若だんなは一人前に稼ぐことができるか?ー 畠中恵「たぶんねこ しゃばけ12」

祖母の血筋のおかげで「妖」の姿を見ることができる病弱な廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな・一太郎と、彼を守るために祖母が送り込んだ妖「犬神」「白沢」が人の姿となった「仁吉」「佐助」、そして一太郎のまわりに屯する「鳴家」、「屏風のぞき」といった妖怪たちが、江戸市中で、一太郎が出会う謎や事件を解決していくファンタジー時代劇「しゃばけ」シリーズの第12弾が本書『畠中恵「たぶんねこ」(新潮文庫)』。

今巻では、いつも病気がちの若だんな・一太郎がどういうことか二ヶ月間。全く病にかからなかったところから開幕します。この状態をなんとか半年間続けて、若だんなが完全に丈夫になるよう、仁吉と佐助は一太郎に5つの条件を出します。さて、この条件を守って、若だんなは健康体になれるのか、というのが大筋の展開ですね。

【収録と注目ポイント】

収録は

「跡取り三人」
「こいさがし」
「くたびれ砂糖」
「みどりのたま」
「たぶんねこ」

となっていて、第一話の「跡取り三人」は、本シリーズの主人公・廻船問屋兼薬種問屋の長崎屋の一人息子・一太郎のほか、大店の息子たち三人が、両国の盛り場で、それぞれの腕一本でいくら稼げるか競争をする、という話。事の発端は、大店の主人や跡取りたちが出席する「寒蜆を味わう会」で、盛り場を仕切る「大貞」の親分が余興的に持ち出したものに、若だんな・一太郎がのっかったことから。この稼ぎ競べに参加する跡取り息子は、病がちの長崎屋の一太郎、剣道が好きな煙管問屋の跡取り・小一郎、柄はでかいが声もでかい塗り物問屋の跡取り・幸七というメンバーなのだが、誰もが自分の腕で稼いだことのない坊ちゃん育ちばかり。さて、どうやって稼いでいくのか・・・、という筋立て。以外に、一太郎が菓子の販売で健闘するのだが、持ち前の体の弱さで脱落したあたりから、競争自体が別の方向へ進んでいきますね。

第二話の「こいさがし」では、長崎屋の女将・おたえの縁戚にあたる「おこん」という娘が花嫁修業のための行儀見習いにやってきます。ところが、この「おこん」、料理・裁縫・掃除など家事のすべてがまるで苦手な上に、家事修行から隙きさえあれば逃げ出そうとする娘さんなのですが、嫁入りする気はたっぷりある、という、娘さんです。そんなところに、第一話で稼ぎ比べを提案した「大貞」親分の一番の手下が、親分が仲人として請け負った「見合い」がうまく仕上がるよう助けてくれ、と若だんなを頼ってきます。さらに、利根川の河童の頭目・禰々子も、手下の妹の娘の縁談をまとめてくれないかと頼んできて・・という展開。ここに、「見合い」というものに興味津々の「おこん」が絡んでくるので、かなりの混乱が展開されることになります。

第三話の「くたびれ砂糖」は、菓子屋で職人修行をしている栄吉が、新しく入った小僧たちの世話と指導を任されて苦労する話。というのも、この小僧たちが入ってから、栄吉の修行する安野屋の主人も番頭も腹が下り続けて寝込んでいて、彼らの面倒を栄吉が一手にみているのですが、この小僧たちが、将来は菓子屋を出すと約束されていて気位の高い「梅五郎」団子と茶を商う店の子供で誰にでも生意気な口をきく「平吉」、医者志望で菓子屋が好きでない「文助」という面々で、彼らは、菓子作りの下手な栄吉を内心バカにしていて、まったく言うことをきかない、という展開です。ただ、彼らが長崎屋で商売物の砂糖の袋を破いてぶちまけたり、安野屋の主人と番頭の腹下しの原因となるものを薬に混ぜて飲ませていたり、といった事態がおきたため、若だんなが妖たちとともに解決に乗り出す、という展開です。少しネタバレすると、いつもなら大団円が待っているこのシリーズの話っぽくなく、三人の小僧さんの将来が心配される結末になってますね。

第四話の「みどりのたま」は仁吉らしい人物が記憶喪失にかかっている間の話です。隅田川のほとりでびしょびしょに濡れた状態で意識を取り戻した彼は、掏摸にからまれたり、年齢がいってボケてしまった「古松爺さん」という老人の「神の庭に帰りたい」という望みを叶えるために一肌脱ぐことになったり、といった筋立てです。

最終話の「たぶんねこ」は、若だんなのところに、祖母の知り合いの妖怪・見越し入道が「月丸」という幽霊をつれてきて、江戸で暮らせるかどうか判定してくれ、という依頼をもってきます。この幽霊は、見越し入道の「巾着」に入って連れてこられるのですが、その巾着の口を開けた途端、若だんなと袖内の鳴家たちもその中に吸い込まれてしまい、江戸のどこかに放り出されてしまいます。若だんなと鳴家たちは、その幽霊・月丸が江戸で暮らしていけるか放り出された江戸の街で一緒に確かめることとなるのですが・・・という展開です。この幽霊の月丸は、江戸市中で生活するため、いろんなものに化けるのですが、それがいずれもそのものにドンピシャの化け方ではなくて「たぶん」がつく化け方であるのが標題のわけですね。

【レビュアーから一言】

仁吉と佐助が、若だんなが完全な健康体になるために出した5つの条件というのが
①離れで、ただゆっくり過ごすこと
②恋はお預け
③栄吉のことも心配しない
④妖が間抜けをしても、それをなんとかするために外出はしない
⑤体に障るような災難に巻き込まれない
といったものだったのですが、半年間、この条件を守れたかどうかは、本巻に収録されている話のそれぞれの結末で明らかですね。その結果どうなったかは、今巻末の「終」のところで明らかになっているので、そこのところは原書のほうでどうぞ。

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