「ぼろ鳶組」の名脇役たちのエピソードをおさえておこう=今村翔吾「羽州ぼろ鳶組 恋大蛇」

火の粉を浴びたり、消火の水をかぶるためにぼろぼろの半纏をきているせいで、ついたあだ名が「ぼろ鳶」。江戸を火事から守る火消しの中でも、一・二を争う結束力と勇敢さをもつ新庄藩大名火消しの活躍を描く「羽州ぼろ鳶組」シリーズで印象部深い役回りを務めた脇役たちの活躍を描く番外編が本書『今村翔吾「羽州ぼろ鳶組 恋大蛇」(祥伝社文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

収録は

第一話 流転蜂
第二話 恋大蛇
第三話 三羽鳶

の三話。

第一話 流転蜂

第一話の「流転蜂」は、「夢胡蝶」で吉原の連続放火に関わって、八丈島に遠島になった本庄藩火消・鮎川転が主人公となります。

鮎川は、八丈島へ送られる船の中から「留吉」という偽名を名乗り、自らの素性を隠して島で暮らしていこうと心に決めています。このため、流人に与えられる小屋も村はずれのものを選び、村人や流人たちとの関りも極力避けようとするのですが、日々の食料を確保しなければならないため、毎日、海に素潜りして魚を捕らえようと試みます。

二十日ほど経過して、素手で一匹の魚を捕らえたことをきっかけに、恩赦の後も八丈島に寿住んでいる角五郎という流人あがりの漁師と知り合いになり、彼の漁の手伝いをして暮らすことになっていきます。

角五郎の弟子っぽくなったことで、村長や村人たちとも昵懇になり、このまま素性を隠したままで、八丈島の土となるだろうと思う留吉こと鮎川だったのですが、八丈島でも頻発する「火事」の対策のため流人たちによる「火消組」が結成されたことから運命が変わっていきます。その「火消組」は、江戸で火消し番付の十両のはしっこぐらいに載っていた火消しをリーダーに活動を始めるのですが、ある時、火山由来の山火事がおきます。この火事は彼らの手に負えない上に、村人の孫息子が山に取り残されて・・という展開です。

妻子が見殺しにされたため、火消し殺しを行った罪で流人となった角五郎と火消しの心が忘れられない鮎川の思いが交錯する物語です。

第二話 恋大蛇

第二話の「恋大蛇」は「双風神」で京都や大坂でおきた大火事である「火車事件」で新庄藩火消頭取・松永源吾と一緒に鎮火を行った淀藩常火消し・野条弾馬が主人公です。

彼は「火車事件」のあと、持ち場である京の市中の火消しに復帰しているのですが、以前に見殺しにしてしまった幼女への悔恨から、酒を呑まずに火事場にでることができないというトラウマは治癒していません。そんな彼には、父親を火事から救い出したことがきっかけに慕ってくれている「紗代」という年頃の女性がいるのですが、火消しはいつ命を落としてしまうかもしれないということから、彼女の思いを拒絶してしまうのですが・・という筋立てです。

その後、火事場にいつももっていく瓢箪の中の酒をこぼしてしまった弾魔に前に、紗代が酒の入った瓢箪を持って現れたところから、恋バナが弾魔のトラウマを癒していきます。

この話はこのほかに、弾馬が火消しに復帰することになった、淀藩の若き藩主との出会いのエピソードも出てきますので、弾馬ファンは必読です。

第三話 三羽鳶

第三話の「三羽鳶」は、加賀藩の大音や新庄藩の源吾たちが所用で江戸を離れていた時の事件です。頭が自ら一日を欠かさず夜回りをすることで有名な「め組」の頭・銀次は自らの閑管轄の「二葉町」で空き家でおきた火事を消し止めるのですが、そこで五人の男女の焼死体が発見されます。五人の性別や年齢などの検死を、医師を兼業している「け組」の燐丞が行うのですが、そのうちの一人が銀次の知り合いの娘らしいことから、二人がこの火事の捜査を行っていきます。

そして、五人の素性を調べているうちに、幾人かの浪人ものに襲撃されたため、仁正寺藩火消頭取の柊与市の屋敷に助けを求めて逃げ込んだことから、三人で事件の捜査を行っていくのですが、ここにはある藩の後継ぎをめぐってのお家騒動と、江戸で一時期流行していた集団心中を手助けする違法組織が絡んでいるようで・・という展開です。

松永源吾や大音勘九郎たち火消の「黄金の世代」の次の世代を担う火消たちの活躍が見ものです。

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レビュアーの一言

この巻の物語は、前作の「襲大鳳」のしばらく後の、大きな事件も火事もない「凪」のような頃のエピソードといっていいでしょう。

三作とも、本編では紹介されることの少ない「脇役」たちのエピソードが中心なのですが、シリーズを深く楽しむためにはおさえておきたいエピソードがたくさんでてきますので、追物がしなきように。

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