロボーイ」を撃退した「夏希」なのだが、今回も婚活活動中に遭遇した溺死殺人から始まる連続殺人の捜査で、「かもめ★百合」をハンドルネームとする彼女と犯人とのネット上のやりとりが、捜査のキーとなって、事件を解決していく筋立てである。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 モーニング・クルーズ江の島
第二章 シーブリーズ辻堂
第三章 オフショア東海岸
第四章 サザンビーチ・ライブ
第五章 サンセット・クルーズ相模湾

となっていて、まずは、江の島で、レストランなどの飲食店を多数経営している「小西」という男性とのデート・シーンから開幕。
すべて超一流のブランドものでガチガチに固めている、という様子から、プライドの高い、嫌味な人物をイメージしてしまうのだが、この男性、彫りの深いイケメンで、気遣いもできて、頭の回転も速く、夏希にぞっこん、という状況で、婚活相手としてはなかなかの逸材であるのだが、真田夏希に言わせると

だが、なにかしっくりこない。
そう。センスだ。センスが合わないのだ。

という理由で「アウト」の判定を下すのだから、彼女の「好み」も相当なレベルの高さである。

なので、小西とのデートで食事に向かう途中で、爆弾処理専門犬のアリシアの姿を見つけて、デート相手の小西の誘いを振り切って、そちらに合流するのも無理はないのだが、事件現場で溺死した被害者の顔を見て気絶してしまうこととなるので、どちらが良かったのかは判断に迷うところ。
ただ、こんな仕打ちをされても、相手の小西は夏希と再びデートしたがるってんだから、相当彼女は魅力的なんでありましょう。

本巻の第一の事件の被害者は、戸田というイベント・プロデューサー。「江の島」の波打ち際に顔だけ出して埋められ、満潮によって溺死させられるという残忍な犯行なのだが、犯人を名乗る「シフォンケーキ」という人物が、「イベント出演をエサに、たくさんの若手女性タレントを毒牙に掛けたので天誅を加えた」と犯行宣言。さらに、次回は爆弾を使った天誅を下すので、「かもめ★百合」との非公開チャットルームをつくってくれ、という要求がでたところで「夏希」の出番となった次第。

この犯人、犯行の予告に「ワールドペディア」というアクセスフリーのインターネット百科事典を使うのだが、その書き込んだ時のIPアドレスであるとか、MACアドレスとかを隠そうとしないところから、神奈川県警のサーバー犯罪の専門家の小早川管理官あたりは、ITに詳しくない人物とみて、簡単に正体が突き止められると安易に考える。犯人がITに詳しくない、という推測は当たっているのだが、素人ならではの行動にあとで足を掬われることになりのだが、詳しくは原書のほうで。

犯人から送られてきた最初のメールで、
・犯人の口調が「〇〇してくれないかな」「〇〇してほしい」という要請形式が多いことから、女性の部下を持った経験がある人物
・「かもめ★百合」を「ちゃん」づけで呼びかけるといったところから、セクハラ意識が希薄な中高年の男性
といったプロファイルを即座に分析してくるあたりは、夏希もちゃんと仕事をしていますので安心してださい。

犯行のほうは、辻堂海浜公園に爆弾をしかけたと犯行予告がされるのだが、これはフェイク。予告された公園でキュレーションメディアの社長・筒井が絞殺されているのが発見されるという事態で、前巻同様、捜査本部は、犯人に振り回されてばかりです。
ちなみに、二番目の被害者は「数多くの者から財産を巻き上げた」のが殺された理由だと「シフォンケーキ」は犯行声明を出し、一番目の事件も二番目の事件も、悪党を成敗した「天誅」だとうそぶいています。

ただ警察のほうもそこは冷静で、犯人の犯行動機に惑わされることなく、聞き込みにまわります。そこで、被害者たちが、バブル時代に学生イベント会社を立ち上げて、学生起業家として成功をおさめていた、という情報を手に入れ、そのメンバーの一人である滝川というウェディングプランニング会社の社長がしばらく前から姿をくらましているというところから、彼が容疑者として浮かび上がってきます。まあ、この滝川という男のことを詳しく教えてくれる男が、また食わせ者なのですが・・・・

この人物が事件に関係していて、犯行のキーはバブルの時に立ち上げた会社に関係しているのでは、というあたりの推理は捜査本部のお手柄なのですが、「犯人では」と思いこんだところからミスリードが始まります。
三番目の事件として、犯人の「シフォン・ケーキ」からアイドル・オタクの副大臣をそのアイドルのライブ会場で殺害する、という犯行予告が入るのですが、実は犯人の狙いは「かもめ★百合」こと「真田夏希」本人であることに気づかず、彼女が自宅近くで犯人に略取され、江の島のハーバーにつれていかれてしまいます。

ここらあたりから、美人の主人公の脱出劇と、彼女を守ろうとする加藤、アリシアたち捜査現場のメンバーたちの救出劇といった筋立てに転換していくのですが、ここから先は原書で。
少しだけ、ネタバレしておくと、事件の犯人は、バブル時代の夢が忘れられない、今は尾羽打ち枯らした起業家というところで、犯行の動機と、夏希誘拐の理由も、事業に失敗した人物の変形した「復讐劇」と「心中劇」といったところでしょうか。

【レビュアーからひと言】

今巻でのチェックしておくと話ネタにつかえる脳科学Tipsは 「偏桃体」で、

実権の結果、(腎臓の)ドナー提供者集団のほうが、「怯え・不安」の表情をより細かく正確に読み取っていた。この判断に際しては、右扁桃体の血流量が増加し活性化していることが明らかになった。
さらに、ドナー提供者集団は、そうでない人の集団よりも、扁桃体が物理的にも大きかったのである。
マーシュ教授の実験は、他人への優しさは、その人の経験よりもむしろ、扁桃体の動きや大きさは決め手になることを示唆している・

といったところ。これをどんな場面で使うかは、あなたにお任せします。

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