税理士母子の誘拐殺人事件に隠された真相は? ー 吉川英梨「通報者」

「昨今、急増するストーカー犯罪やDV被害に苦しむ女性を救うため」という名目で警視庁に新設されてはいるのだが、実は女性が絡む事件であればどんなものでも首を突っ込むという「女性犯罪捜査班」を舞台に、「ハラマキ」こと「原麻希」警部補が活躍する、『警視庁「女性犯罪」捜査班 警部補・原麻希』シリーズの第3弾。

第1弾と第2弾は、サイコパス風味の強い連続殺人事件であったのだが、第3弾はそれとはちょっと違って、夫の不倫と育児不安に悩む。元バリキャリの専業主婦の孤独が主テーマとなる事件に「ハラマキ」が挑む仕立てとなっているのだが、ハラマキ、夢美、鍋島というメンバーがまさかの捜査妨害をしでかしてしまう筋立てでもある。

【構成と注目ポイント】

構成は

前編「東中野母子営利誘拐事件」
並びに「立川市残堀川女性全裸死体遺棄事件」
後編「町田市雑木林女性連続殺人事件」
並びに「ヴィラ東中野三人殺し」

となっていて、まずは前編では、税理士・野原勇樹の妻・倫世と息子・敬太が誘拐され、その身代金の受け渡しで、女性犯罪捜査班のメンバー「原麻希」と「星野夢美」がドジを踏むところから開幕。この誘拐事件では、身代金の受け渡し現場とされていた代々木駅西ロータリー付近で張り込んでいた捜査員が犯人をおさえる予定だったのだが、警察の張り込みに気付いた犯人から、「警察ヲマカナイト、取引ハ中止スル」と連絡があり、身代金を渡すはずの夫・野原が警察を巻いて逃走する。野原は犯人の指示なのか、新宿から特急「あずさ」に乗り込み甲府へ向かい途中で、休暇中を急遽呼び出された「女性犯罪捜査班」の二人が、彼に不用意に接触し、犯人からの連絡が途絶えてしまった、というもの。
もうひとつの事件は、雨で増水している立川にある残堀川で女性の全裸死体が発見されるのだが、死因が後頭部に外傷を受けたあとがあり、犯人が死亡した被害者を川に遺棄したと思われるもの。

一見、関係ないと思われる2つの事件が捜査が進むにつれ交錯し、一つの事件となっていくのだが、最初の誘拐事件のほうは、秋川の渓谷で母子の遺体が発見されるのだが、身代金が200万円という高額ではないことと、この野原夫妻の夫の方は、現在勤めている税理士法人から独立しようとしていることと、妻の倫世も以前、同じ税理士法人で税理士をしていて、経営者の脱税指南を摘発しようとして辞職した、といったこともあり、単純な誘拐事件とも思えないような事件展開をしてくる。そして、夫の野原勇樹の不倫も発覚した上に、全裸で発見された女性が、その不倫相手・海老名真以子であったこともわかり、さてはこの男が三人を・・・といった筋立てで進んでいくのが前編。ただ、犯人として疑われている野原は、不倫相手のマンションに行ったところ、三人がすでに死んでいた、という主張を繰り返し、犯行は認めない、というところで後編へ。

後編のほうは、女子大生が男に強姦されそうになって抵抗したところを撲殺される事件が起きるのだが、その捜査に参加していた前巻で登場した「残念なイケメン」鍋島巡査部長が現場で、死亡していた女性の死体に躓いて道路に蹴り出してしまい、現場をめちゃくちゃにしてしまう、という「ザンネン」な所業に及んでしまう。女性捜査班の関係者が度重なる捜査妨害をやってしまう事態となる。そして、この殺された二人の女性のうち、一人が、前編の野原税理士のマンションの下のフロアに住んでいた舞原敦子という女性で、正義感にかられて、いろんなことをネットにアップしている人物であることが判明。前編で亡くなった野原税理士の妻・倫世のことも、自分の息子を虐待しているとネットにアップしたことがあるらしい。そして、「残念なイケメン」鍋島が、この事件を解決する二人に共通するキーワードを見つけた、というのだが、意外にもそれがヒットして・・・、という展開である。

ネタバレを少しすると、虐待を訴えられた野原倫世は、もともと正義感の強い潔癖症の女性で、息子の泣き声が他の部屋に響いていないか心配で防音マットを二重に敷き詰めるほど。そんな彼女が、自分が虐待しているとネットにアップされてことを気に病まないはずがなく、息子の泣き声をなんとかしようとする行為と、ネットにアップした犯人探しが、不幸な形でリンクした事件ですね。これより詳しいことは原書のほうで。

【レビュアーから一言】

捜査活動での「ザンネン」な行動の目立つ鍋島クンなのですが、「きょん連続傷害事件」を八丈島署のときに見事に解決した女性犯罪捜査班のホープ・夢美ちゃんは気になってしようがない男性らしく、その気配に気付いた「ハラマキ」がなにかと二人をくっつけようと、証拠調べのためのホラーDVDを二人で長時間鑑賞する機会を捻出したり、となにかと画策を始めます。捜査の方とは関係ないエピソードなのですが、ちょっとした息抜きとなるシーンで、当方は「好み」のエピソードですね。

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