新之助にふりかかる放火誘拐犯の嫌疑を、火喰鳥は喰いつくせるか ー 今村翔吾「玉麒麟 羽州ぼろ鳶組8」

火薬を使った元花火師の放火犯・狐火が起こした明和の大火に始まって、新木場の火事、大坂の火付けなど多くの火事を、頭領の「火喰鳥」こと松永源吾を筆頭に、一丸となって「喰って」きた「ぼろ鳶組」。

前巻では、狐火の復活かと思われた放火事件を解決したのだが、田沼老中の失脚を狙う一橋卿の陰謀はますます「巧妙さ」と「凶暴さ」を増してきている。

そんな中、創設当時からのメンバー「鳥越新之助」の火付けの嫌疑がかかり追われる身となるというアゲインストな幕開けとなるのが、大名火消「羽州ぼろ鳶組」の活躍を描くシリーズの第8弾となる『今村翔吾「玉麒麟 羽州ぼろ鳶組8」(祥伝社文庫)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

序章
第一章 消えた頭取並
第二章 加賀の評定
第三章 もう一人の銀煙管
第四章 真の下手人
第五章 関脇ふたり
第六章 出奔覚悟
第七章 転(まろぼし)
終章

となっていて、日本橋の商家の火事の場面からスタート。

火事そのものはそう大きいものではなかったのだが、屋内から15人の遺体が発見され、いずれも縛られていたことがわかった。そして、家族のうち、二人の娘の行方がわからず、周囲を火消したちで探していた所、加賀鳶の三番組頭で槍の遣い手・一花甚右衛門が、その娘の一人・お琴と一緒に逃げようとする犯人らしき男に出くわすのだが、なんとそれは「ぼろ鳶組」頭取並の鳥越新之助であった・・、といった滑り出しをする。

この襲われた商家は「橘家」という大店で、干鰯、薬種など手広く商売をしていた店なのだが、新之助が先だって見合いをした娘の実家でもある。そんな家を新之助が襲って金を奪い、一家を惨殺したのか・・、といった感じで展開していく。

捜査のほうは、町奉行、火消し盗賊改方ばかりでなく、江戸の火消し全体での捜査に拡大され、高額の賞金までつけられる。新之助の無実を信じて捜査に非協力的な組もあるが、賞金欲しさに捜査に加わる火消し組も多い。

さらに、一橋卿が裏から糸を引いたのか。「ぼろ鳶組」をはじめとした新庄藩の藩士には謹慎の命令が下され、身動きできない状態に追い込まれるといった筋立てて、新之助の逃走劇と、いつもように機動力が活かせない上に、藩の安泰をとるか、新之助の命を取るか苦悩する松永源吾の暴発寸前の姿にハラハラする展開となっている。

加えて。火盗改をものともせずに新庄藩屋敷に訪れる加賀鳶や、悪党ながら新之助を助ける八重洲定火消しの頭領・進藤内記であるとか、「ぼろ鳶」が今まで培ってきた人間関係が読みどころですね。

お待ちかねの火消しバトルシーンは、今回は「火事」の場面ではなく、新之助が橘家の末娘で真犯人に囚われている「玉枝」を救出するシーン。新陰流の祖である剣聖・上泉信綱の伝説の秘剣「転(まろばし」」が新之助の手によって蘇ります。

【レビュアーから一言】

表題の「玉麒麟」は、今巻のメインキャストである新之助が剣の腕で「麒麟児」と呼ばれていたこともあるが、水滸伝のに出てくる梁山泊第二位の天罡星(てんこうせい)の生まれ変わりの「盧俊義」の別名。
盧俊義の別名は、彼が、風采、人格、気品が備わっていることによるのだが、これが、おしゃべりで、美味いものに目がなくて、少々「軽い」新之助にどう結びつくのかは本書の最後のところででてきます。新之助と見合い相手の「琴」との恋愛の行方とあわせて、最後までお付き合い願います。

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コメント

  1. 名無し より:

    「食って」ではなく「喰って」でしょう。

    「火消し盗賊改」ではなく「火付盗賊改方」でしょう。

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