京都に巣食う「火付け妖怪」に「火喰鳥」が挑む ー 今村翔吾「鬼煙管 羽州ほろ鳶組4」(祥伝社文庫)

加賀藩の加賀鳶と並んで、江戸の火消し組を代表する火消しとなった羽州新庄藩の大名火消しの活躍を描いた「羽州ぼろ鳶組」シリーズの第4弾。

今回のフィールドは、江戸から遠く離れた「京都」。ここの供与西町奉行として赴任している「長谷川平蔵」の要請を受けて、ぼろ鳶組の「松永源吾」「加持星十郎」「魁の武蔵」が、京都に出没する謎の火付け犯と対決するのが本巻。

源吾たちを京都に呼び寄せたのは、初代長谷川平蔵(本名 長谷川宣雄)で、今回、池波正太郎さんの「鬼平犯科帳」で有名な二代目長谷川平蔵こと長谷川宣似(本書では、まだ「平蔵」を襲名していないので「銕三郎」という名前になってますね)と出会う設定となっていて、あれこれ喧嘩はするのだが、二代目平蔵も、次巻以降の重要なキャストになってきますね。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 火車
第二章 本所の銕
第三章 湧く炎
第四章 宵山
第五章 あの日の竜吐水
第六章 京都怪炎
第七章 隠れ鬼

となっていて、まずは源吾たちが呼び寄せられる二ヶ月前、「暦」作成をめぐっての朝廷と幕府の主導権争いの助太刀のため、星十郎が京都に行っていたときの怪異な事件の紹介からスタート。
その事件は、水を満たした大桶に人を閉じ込めて溺死させるという連続殺人で、「青坊主」という妖怪の仕業では、と恐れられているものであったのだが、星十郎が江戸へ帰った後、この殺人事件の犯人の疑いの強かった男の葬式が今回の話の本当の発端。

その男は河原で首を切断されてた状態でみつかったのだが、その葬式の途中に突如首から煙が出、火を噴く、さらには経帷子からも火が出て、妖怪のタタリかと消火をためらううちに大火事になったというもので、こうした葬式での自然発火と大火事が相次いで起きるため、源吾に救援を求めたという次第である。

平蔵に助けを、求められた源吾たち「ぼろ鳶組」のメンバーは当然意気に感じて捜査を始めるのだが、火消しならともかく、事件の捜査に門外漢の火消しをわざわざ江戸から呼んだことが面白くない平蔵の息子・銕三郎はなにかとつっかかってくる。さらには、手柄を先に立てようと、事件の鍵は、被害者の葬式をあげた寺にある、と京都の大きな寺院に乗り込んで犯人扱いするものだから、京都人のプライドを逆撫でし・・・、といった前途多難な滑り出しをしていくのである。

話の本筋のほうは、源吾と同行してきていた「魁の武蔵」が、彼が尊敬する「竜吐水」のカラクリをつくる職人を尋ねるあたりから、犯人の真相に結び付きはじめる。もっとも、火付けのやり方から、この師匠のところにある最新の「消火機」が関係しているのではと推理し、この師匠か、後を継ぐ女性六代目を疑うのだが、これはガセ。ここは犯人の動機やら人となりへとつなげる導線ですな。事件の犯人は、このカラクリの師匠の関係者で、女性六代目に関係した「恨み」を晴らすため、といったところであるのだが、ネタバレはここまで。

注目の火消しアクションシーンは、京都の祇園祭での放火のところと、六角獄舎と呼ばれる凶悪犯ばかりを収監した牢屋敷への放火のところ。祇園祭のところでは、京都で知り合った、浪人上がりの淀藩の大名火消しとの協働シーンにスッキリするのだが、最後の六角獄舎の放火は京都中を巻き込む大規模なものになってしまい、関係者の犠牲も出てちょっと悲しい場面も含まれてます。

【レビュアーから一言】

今回の事件でも遠くから糸を引いているのは、徳川一橋卿で、その京都での重要な役割をするのが土御門家。
土御門家といえば安倍晴明の末裔で、夢枕獏さんの「陰陽師」では正義の味方で安倍晴明の子孫も時代を経て権威とお金がくっつくと悪役扱いになるのが哀しいところではありますな。
ちなみに、この話でも出てくる「暦」の編纂は、江戸幕府ができたあたりから騒動のもとがくすぶっていたもので、1685年の貞享暦、1745年の宝暦暦、1797年の寛政暦といった暦の改定のときには幕府と朝廷との主導権争いが起こっていたようですね。
本書で、朝廷(土御門家)に主導権を奪われたというのは「宝暦暦」のことで、土御門家が将軍吉宗の死で幕府が浮足立つところに乗じて作成したのだが、不備が多くてつくって13年後に改定される欠陥品。昔の権威を取り戻そうとした付け焼き刃はすぐ折れるという見本みたいな話になってしまってますね。

なお、「貞享暦」作成の主力となった「渋川春海」は沖方丁さんが本屋大賞を受賞した作品「天地明察」の主人公でありますね。囲碁の家に生まれながら、自分の才能の限界に悩み、幕府の天文方に転じて日本最初の「和暦」を作成した春海の生涯が透明な筆致で描かれてます。

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