江戸の火消の代表格となった「新庄藩大名火消し」の活躍を描く「羽州ぼろ鳶組」の活躍を描くシリーズの第七弾が「狐花火」(祥伝社文庫)。
度重なる火事で犠牲者も出ているが、「ぼろ鳶組」があちこちの火事に出張って「見舞火消」を続けるうちに、江戸の火消たちの結束や連携が高まってきている。今巻は、そんな「ぼろ鳶組」誕生の時の大火事であった「明和の大火」の犯人の復活と思わせる付け火に立ち向かう「源吾」たちの姿が描かれる。
話が進展していくうちに、江戸火消たちのラインナップも充実してきていて、羽州ぼろ鳶組のメンバーだけでなく、大音勘九郎ひきいる「加賀鳶」や喧嘩っ早いモンロー主義鳶の、辰一ひきいる「に組」、礫の名手・柊与市の「仁正寺藩火消」など、それぞれの特色が楽しめまる仕上がりになってます。
【構成と注目ポイント】
構成は
第一章 蠢く
第二章 多士済々
第三章 番付狩り
第四章 要人
第五章 狐を継ぐ者
第六章 青き狼
第七章 焔の火消
となっていて、まずは、田沼意次のこの時期最大の政敵で、「ぼろ鳶組」を田沼追撃の材料に使おうとしている、一橋卿・徳川治斉の述懐が本巻の出だし。
本巻までで、江戸を丸焼けにすることをためらわなかったり、孤児の人身売買の黒幕であったり、と悪知恵の塊のような老獪な男であることを示してきた「徳川治斉」卿なのだが、年齢的には若く、なにか深い「鬱屈」を抱えているのではと思わせていたところだが、この巻でその一端を見ることができる。子孫を遺すためだけに創設された「御三卿」の家の悲哀を感じさせるのだが、失った配下に対する思いは冷酷であるし、新しい配下二人を見つけ出して次の企みを開始していたり、彼が「ぼろ鳶組」の仇敵であることには間違いないのを再認識させる。
さて、話のほうは、江戸の町を焼き尽くした「明和の大火」の原因者「狐火」こと「秀助」が使った「朱土竜」を始めとした火付けの手口をつかった連続放火が発生する。しかも、その放火先が、秀助の一人娘の「お糸」が命をおとした隅田川での花火の試し上げの時に立ち会っていたのが八重洲河岸定火消の屋敷で連続するので、さては孤児人身売買の事件とも・・・、と思わせるのだがこれはダミーなのでひっかからないように。
秀助は明和の火事の火付けの後、刑死しているはずで、しかも捕まる時には、源吾を含めたちゃんとした火消に出会って、改心していたはずなのだがあれを嘘だったのか、といったのが今回の「狐火の再来」騒動の本体。そして、この謎を解く相棒として、御庭番らしい麹町火消の頭領・日名塚要人と組むこととなったので、捜査中も気が抜けない、という状況になる。もっとも、麹町火消は要人だけでなく、全員が御庭番にすり替わっているようなので、隠密働きでは頼りになる存在であるのは間違いない。話のちょうどいいポイントで明和の火事の時の秀助の回想が挟まれていて、読者の推理を誘導したり、彷徨わせたりする作者の腕の冴えは見事ですね。
さらには、番付が上位の火消を狙って喧嘩をふっかけてくる「番付狩り」が出没。喧嘩をふっかけてきて怪我を負わせるまでなので命に別状はないが、火消の評判が落ちるのは間違いない。犯人は火消を倒した後、「火消の男を試した」という捨て台詞を残すのだが、これが彼の犯行動機なのか?、そして、明和の火事の時に殉職した名火消し「い組」の先代頭領・白狼の金五郎の息子であると名乗るのだが果たして・・・、といったのが、並行して展開される複線仕立てになってます。
読みどころの火消アクションシーンは、駿河台定火消の火消屋敷で起こる大火事の場面。これまた、秀助の付け火の技「瓦斯」を使った手口で行われるのだが、これに、手柄を立てようと逸った新人火消が「水」をかけたために爆発と大延焼を起こすという事態を引き起こす。この爆発で生き埋めになった麹町火消や新人火消を救出することができるか?さらに、この火事現場で救出を進める源吾なのだが火の勢いは強く、新人火消は見捨てるしかないと思われた時、「秀助」の言葉が伝えられ・・・、といった感じで、「情けは人のためならず」という諺を思わせる結末を迎えます。
【レビュアーから一言】
恒例となった松永源吾の奥さん「深雪」の活躍は、今回は、氷のように固まっていた日名塚要人の心を、最近知り合いになった「しまづ」様から教わった鍋料理でもてなして解きほぐしてしまうなど相変わらずいい働きをしています。
そして、その鍋料理というのが、阿蘭陀由来の「エルテンスープ」というもので、それを教えた武家は「島津又三郎」という名前であるのだが、さて・・、といったところで各自ネットで検索してみてください。深雪さんの人脈に驚くと思います。
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