福家の永遠のライバルっぽい老夫婦登場 ー 大倉崇裕「福家警部補の報告」

警視庁の捜査一課に属する刑事なのだが、眼鏡をかけ小柄。化粧っ気はなく、地味な色のスーツにショルダーバッグという地味な様子で、警察手帳の在り処がいつもわからなくて、事件現場では所轄の警官たちに足止めをくう、なんとも風采はあがらないのだが、捜査の肝を見抜く目と推理は抜群、という女性刑事・福家警部補の活躍を描くシリーズの第3弾。

今回のターゲットは、売れっ子漫画家、解散したヤクザの組の若頭、引退した老夫婦の犯行ですが、事故死偽装、仲間割れ偽装、正義の味方の爆破殺人、と犯罪の種類は多様です。

【収録と注目ポイント】

収録は

「禁断の筋書き(プロット)」
「少女の沈黙」
「女神の微笑み」

となっていて、第一話の「禁断の筋書き(プロット)」は、売れっ子漫画家の女性敏腕編集者殺しのトリック崩し。この漫画家と編集者は、彼女たちが学生の頃からの知り合いで、もともとは二人で同人誌をつくってデビューを狙っていたという、もともとは仲良しの二人。ところが大学卒業間近の時、二人のうちの一人・河出みどりのほうにだけ出版社からデビューのオファーがあり、もうひとりの三浦真理子は漫画家の道を断念した、というところから二人の愛憎劇が始まった、というもの。

真理子は漫画家の道を諦めて編集者として就職し、めきめきと頭角を表す。そして、売れっ子になっていた「みどり」が連載をもつ出版社のコミック部門の営業部長になると、みどりの連載を打ち切ったりして、彼女の漫画家としての将来を潰そうと動き始め・・という設定ですね。犯行のほうは、真理子の妨害をなんとかやめさせようと説得にきたみどりが拒絶されての「衝動的」なものなのですが、殺人を事故死とみせかけるため、風呂で酔っ払った末の転倒、溺死という偽装工作に福家警部補が疑惑を抱いてくいついてきます。

第二話の「少女の沈黙」は、解散したヤクザの組のトップの弟が、トップの娘を誘拐して、トップを脅迫して組の再興を図ろうとして起こる事件。その娘を救い出すため、組の元若頭・菅原がその弟を殺害するのですが、彼が殺したとわかれば、更生しようとしている「若い衆」への動揺は避けられません。
菅原は彼の知り合いのチンピラを犠牲にして、誘拐犯たちの仲間割れで死んだように偽装するのですが・・という展開。犠牲になったチンピラが、当り馬券を持っていたことから、副家警部補によって偽装が崩されていきます。

第三話の「女神の微笑み」では、銀行強盗を企んでいた三人組を、彼らの荷物をすり替えて爆死させる老夫婦が登場。彼れは爆発物や機械の知識も豊富で、どうやら過去の事故死として処理されていた不審死に関わっていた疑いが浮上します。その事故死の対象となったのは、社員をパワハラで自殺させていた企業の社長とか、殺人の容疑がありながら逃走していた男とか、法の目をくぐり抜けた犯罪者ばかりです。そして、この老夫婦を、捜査一課を出し抜いて、組織暴力対策課が確保するのですが、なんと・・・といった筋立てで、この老夫婦は、福家警部補のこれからのライバルとなりそうな雰囲気の成り行きです

【レビュアーから一言】

今巻でも、福家警部補の「オタク」ぶりは炸裂していて、第一話では、犯人と被害者の描いた漫画をコミケ時代から集めているのが発覚したり、第三話で犯人の夫婦とミニヘリコプター談義が始まってしまいます。さらに極めつけは、家に帰る暇がなくてキャッシュカードを家に忘れたままでお金をおろす暇がなくて、同僚から昼食代とかお金を借りまくっているといった事態で、これをうまく捜査の聞き込みのネタに使っている気配があります。スマホがあれば何でもできる今であれば、福家警部補もまた別の手段を考えるのでしょうか・・・。

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