「明治」になっても闇に潜む「妖」は江戸と同じ ー 畠中恵「明治・妖モダン」(朝日文庫)

明治時代を舞台にした小説というと、司馬遼太郎さんの「坂の上の雲」や「翔ぶが如く」といった歴史小説か、梁田風太郎さんの「明治断頭台」シリーズや坂口安吾さんの「勝海舟」を主人公にした「安吾捕物帳」といったところが目立つところで、本書のような幻想小説の風味のあるミステリーには、最近お目にかかっていない。
本ブログでもレビューしたのは、山本巧次さんの「開化鉄道探偵」ぐらいではないだろうか。

「明治」という時代が遠くなってしまった、ということもあるのだろうが、文明開化や日清・日露戦争など、欧米諸国へ追いつけ追い越せと国を発展させる色合いが強くて、闇の中から伺うようなところのあるミステリーや幻想小説には向かない時代とみられているところもあるのだろう。

本書は、そういう中で明治二十年頃、銀座四丁目のある派出所に勤務する警察官を主人公として、銀座を舞台に起きる数々な奇妙な事件を解決していくミステリーなのだが、単なる謎解きでなく、あちらこちらに「妖」が顔を出す「怪奇風ミステリー」である。

【収録と注目ポイント】

収録は

第一話 煉瓦街の雨
第二話 赤手の拾い子
第三話 妖新聞
第四話 覚り 覚られ
第五話 花乃が死ぬまで

の五話で、本シリーズのメインキャストは、銀座四丁目の派出所勤務の警察官の「原田」と「滝」。そして彼らが行きつけの牛鍋屋・百木屋の主の百木賢一こと「百賢」。原田や滝と同じく百木屋の常連である、年齢不詳の美女「お高」、煙草商の「赤手」といったところである。

第一話は、原田と滝が勤務する派出所に詐欺師の「伊勢」とかっぱらいの「長太」が捕まっていて、彼らを相手に原田が「怪奇話」をはじめる所からスタート。その話は、このシリーズのメインキャストをざっと紹介しつつ、キャストの一人である百賢の妹「みなも」に起きた事件の話。彼女は東京の女学校に通っているのだが、評判の美人。その美しさに惹かれていろんな男が言い寄ってくるが、その中の「下谷」という事業家が強引で、彼女に「翡翠のブローチ」を無理矢理プレゼントする。そのブローチが実は居留地の外人から盗まれた盗品であることがわかり、さらには「下谷」の商売のいかがわしさがバレ始めると、「みなも」が何者かにさらわれてしまう、果たして彼女は助かるのか・・といった展開。
少々ネタバレすると、彼女の行方は最後までわからないのだが、彼女を誘拐したと思われる「下谷」が川で不慮の死を遂げるのだが、彼を川へ引っ張り込んだのは「濡女」のようなのだが・・、といったところで、「みなも」を漢字にしてみてくださいな。

第二話の「赤手の拾い子」は煙草商の赤手が浅草で拾ってきた女の子の迷子の話。その迷子の名は「おきめ」というのだが、最初デアたときは3つぐらいの女の子だったのが、しばらくすると6つぐらいの大きさに成長し、一夜あけると10歳ぐらいまでに成長しているという不思議な娘である。そして、彼女はダイヤモンドを5つほど持っていて、それを目当てに「親」であるとか「親戚」であると名乗る者が多数現れる。その中の、深川で金貸しをしている「丸加根」という男もいて、見るからに「親」ではないのが明らかなのに、彼の「ずっと側にいる」という言葉に騙されたのか、「おきめ」は彼を父親だと主張して、彼についていく。
その後、数日してすっかり美しく成長した「おきめ」と丸加根は世帯をもつのだが、果たして「おきめ」の正体は・・、というのが謎解き。これも「おきめ」を漢字にしてみると判明するかも。

第三話の「妖新聞」では江戸橋の先で五人がいっぺんに死んでいた事件からスタート。その五人には何の関係もないようで、原田や滝、そして百木屋の常連たちが、その五人について調べていくと、事件のことを新聞記者の高良田という男がかぎつけて、彼らの周りをウロウロしはじめる。そうこうしているうちに、「原田」が犯人に襲われて大怪我を負って・・・という展開。この大量殺人の犯人「笹熊」の黒幕捜しと、実は「原田」はといったところが話しの肝ですね。

第四話の「覚り 覚られ」は、この頃、第一回目が行われてた国政選挙がテーマ。この当時の国政選挙は、仲間や知り合いを当選させて成り上がろうという「壮士」」たちが策をめぐらしていたのだがその中に、「覚り」という人の心の中が読める「妖怪」の力を使って当選しようとたくらむ者がでてくる。その「覚り」捜しに原田と滝がまんまと利用されることとなるのだが、実はその「覚り」の正体は・・・、といった展開。

最終話の「花乃が死ぬまで」は、親の命令で三人の男と結婚しその都度相手が早死して、今ではかなりの財産家になった未亡人の花乃という女性に、巡査の「滝」がつきまとわれる話。彼女の話によると、若い頃相思相愛だったが結婚できなかった男(これも「滝」という名前らしいんですがね)と巡査の「滝」がそっくりだというのである。身よりのない「花乃」はその財産を「滝」に譲るという遺言書を書くのだが、彼女の財産を狙う前夫の子供や親戚が彼女を狙ってきて・・、という展開。「滝」の「やっぱりね」の正体が明らかになりますね。

【レビュアーから一言】

明治になって闇の中で息を潜めていた「妖怪」たちが、事件の合間合間に姿を現してくるな、と思っていたらなんと・・といった感じで、気がつくと「周りの人は全て」といった展開にあわててしまった。

第一話の冒頭のところの

「世の中がモダーンになったからって、時も土地も、江戸から切り離された訳じゃない。今、そう話したばかりだろうが」

「たった二十年で、そういう者たちが、きれいさっぱり消えると思うか?」

というのがじわじわと効いてきますね。

https://amzn.to/338Ng1y

コメント

タイトルとURLをコピーしました