ナンバーワン花魁の熱い期待に、彦弥はどう応える? ー 今村翔吾「夢胡蝶 羽州ぼろ鳶組6」(祥伝社文庫)

前巻で徳川治斉一橋卿の意をうけた幕閣によって、方角火消のお役免除にされそうになったのだが、田沼意次の機転によってからくも逃れた新庄藩大名火消「ぼろ鳶組」の次の舞台は「吉原」である。

これまでこのシリーズで吉原遊廓の火事の応援に「ぼろ鳶組」がでかけたことはなかったのだが、本書によると、それは吉原火消が定火消や大名火消などの武家火消、町方でつくる四十八組の町火消のどちらにも属さず、遊郭の妓楼で組織する火消し組織で、吉原以外は守らなない、ということもあるのだが、吉原の妓楼が全焼すると郭外で営業できて、しかも税金免除という特典のため、楼主たちが「消火される」ことを好まなかった、という事情にあるようだ。

そんな未踏の地「吉原」でおきる不審火の原因究明をするため、田沼意次の命令によって、松永源吾、寅次郎、彦弥が乗り込んでいくのが今巻である。

吉原の不審火になぜ、田沼意次が乗り出してきたのかっていうのは、単なる防火の面とか、治安の面とかの政治の表の面だけでなく、本音のところは、政治の裏の面、徳川治斉一派との暗闘に原因があるのだが、詳しくは今巻の終わりの方で明らかになる。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 花の牢獄
第二章 不夜城
第三章 吉原火消
第四章 遊里の闇
第五章 転(うたた)
第六章 女の夢
第七章 谺(やまびこ)弥彦

となっていて、まずは、ぼろ鳶組の花纏の「彦弥」が、吉原の大見世「醒ケ井」の火事現場から、売れっこの花魁・花菊を助け出す所からスタート。花菊救出の場面で、焼け死んでもかまわないと駄々をこねる花菊に、彦弥が「小諸屋の蕎麦が食べたい」「火消しの活躍がみたい」といった彼女の5つの願いを叶えてやると約束するのだが、このへんがどうなるか今巻の展開の中で、隠し味的に顔を出してきます。

話のほうは、遊郭の誰もいないはずの遊郭の客の待機部屋の出火に始まる6件の火事の犯人捜しなのだが、出火した店も違えば、出火した部屋から遊女がでてきた、という証言や、材木商の若旦那が光るものをもって部屋に近づくのを禿が見た、であるとか、見世に「紅蝿」という火付け道具で放火されたり、と犯人らしきものもやり方もバラバラで、犯人像が一つに絞れていかない、という筋立て。

さらには、「紅蝿」というのは火消しぐらいしかその存在を知らない特殊なものなのだが、麹町定火消の頭の「日名塚要人」が、源吾たちより先に放火のことを調べ回っていた、といったことも明らかになってきて・・・という展開。遊郭内の捜査とあって源吾たちも捜査に苦戦するほか、最初出てきた「花菊」はどうやら「彦弥」に惚れたようで・・・、といった甘酸っぱい物語も並行するので、いろんな味が楽しめえものに仕上がってますね。

おなじみの火消しアクションシーンは、石油をかけられて大炎上する廓の二階に取り残された幼い「禿」の救出シーンと巻に終盤の遊郭「醒ケ井」を舞台にした火付けの黒幕との対決の場面なのだが、いずれも主役は「彦弥」。しかも、火事が収まった数日後にも「決め所」が用意されてますね。

【レビュアーから一言】

今巻は、「吉原」が舞台とあって、江戸時代の遊郭の風情であるとか、吉原内の火消しであるとか、ちょっと変わった話もでてくるところが儲けもの。普通の時代小説の「遊郭」の話とはちょっと異色な「吉原」が興味深いですね。

夢胡蝶 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)
 
 
 
 
 
 
 
 

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