刑事らしくない女性捜査官の推理の冴えを楽しもう ー 大倉崇裕「福家警部補の再訪」

警視庁の捜査一課に属する刑事なのだが、眼鏡をかけ小柄。化粧っ気はなく、地味な色のスーツにショルダーバッグという地味な様子で、警察手帳の在り処がいつもわからなくて、事件現場では所轄の警官たちに足止めをくう、なんとも風采はあがらないのだが、捜査の肝を見抜く目と推理は抜群、という女性刑事・福家警部補の活躍を描くシリーズの第2弾。

完璧に近い偽装工作を施した犯人を、その風貌で安心させて犯罪の核心をポロッとつぶやかせたり、夜討ち朝駆け的にいたるところに出没して聞き込みをするネチッコさでトリックを解き明かしたり、とやることと風貌のギャップの激しさが魅力の福家警部補が、今巻では、業績のいい防犯メーカーの社長、売れっ子脚本家、ピンで売出しを狙っている元人気漫才コンビ、新作がバカ売れの模型会社の社長の「犯行」を暴いていきます。

【収録と注目ポイント】

収録は

「マックス号事件」
「失われた灯」
「相棒」
「プロジェクトブルー」

となっていて、第一話の「マックス号事件」は、豪華クルーズ船内での殺人事件。警備会社の社長が、昔取引のあったフリーの探偵業の女性をクルーゼ船内の客室で警棒で撲殺する。防犯グッズの売れ行きが好調でアメリカ進出を控えて、昔の恐喝事件をネタにゆすられてきた、その助成との腐れ縁を生産してしまおうという目論見なのだが、彼女に同じようにゆすられていた男を船に乗せておいて、殺人後、部屋におびき寄せて、その男の犯行と見せかけたり、ゆすりの証拠のテープを海上に登記しあっとみせかけてデッキに転がしておくという偽装工作も完璧である。さて、福家警部補はどう切り崩していくのか・・・といった筋立て。犯人の前に何度も現れて質問し、相手の不用意な証拠隠しを潰していく手腕は相変わらず見事です。

第二話の「失われた灯」は売れっ子の脚本家が、デビュー当時の盗作を隠しすために、その証拠を握って揺すってくる、自称古物商の男を殺してしまう事件。売れない俳優志望の男にオーディションと騙して、自らの誘拐事件をでっち上げ、古物商殺しのアリバイをつくるという仕掛けです。もちろん、俳優志望の男は、誘拐現場から逃げようとして正当防衛で殺してしまった、という形で口封じがしてあります。今回の事件では、犯人に殺される古物商が、犯人と会う時間(その時に彼は殺されてしまうのですが)を急に変更しちぇくるのですが、その理由が何だったのか、といったあたりが興味の的になりますね。

第三話の「相棒」は、人気が落ち目になってきた漫才コンビの間の殺人事件。落ち目になったところで、コンビのうちの一人に「ピン」で再デビューする話が持ち上がるのですが、コンビのかたわれは師匠の命日までは解散しない、と言いはります。自分の独立を邪魔しようとしているのだ、と思った片方は、相方を二人が共同で借りている別荘に呼び、鍵を失くしたため、二階のベランダから出入りしようとする相方を突き落として殺してしまいます。その相方は最近忘れぽっくなっていて、鍵とかもなくすし、漫才のネタもすっとばかしてしまうといった失敗があったのですが、それにはわけがあって、彼が師匠の命日までは解散しない、という理由とも関連して・・・、という展開です。

第四話の「プロジェクトブルー」は、新興の模型会社の社長が、会社創設時に手を染めていた、レア物のソフビ人形の贋作の秘密を握る、売れない造形作家殺し。その造形作家を殺した後、その作家の車で、殴った頭部を轢いて事故死に見せかけるという偽装工作を施すのですが、その造形作家の家を訪れる前に、模型の塗料メーカーからもらった試作品の塗料が発覚のきっかけになりますね。

話の最初のほうで、犯人が被害者を殺してしまう場面と、犯行を隠す偽装工作が描かれていて、そのトリックを主人公の福家警部補がどう崩していくか、といった形で進行していくこのミステリーの特徴は健在で、ひょこひょこと犯人のもとへしつこく現れて捜査してくる福家にじれて、追い詰められていくところが読みどころですね。犯人の怒った発言に引き下がるとみせかけて、「あ、もう一ついいですか」と聞いてくる、福家の計算された無神経さがいい味だしてますね。

【レビュアーから一言】

今巻で明らかになるのは、福家警部補の意外な「オタク」ぶりです。第二話では、廃盤になりそうな旧作映画のビデオを所蔵しているレンタルビデオやで、古い名作映画の知識を披露したり、第三話では、演芸場のオールナイトにでてくる、人気のない漫才コンビや芸人たちの話で、演芸場のオーナーを元気づけたり、第四話では、戦隊モノのフィギュアで犯人と熱い会話をしたり、といった感じです。推理マシーンのような福家警部補なのですが、このあたりは妙な人間臭さが出ていて好感がもてますね。

コメント

タイトルとURLをコピーしました